第45話 神殺し

 神を降ろす。言葉の意味が一瞬理解できなかった。この場で依り代にできるものは何もない。一体どうやって......

「―――まさか。」

「ああ。僕そのものを依り代とする。」

「どうしてそこまでして世界を壊そうとするんだ。」

「僕は壊そうともしていないし、支配しようとも思わない。すべてが嘘だよ。」

「―――――は?」

「本来神を降ろすはずだった場所は、最初に会ったあの祭壇だ。僕はずっと、神も、ケンジ以外の仲間も、みんな騙していたんだよ。―――世界を守るためにね。」

「なら、どうしてオレと戦うんだ。」

「僕たちを監視している神を騙すためだよ。僕の体に馴染みつつある神はもう、降臨の中断は出来ない。だから時が満ちるまでは、本気で演技をしなきゃダメだったのさ。」

 つまりこいつは、神に協力するふりをして、神ができる限り不利な状況で受肉をさせるという事。

「......そうか。お前はオレに、神を殺せと言っているんだな。」

「ああ。負けた方が依り代にならなければならない。そういう戦いだったんだ。」

「...ところで、攻略法はあるのか?」

「当然さ。君はそのための道具を受け取っている。」


 戦いを終えた他の仲間たちがやってきた。ケンジが懐かしむような眼で言う。

「ようやくお前の旅に意味が生まれるな。エルラント。」

「ああ。英雄ソラトたちのフォロー、頼んだよ。」

 周囲のオーラが一気に強まり、エルラントの意識が途絶える。

「坊主、覚悟はできているな?」

「当然だ。」

 ソラトは振り向いて言った。

「アリス。ソフィア。悪いけど、手伝ってくれ。」

「当然よ。」

「援護は任せて。」

 深く頷き、視線を前に戻す。肉体こそ戦闘前のエルラントと同じだが、溢れ出る気配が全く違う。溢れ出る怒りと悪意は、この世界とオレに向けられているのだと、心で理解した。

「―――どうして神の決定に抗うのだ。世界も、この男依り代も貴様も。」

「それが人間だからだ。最後まで希望を捨てず、最善を尽くして走る。」

「―――どうして異世界の人間である貴様が、この世界のために命を懸ける。」

「オレが人間だからだ。愛するべきものを守る、そのために剣を握る。」

「―――やはり人間は理解できない。無様にもがく事に何の意味がある。」

「ああ。人と神は分かり合えない。なら、戦うしかないな。」


 神は黒い稲妻の魔法を絶え間なく行使した。何とか不撓の魔弾エクス・ライト・バレットで相殺するが、魔力消費が多すぎる。通用するかわからないが、出し惜しんでいる暇はない。

空間侵食スペースインヴェイド!」

廃ビルの光景が周囲に広がる。並ぶ銃たちもいつもの面々だが、空は曇天ではなく、ソフィアの固有結界のような星空だった。

魁星煌彩剣ルミノスターストライク!!!」

 後ろからソフィアの声が聞こえ、神の体を強い光が貫く。ダメージはあまり入っていないものの、大きな隙ができた。結界内の銃を全て操り、一斉射撃を行う。

「無駄だ。受肉体とはいえ、神を傷つけることができるのは神のみだ。」

 オレは勝ち誇ったように、片頬を上げて笑ってやる。

「そうか、それを聞いて安心したぜ!」

 高をくくってその場から一歩も動かない神の体に、弾丸の雨が襲い掛かる。弾丸は神が展開する障壁をすり抜け、その奥の肉体を蜂の巣にした。

 固有結界。使い手の魔法やスキルを具現化する世界。いわば体の延長線上にある、杖と似たようなもの。この空間で行使されるすべての攻撃には、神性が与えられる。

 後ろから凄まじいスピードで飛んでいく二つの影。二振りの剣に強い光を蓄えたアリスと、バチバチというスパークを発する大剣を振りかぶるケンジだ。息をのむような連携の剣技で攻撃を捌き、お互いが作った隙を狙って攻撃をヒットさせる。

「バカな、神性だと...!?」

「ああ。世界の防衛本能がオレにくれたもんでね。油断大敵ってやつだぜ。」

「この人間風情がぁぁぁ!!!」

 着実にダメージは蓄積されているが、空間の作用で与えられている弱い神性では決定打を打つことは出来ない。

 オレは収納魔法から、すべてを飲み込む黒色の狙撃銃を取り出した。他の銃とは勝手が違い過ぎるのでセッティングに手間取る。しかしそれだけではない。銃を扱うスキルがあるのに、こんなことになるはずがない。まさか―――

「早くこうするべきだったな。神権、スキル封印。」

 スキル封印。言葉通りの能力ならば、オレは銃操作の恩恵を受けられない。くそ、やられた。仮にも世界の管理者なのだから、これくらいは予想するべきだった。人間の体にスケールダウンされていたとしても、中身は神そのものなのだ。

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