第40話 告白

「外せないってわけか...まあ何とかするさ。」

「それじゃあ坊主はいいとして、妖精の嬢ちゃん。その杖少し貸してくれないか?」

「どうして?」

「なに、ちょっと改造するだけだ。今の杖だと少し燃費が悪いんでな。」


「......よし、完成だ。魔力回路を二倍、魔石の稼働率を三倍にした。」

「おっさん、元冒険者だよな。そんな学者みたいな事、何で出来るんだ?」

「もともと魔法剣士だったからな。杖の改造くらいはできるさ。」

 ケンジは立ち上がると顔を険しくした。

「それじゃあ明日、四位以上の連中がいる神殿に行く。」

「えっ、ちょっと早すぎないか?」

「バカを言うな。他の奴らから報告が行くと、対策されて手が付けられなくなる。」

「それは分かった。だがどうやって行くんだ?」

「俺がそれぞれの居場所に繋がっているゲートを四つ開ける。相性的に考えると、妖精の嬢ちゃんが二位、俺が三位、アリスが四位、そして坊主が一位を相手することになる。分かったな?」

「りょうかーい。」

「それじゃあ、今日は休みましょ。私、三年ぶりに宿泊まりたーい!」

 アリスが一気に緊張を解いた。

「まあいいんじゃないか?おっさんも来るか?オレと相部屋だけど。」

「あいにく準備があるんでな。遠慮させてもらう。」

「それじゃあ行きましょう!」

 ソフィアまでテンションがおかしくなっている。ダメだこりゃ。


 その夜。月明かりが照らす宿の部屋で、ソラトは一人考えていた。

 なぜこの世界にエクスカリバーやアイギスなど、元の世界と同じ名前の武器が存在しているのか、それがずっと分からなかった。

 この世界では、神代にもたらされたものとされているが、出自がはっきりとしていない。アーサー王伝説やギリシャ神話が存在していないにも関わらず、どうしてその名前なのか。

 神代にもオレと同じように転生した人間がいた?しかしそれだと一万年以上前の人間が転生したことになる。その人間がアーサー王のことなど知るはずがない。現代人が神代に転生したのか。とすると、あちらとこちらの時間軸は同じではない。

 例えば、たくさんの世界を統治する「神」がいたとして、この世界がつい最近作られたものだとする。時の流れは必ずしも一定ではないだろうが、ならばどうして速い時流で運営されているのだろうか。いったい......

 気が付くと千里眼が発動していた。特に何かを見ていたわけではない。疲れているのだろうか。もう休もう。ソラトはランプを消し、布団にもぐりこんだ。


 その頃、隣の二人部屋では。

「ソフィアさ、ソラトのこと好きでしょ?」

「そ、そそ、そんな訳...」

「わっかりやすーい!好きならアタックしないと誰かに取られるわよ?」

「...アリスさんはソラトと付き合い長いですけど、恋愛関係ではないんですか?」

「うーん、そりゃあ信頼はしてるけど、そういうんじゃないのよねぇ。何ていうか、相棒?みたいな。」

 少し意外だった。アリスは、女であるソフィアから見ても美しい女性だ。男性なら誰だってイチコロだろうと思っていたが、身近なところに反例があったものだ。

「明日は忙しくなるんだから、今のうちに思いを伝えた方が良いんじゃない?」

 意を決して立ち上がり、ソラトの部屋の扉をノックする。

 中から少し遅れて、「どうぞ」という声が聞こえた。ドアノブを回すと、ソラトが少し驚いた様な表情をしていた。

「ソフィアか。こんな夜にどうしたんだ?」

「キミと少し話したくて。」

「...そうか。まぁ座れよ。」

ソラトが座るベッドの隣を指したので、頷きながら腰掛ける。

「それで、話って?」

 自分の思い出をゆっくりと押し出すように、話し始める。

「ソラトがあの街からあたしを引っ張り出してくれたから、楽しい思い出も、大変だった思い出も沢山作れた。辛い時には、いつもキミが隣で支えてくれて、それが心強かった。」

「あたしが地下に縛られていた時も、キミともう一度逢うために耐え続けた。だからシャーリーとの戦いで助けてくれた時、本当に嬉しかったんだよ?」

「それでね、自分の気持ちに気がついた。あたしはキミが好きなんだって。いつも隣で微笑んでいる、君の事が。」


 ソフィアはオレの隣で、心の内を語ってくれた。目元と唇に薄い笑みを湛える横顔が月明かりに照らされている。

オレはゆっくりと手を伸ばし、彼女を抱きしめた。ほんのり温かい体温と、少し早い心拍が伝わってくる。

「ああ、オレも大好きだ。ソフィア。必ず君を幸せにする。」

 ほんの一瞬見つめ合った後、オレの唇を彼女の唇に重ねる。


 翌朝、目を覚ますと彼はまだ寝ていた。時計の針は八時を指している。ソラトを起こしてアリスと合流、朝食を取り地下室に向かう。

 ケンジは床に魔法陣をちょうど描き終えたところだった。

「よし、全員揃ったな。それじゃあ出発するぞ。」

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