第41話 第四位、再び
真っ暗な穴が空間に四つ広がる。
「この中に入ると、俺が昨日伝えた相手の所に送られる。一人倒すごとに、世界の接着が一つづつ剥がれていく。準備はいいな。」
四人それぞれが別の穴に入っていく。視界が黒一色で覆いつくされる。
アリスは目を開けると、宇宙のような空間に一人佇む、黄金の甲冑の男と目が合った。瞬間、一気に距離を詰められ、咄嗟に右側に身を躱す。
「出会いがしらに斬ってくるなんて、騎士道精神の欠片もないやつね。」
「当然だ。騎士じゃないからな。というか、ソラトじゃないのか。チッ、どうせエルラントの所だろう。」
「分かっているなら話が早いわ。インチキな魔剣らしいけど、倒させてもらう。構えなさい。」
アリスは背から二本の剣を引き抜き、右手の剣をリュウヤに向ける。
「思いあがるなよ、女ぁ!!!」
リュウヤの剣が赤色の光を帯び、アリスの剣は緑色に輝く。
右上から振り下ろされる血の色の剣の腹をアリスの双剣が叩き、大きく軌道を逸らす。慣性に任せて体を捻り、一回転しながら二本の剣で斬り上げる。
バックステップで回避したリュウヤのチェストプレートが僅かに傷つく。左手の剣を前に突き出して追撃。纏っていた風魔法が解放される。鋭い突風がリュウヤの腹に叩きつけられ、二人の間に距離が生まれる。
今度は右の風魔法を解放。周囲の風がアリスに向かって流れ、リュウヤの体が吸い寄せられる。
「おのれ...
リュウヤから飛ばされた火の玉たちは風の流れに乗せられ、アリスに高速で向かってくる。中位の炎魔法だが、速度によって威力が上げられている。
しかしアリスは左手の剣に氷魔法を付与、迫りくる火の玉たちを切り裂いた。
「貴様ぁぁぁぁ!!!」
激昂したリュウヤが高速の連撃を繰り出す。刃に触れずに全てを受け切ることは出来ず、アリスの腕や肩口が切り裂かれる。
「ッ!」
ガラ空きのリュウヤの腹を思い切り突く。鎧が勢いよく砕け散り、みぞおちに浅く食い込む。必殺の威力を孕んだ突きこみだったが、リュウヤの異常な強度の肉体はそれを耐える。
「うっ、硬い!!」
アリスの体にビリビリと衝撃が走り、ほんの一瞬動きが止まる。その一瞬をリュウヤは見逃さなかった。
真紅の光がアリスに伸び、彼女の右腕は呆気なくボトリと落ちた。
「くっっっ!!!」
夜空が広がる床面に、ぴちゃりぴちゃりと鮮血が滴る。アリスは傷口を握り、中位の回復魔法を使ってひとまず止血した。腕をくっつけるのは敵を倒してからだ。
「構成要素、変換。」
アリスは左手の剣を細剣へと変化させ、再度構える。剣の概念そのものを書き換えるという高等技術に、リュウヤは眉をひそめた。
二人は再び距離を詰め、高速の斬り合いを開始する。しかしレイピアを使うアリスの方が少し速く、リュウヤにじりじりとダメージを与えていく。
―――なぜ、俺の剣が届かない。この魔剣の刃に触れたものは絶対に切断される。仮に刀身の腹を叩かれて受けられたのなら納得する。しかしこの女は、それをレイピアでやってのけたのだ。それが許せない。コイツの体を真っ二つにでもしなければ気が済まない。
リュウヤは反撃も構わず、剣を高く掲げた。魔剣は今まで以上に強い光を発し、使い手の意思に応えた。
「うおおおおおおっっっ!!!!!」
アリスは雄叫びを上げ、無いはずの右手をやや大げさに構える。何もない、そのはずなのに、アリスの気迫と凄みがリュウヤの動きを止めた。そして、作った時間をアリスは無駄にしなかった。
レイピアは再び両刃の剣に戻り、リュウヤの剣の光を遙かに超える輝きを発した。光の刀身は赤い光をも飲み込み、大爆発を引き起こした。
後に残ったのは、最後の光を儚く散らした魔剣のみ。それを墓標代わりに、床面に突き刺すと、アリスは腕を治してその場を去った。
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