第42話 最速の剣士

「アンタは...ああ、確かに。支配に興味なんて無さそうですからね。」

「ああ、解ってくれて助かるぜ。」

 一人は二十代ほどの、気品漂う片手剣使い。

一人は四十代半ばの、無骨な両手剣を担いだ中年剣士。

 二人はそれだけ語ると同時に抜剣し、超高速の斬り合いを開始した。


 上品な片手剣使い―――ディアは、冠級の敏捷魔法を扱える上に超加速スキルを併せ持つ最速の剣士だ。

 それに対しケンジは、魔力量は人並みで魔法もそこそこ。そんな彼がディアと渡り合えるのは、死と隣り合わせの修練と凄まじい実戦経験の賜物である。

 ディアの頬の皮一つが切れるが、ニヤリと笑う。

「両手剣で僕より速いのは反則でしょう。」

「今回ばかりは十年ぶりに本気だ。死ぬ気で来い、坊主。」

「ッ!!二重加速デュアルアクセル!!!」

 冠級敏捷魔法と超加速の重ね掛け。十秒間の間という制限があるものの、速度が一気に数百倍に跳ね上がる。

 神速の剣戟の応酬で、お互いに体中が小さな切り傷だらけになってゆく。ディアが大きく横に振りかぶり、ひときわ強い攻撃を放つ。ケンジは真上に流れていた剣を無理矢理引き戻し、鍔迫り合いに持ち込んだ。

「一体何をどうしたら、その速度を出せるんです?」

「全身に軽く強化魔法を掛けてるだけで、後は素の力だ。」

「やっぱり最後はフィジカルですか。」

 ディアは剣を強く押し込みケンジのバランスを崩す。ケンジは背中から着地しながらディアを蹴り飛ばす。

 ディアは地属性の魔法で砂嵐を起こし、一時的に目くらましをした。

 ケンジは目を瞑り、精神を集中させる。周囲の気配を感じ取り、視覚に頼らない技術。努力と研鑽の果てに手に入る、魔眼とは似て非なる眼。心で見る技術、心眼。

 熟練の戦士でもそれを身に着けるのは非常に難しい。精神を昂らせた戦いの最中さなかであっても、決して心に波を起こさず一定に保つ。その時に初めて成立する技。


 ディアは剣を構え、魔力の放出を最小限にした。足音を立てず、息の音も抑える。とにかく、なるべく自分の気配を遮断する。ゆっくりとケンジの背中側に回り込み、頭上から剣を振り下ろす。

「オオオオッ!!!」

 しかし、ケンジは目を閉じたまま体を後ろに向け、振り向きざまに両手剣で薙ぎ払った。

「グハッ!」

 ディアの腹が大きく切り裂かれ、傷口から血が噴き出す。しかしディアは再び剣を構え、斬りかかる。しかし深手を負った状態での二重加速デュアルアクセルは肉体に負担をかけ、ますます流血の勢いが増していく。

 そして、心眼を発動したケンジは剣の軌道を全て見切り、ディアはさらに傷を受ける。最後の抵抗も虚しく、腹を大剣で貫かれてそのまま絶命した。

 ケンジは目を開き、剣を鞘に納めた。

「―――逝ったか。」

 それだけ呟き、ソラトが飛ばされた所へ向かっていった。

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