第39話 騎士長と第五位

 ロレーヌ邸からソフィアを抱えて、王都に直行する。

「どうする、城下で少し探るか?」

「街にも騎士はいるだろうし、嗅ぎまわっているのがばれたら逆に面倒じゃないかしら。」

「だな。じゃあ、玉座の間に突撃するぞ!」

「えっ!いきなり!?」

 ドカーン!!!という轟音を鳴らし、玉座の間の壁に穴が開く。

「イッテテテテ......アイギスのタイミングミスったな。」

「とりあえず侵入成功ね。ほら、寝ぼけてる暇無いわよ。」

全身鎧で覆った重装兵たちが、オレたちの周りを取り囲む。

「貴様ら何者だ!」

「騎士長殿の知り合いだよ。アリスはどこだ?」

突然扉が開き奥から現れたのは、黄緑色の髪の奥から殺気に満ちた目を向ける、気障な感じの男だ。

「お前は誰だ。」

「私はガリオ・サーロウ。使者第六位にして副騎士長。ソラト、ソフィア。お前達をこれ以上奥には行かせない。」

「そうか。なら止めてみろ。」

ガリオが、右手を前に掲げる。

空間侵食スペース・インヴェイド!」

足元に芝が広がり、周囲が密林に変わる。

「どうだ、私の固有結界は!もはやお前達に勝利は無い!」

「...喜んでいる所申し訳無いんだが。」

「なんだ?」

「あのー、使える。」

「......え?」

「いや、うん。使えるんだわ。二人とも。」

「妖精国の奥義だぜ?使える?」

ソフィアが手を挙げる。

「あたし妖精。」

「...マジ?」

「マジ。」


 固有結界が切り札だった様で、戦闘はあっさりと終わってしまった。

伸びてきた木の枝にエクスカリバーするのはオーバーキルだっただろうか。

 残った騎士たちを蹴散らし、扉の奥に進む。

「実に強敵だったな。」

「ええ、危なかったわ。」

 階段に到着したので、ソフィアに尋ねる。

「人探し魔法は使えるか?」

「ちょっと待ってて......下、地下室にいるわ。」

「よし、追手が来る前にさっさと降りよう。」


 幸い接敵することもなく地下室の扉の前まで来た。

「この扉の奥よ。」

「よし、開けるぞ...」

扉を開くと、テーブルで魔術を行使している四十代ほどの男と、椅子に座ってそれを見ているアリスの姿があった。

眼鏡の男はこちらに見向きもしないが、アリスはこちらを向くと目を丸くした。

「ソラト!?」

「久しぶりだな。そこの眼鏡の人は?」

「使者第五位のケンジさん。私の剣にエンチャントしてもらっているの。」

「ッ、使者...!」

咄嗟にオレとソフィアが身構えると、眼鏡の男が口を開いた。

「別に俺はアンタらと敵対しようってんじゃあない。他の使者の連中と違って、エルラントの信者じゃあねえんだからなぁ。」

ソフィアがオレの後ろから覗く。

「なにそれ。自分は雇われてるだけ、とでも言いたいの?」

「まあそんなところだ。あいつらはご立派な野望やらエルラントへの忠誠心で動いているが、俺はどちらでもない。むしろ俺はあんたら寄りの考えだ。」

アリスが頷く。

「彼は私たちの心強い味方よ。この数年間、いろいろと助けてもらった。そうだ!ケンジさん、やってくれる?」

「ああ、そうだったな。坊主と妖精の嬢ちゃん、こっちに寄りな。」

ケンジがエンチャントを終え、手招きしてくる。

「オメエらのステータス画面を拡張する。左手出せ。」

すると、左手の甲に複雑な文様を魔力で紡がれ、十数秒後に消える。

「ステータス画面を開け。項目が増えてるはずだ。」


ソラト

体力:752  魔力: ∞

筋力:250  防御:153

俊敏:202  技巧:151

運命:5000 存在:42504

魔術属性:鋼 神性 幻竜アルビオン

スキル:銃作成 銃操作 千里眼 超硬化 飛行

魔法 :火炎/冠 氷結/聖 雷電/聖 鋼鉄/聖 敏捷/冠 収納

神器 :女神の護りアイギス 不撓の聖剣エクスカリバー


「運命と、存在?」

「おう。運命ってのは、運命力を指している。いかに幸運を呼び寄せられるかの値だ。普通は五百かそこらだが......規格外ってやつだな。」

「存在は?」

「これは魂の重さみたいなもんだ。ハエなんかは2〜3程度だし、竜種になると、10000はザラに超える。扱える魔法やスキルのランクで上がっていく数値で、年老いたりしても下がることはない。」

「ところで、これを見せてどうなるんです?」

「見たかっただけだ。それよりここからが本題だ。」

 今までのは本題じゃなかったのか、というツッコミは心に閉まっておく。

「この数年、魔術兵装の開発を続けていた。存在力そのものを動力源にするというやつだが、お前にはピッタリだろう。」

そう言われて渡されたのは、どす黒い気配を纏った闇色の剣だ。

「ピッタリって言っても、剣上手くないからなぁ...」

 すると、ソフィアが今世紀最大の閃きをする。

「これ、スキルで銃にすれば良いんじゃない?」


 とりあえず対物狙撃銃を模した形にしたのだが、ここまで苦労した改造は初めてだ。変形の過程で構成物質の解明をした。これが訳のわからん金属で出来ている。

温度変化などの影響を全く受けず、密度はオリハルコンの約三倍。オリハルコンは現存する金属では最も重い。恐らくこの金属は、失われたとされる古代〜神代の物だろう。

「詳しい説明だ。そいつは、相手の存在力からお前の存在力を引き算する。減らないはずのモノが減ると、大きな負荷がかかる。一つや二つじゃあなんてことなくても、一気に四万も魂が減ればどんな生物だってショックで死んじまうさ。」

「じゃあ、何回も使えば絶対倒せるのか?」

「いいや、引き算できるのは一回だけだ。戦闘で消耗させた後のトドメに使うのが最適だろう。そもそも、これはお前自身にも負担がかかる。一日一発が限度だ。」

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