第18話 邪竜決戦/2

 邪竜が大穴から這い上がってくる。九つの頭を持った邪竜――ヒドラ。皮膚は

光を吸い込むような漆黒。

「―――なんて威圧感だ。」

思わず呟く。今まで戦ってきたどの魔物よりも圧倒的。正直言って勝てる気がしない。だが、戦わなければならない。この世界のために、そこに住まう人々のために。

「総力戦開始!」

女王シャルロットの号令で、一斉に士気が上がる。

オレは作戦開始の合図となる、レールガンを一斉に放つ。すべての弾丸が九つある頭に命中する。頭はほとんどが吹き飛び、反撃可能とは思えない。雄たけびを上げた戦士たちが雪崩のように襲い掛かる。オレは遠距離攻撃に徹するため、近接戦には参戦しないが、

「3秒後、尻尾の薙ぎ払い!...2...1...今!」

千里の魔眼ラプラスの悪魔を用いた攻撃予測で、部隊を指示する。後衛の援護部隊が結界で近接部隊を守る。

―――行ける。この調子ならヒドラを討伐できる!

と、一瞬気を抜いてしまった。その瞬間、傷に瘴気が吸い込まれ、凄まじい速度で首が再生されていく。おそらく瘴気はヒドラの生命力だったのだろう。見る見るうちに剣の傷も癒えていき、あっという間に全快されてしまった。

再生に気を取られたつかの間、ヒドラは首から炎のブレスを噴き出した。後衛の防御も間に合わず、ヒドラの近くにいた者たちは、もろにブレスを食らってしまう。

―――オレのミスだ。オレが気を抜いたからだ。

「ソラト、もう一度よ!私も突撃するから援護して!」

いつの間にかアリスが隣に立っていた。どうやらアリスは攻撃を躱せたようだ。

「行くぞアリス!」

レールガンから放たれた光芒は、ヒドラの頭蓋を貫通した。ヒドラの真上までジャンプしたアリスは、天まで伸びる光の刃を掲げ、ヒドラ目がけて振り下ろした。すさまじい爆風がここまで届く。

あの攻撃なら―――が、しかし。

ヒドラの周囲をアイギスに似た防御壁が覆っている。

そうだった。ヤツは神話時代の怪物だ。きっと今までは寝ぼけていただけなのだ。オレたちはあいつをなめていた。

渾身の一撃をはじき返されたアリスは爪の振り上げをまともに食らい、オレの立っている王都外壁まで吹き飛ばされてきた。傷はとても深かった。ほとんど腹を分断するほどの致命傷だ。近くの治療部隊が応急処置を施した後、アリスを担架に乗せて運んで行った。

アリスが心配だ。本当は近くで見守っていたいが、オレはここから離れるわけにはいかない。再び立ち上がり、懸命に斬りかかる前衛の戦士たちもいたが、まるでダメージになっていない。

―――もう、終わりなのかもしれない。

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