第44話 時間の支配者

「たった数年であの傷をよく治せたね、ソラト君。」

「ああ、ぐっすり眠ったからな。」

「ハハハ、熟睡できたなら何よりだ。じゃあ今度は永遠に眠ってもらおうか。」

「悪いがオレは夜更かしするんだ。先に一人で寝てくれ。」

 一気に数十メートルほど後ろに飛び、不撓の魔弾エクス・ライト・バレットを二十門で発射する。一瞬ラグのような感覚があり、気づくとかなり距離を詰めたエルラントと目が合う。

 しっかりと女神の護りアイギスで剣を受け、レールガンのような、弾速の速い物で反撃する。基本的に全て弾かれるが、時々抜けた小さい弾が掠る。

 移動速度と距離をもとに千里眼で計算した結果、時間を止められるのは五秒弱であることが分かった。依然として時間停止中を見ることは出来ないが、少なくとも七十メートルの距離を取れば安全だ。

 結果の先取りで剣の一本でも弾いてやりたいが、あくまでも「物理的に可能な状況で過程を省略する」のであって「物理的に不可能な事象を無理矢理引き起こす」ものではない。

 詰まるところ、オレの平凡な剣術ではコイツの剣技には食らいつけないということだ。


 最初の時間停止から十秒が経過したタイミングで、オレは再び女神の護りアイギスを展開した。真後ろで激しい金属音が鳴り響き、振り向くとエルラントがアイギスに阻まれて体勢を崩しているところだった。

 咄嗟に連射速度の高いマシンガンを放つが、数発命中したところで立て直された。

「時間停止を体感したのかい?」

「いや、クールダウンの終了時間を山勘で当てただけだ。」

「なるほど、思っていたよりもやるらしいね。」

 しばらく近距離での戦闘が続き、時間停止のクールダウンが終了する直前。剣を背中側に振りかぶる真似をして強い光の玉を握り、ヤツに聞こえる声量で呟く。

不撓のエクス―――」

 エルラントの顔色が変わり、復活した時間停止能力で距離を取る。しかしオレは大規模な神器の展開はしていない。あくまでも驚かせて時間停止を消費させるためのブラフだ。

 咄嗟に回避行動を取ったエルラントの腹はガラ空きだ。防御のいとまも与えずに、無詠唱で不撓の魔弾エクス・ライト・バレットを放つ。下腹部から鳩尾みぞおちにかけて大きな穴が開き、血が噴き出す。

 突然、零れる血液が針の様に尖り、深紅の槍が超音速でソラトの左肩を貫いた。

「血液の操作...お前まさか。」

「ああ。人間と吸血鬼のクォーターだよ。だから晴れの日は肌がヒリヒリする。」

 焼けるような痛みで苦い顔のソラトに対し、エルラントは澄ました顔だった。先ほどまでは体が千切れんばかりの大穴が開いていたのに、いつの間にか硬貨ほどの小さな穴になっていた。

 ソラトは痛みを抑えるように傷口をグッと握り、回復魔法を掛けた。聖痕を癒せる魔法ではないが、鎮痛には十分だった。

 エルラントは時間を止めて背後に回りこみ、ソラトの腹を貫いて地面に突き倒す。

時が動き出し、不意を突かれたソラトは僅かに息を漏らす。状況を一瞬で判断し、ソラトはエルラントの背後にライフルを出現させて、以前吸血鬼戦で用いた銀の弾丸を撃ちこんだ。

 弾丸の接触部が爛れ、傷口が広がる。肉が焼けるような音とともに、傷口から白い煙が立ち上っていた。

 エルラントは剣を引き抜き、よろよろとした足取りで距離を取る。だがこちらとしても、ここで逃げられるわけにはいかない。エルラントの中に僅かに混じったオレの血液を銀の弾丸に変化させる。体内で爆発が起こり、エルラントの血は花火の様に飛び散った。

 肉体が四散してもおかしくない威力にも関わらず、エルラントは五体満足で立っていた。

「......なかなか...やるじゃあないか......負けたよ。」

「...最後に教えてくれ。神って一体何なんだ。」

「......ああ、君には知る権利がある。分かった、話すよ。」

 彼が語ったのは、この世界ほしが生まれて間もないことと、神の目的が世界の破壊であることだ。

「キミを呼んだのは神ではなく、この世界ほしそのものの防衛本能だ。この世界は生まれた時点で、滅びを予見した。それが一人目、君が操るスキルを残した人物だ。そして、タイミングよく君の魂が現れた。」

「でも、どうして神はこの世界を滅ぼそうとしているんだ。」

「人間らしい理由だよ。二つも世界があるのは面倒くさいからさ。」

「そんな、理由で...?」

「ああ、実際に聞いてみると良いさ......これより、この場に神を降ろす。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る