第43話 鋼の女
宇宙空間のような世界に、たくさんの鉄塊や剣がふわふわと宙に浮いていた。
「来たか、妖精。」
立っていたのは、両腕両足と顔の一部が金属となっている女。
杖に魔力を流し、擬似空間侵食を発動する。完全に世界を塗り替えるのではなく、周囲に魔力回路を伸ばして魔法の行使を容易にするだけのものだ。魔法の詠唱簡略も可能で、大魔法の連射を想定するならば一番効率が良い。
周囲に漂う剣たちが一斉に飛んできた。結界魔法と、杖の先端の硬化によって弾くが、鉄塊たちが新たな剣に変化して飛んでくる。そしてその鉄塊は女の掌から生まれている。
周囲に小さな光の弾を生成し、高速のビームとして撃ちこむ。金属の腕に小さく穴が開くが、すぐに埋まってしまう。
「無駄だ。私の金属生成魔術を破ることは出来ない!」
「
杖の先から強い光が生まれ、極太のレーザーの様に連射する。女は金属で鏡を作るが、熱量に耐え切れずに解け始める。そして、ほんの僅かな光線が軽く脇腹を抉るにとどまった。
傷口から血が出ることはない。最初は傷口が焼けたからだと思ったが、そうではない。中には複雑な魔法陣の刻まれたプレートが回路で繋がれていた。
「
そう、彼女は戦闘にのみ特化された、いわばロボット。故に名前はなく、発言や行動パターンも戦闘に最適化されている。
オートマタ自体はさほど珍しくもないのだが、基本的には戦闘ではなく家事手伝いとして利用されることが多く、高度な戦闘プログラムを保有する物は少ない。
かつて彼女を開発した天才魔術師は、不治の病にかかった。当初開発していたオートマタには上級魔術程度しか組み込む予定はなかった。
しかし自らの才能を残したかった彼は、人生をかけて研究していた「金属生成」の魔法を組み込んだ。十年以上前に病死し、その後遺品整理をしていた弟によって発見、Xランクの冒険者として彼女と弟が登録された。
その後、エルラントによって弟は殺され、彼女は使者に改造されたのだ。
脇腹の魔法陣が露出したオートマタは、自己修復プログラムを起動。剣を飛ばす攻撃と並行して行う。
しかし、先ほどに比べて攻撃が格段に遅い。ソフィアは防御を杖での弾きのみに限定し、また弾くと同時に魔力を少しばかり流した。攻撃を終えた剣は空中に留まり、しばらくするとまた突撃を開始する。
五十本ほど弾いたところで修復が八割がた終了し、攻撃の速度が上がり始める。
防御を再び結界に移行し、剣に流した魔力を回路に変換していく。周囲の擬似空間侵食と反応して、ソフィアが周囲に放つ魔力が剣に蓄積されていく。
ソフィアの制御下となった剣は、オートマタに切っ先を向けて漂っている。
攻撃がほんの一瞬止まった隙に、ソフィアは杖を地面に叩きつけて唱える。
「
空中を漂っていた剣たちが一斉に光を放ち、オートマタの躯体を焼き尽くす。焼け跡に残ったのは僅かな量の煤のみ。それを見届けたソフィアはソラトの元へと向かった。
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