第15話 食事会にて

 日が傾き、そろそろ準備をしなければならない。生憎、スーツなどオレは持っていないので、一番高価に見えるズボンと、竜の皮製のジャケットで向かう。

「あなた、そんな恰好で行くの?」

「手持ちがこれしかないんだよ。」

廊下で合流したアリスは美しい純白のドレスを着ている。

「あまり、じろじろ見ないで、恥ずかしい...」

「きれいだなあと思って...」

 日もすっかり落ちて、食事会が始まった。豪華な料理を乗せたワゴンが運ばれてくる。どれもうまい料理ばかりで、この世界に来てから一番贅沢な食事だろう。

食事のあとは、舞踏会が行われる。一応学園にいた時、貴族の出であるアルトから教わっていた。ちょうど、アリスが近くにいたので、

「私と踊っていただけますか、マドモアゼル?」

小恥ずかしいセリフと共に手を差し出す。

顔を真っ赤にしたアリスが、無言で手を取る。そこまで恥ずかしがる事だろうか?

しかし構えをとったところでオレは気づかされた。手を組み、アリスの美貌を近くで見るという体験は、想像以上の破壊力だ。

 曲が流れだし、オレたちを含め、会場にいた人々が一斉に踊りだす。

「ソラト、上手ね。どこかで踊ったことがあるの?」

「アルトに一通り仕込まれてるよ。」

さすがアルトだ。未来視でもできるのかと思うほど準備がいい。今度会ったら飯でも奢ってやろう。

ダンスも終わり、談笑をする時間となった。かなり楽しめたので、女王に礼を言おうと探したが見つからない。すると、ちょうど廊下に出ていく女王を発見した。

後を追って角を曲がると、女王の前に黒い人影がたっていた。声は聞こえないので、何を話しているのかはわからないが、人影は女王の腕を掴み、女王は抵抗している。人影は、顔を隠して、背中には縄やつるはしを背負っている。確定だ。

オレは飛び出し、女王と誘拐犯のところまで走る。女王がこちらに気づく。

「ソラトさん!助けて!」

誘拐犯は早業で女王を縛ると、担いで逃げ出した。人一人背負っているとは思えない速度だ。〈門〉を開き、魔弾を撃つが当たらない。誘拐犯はベランダまで行くと、迷わずに飛び降りた。城下町までいかれると、土地勘のないオレでは追えない。

「ここで決着をつける!」

今開ける〈門〉をすべて開き、魔弾を誘拐犯に叩き込む。流石に避けきれず、女王を手放して落っこちていく。無傷の女王を抱きかかえ、女神の護りアイギスを展開。安全に着地する。幸い、城の敷地内に着地出来たため、城下で騒ぎになることはなかった。女王を縛っていた縄を解く。

「た、助けてくれてありがとうございます。」

「誘拐犯に心当たりは?」

「分かりません。こんなこと初めてだったので。ただ...」

「ただ?」

「私を邪竜の生贄にすると言っていました。」

「邪竜?王都にはそんなものがいるのですか?」

「ソラトさんにはお話ししましょう。...王家にのみ伝わる伝承があります。かつて倒された、九つの頭を持つ竜は、深い穴を掘り、底で眠っていると。」

「深い穴ってまさか...」

「はい。大穴の中には眠った邪竜がいるのです。」

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