第47話 エピローグ

 ソラトは、開かれた小窓から入ってくるそよ風で目を覚ます。隣に寝ていた彼女は、すでに起きているようだ。寝ぼけた頭で階段を下りていく。

「あっ、おはよう、ソラト。」

「おはよう父ちゃん!」

「おう、おはよう。」

 ソラトは顔を洗ってから、食卓を挟んでソフィアの向かいに座る。隣には息子、エルがいる。

 二人が結婚して七年、彼らは三人で幸せに暮らしていた。ソラトとソフィアは現在、コネで宮廷魔術師となっている。コネとは言ったものの、実力は普通に人類最高峰なので大した問題ではない。本当は城に住み込むはずなのだが、これまた特例で、家からの通勤が許されている。

 子供のエルは今年で六歳。さすがオレとソフィアの血を引いているというべきか、魔術の呑み込みが非常に速い。三歳から基礎を教え始め、今では聖級の星魔法を扱えるようになっている。半分妖精なので魔力量も多いし、恐らく固有結界の素質もあるだろう。

 あまりの成長の速さだが、正直オレはなんとなくそうなることを予想していた。別に千里眼を使ったわけではないのだが、初めて抱いた瞬間に電流が流れたような感じがした。

 ステータスを見ると、存在力が20000を超えていた。生まれた時点でオレの半分あるのだから、十五歳ころにはオレを抜かしていてもおかしくない。オレもすっかり平和ボケしてしまったので、力をつけたエルと本気で戦って勝てる自信がない。

 ちなみにエルの名前の由来は、陰ながら世界を救った、最強の男からもらっている。時止めクラスのチートスキルが生えてくることを祈ろう。

 またまた特例で―――エルを連れて城に向かう。制式ローブも存在しているのだが、近衛騎士団以外は服装自由なので二人とも冒険者時代の服装のまま通っている。

 門をくぐり、近衛騎士団が稽古している庭に目をやると、下っ端を立ち合いでボッコボコにしている二人組を見つけた。一人は流れるような金髪の女騎士、一人は眼鏡をかけた短髪の中年男性。

「おーっす。結構気合入ってるなぁ。」

「そりゃあもうバリバリよ。ソラトもやる?」

 這いつくばっている騎士たちの顔が一気に青ざめるのを見て、何だか申し訳ない気持ちになる。

「いや、遠慮しとく。」

 隣で様子を伺っていたケンジが、エルに手招きをする。

「よーし坊主、今日も特訓してやるからな!」

「ほんと?ありがとオッサン!」

「エル、この人はオッサンの中でも最強のオッサンなんだから礼儀正しくするんだぞ?」

「なんだ、でけえ方の坊主も稽古つけてやろうか?」

「いやいやとんでもない。ところで、オレのこと坊主って呼ぶのやめてくれよ。オレもう子供いるんだけど。」

「だったらまずオッサン呼びをやめろってんだ。」


 ケンジたちに稽古、もとい子守りをしてもらい、オレたちは工房に向かった。別に大してやることもないので、オレはこの時間を使って、大昔の転生者に関する情報を調べていた。

 その人は、転生時のスキルとして、神話武具の再現というモノを貰っていたようだ。オレの時は銃を貰っていたので、きっとその人は神話好きだったのだろう。そしてその人は水晶玉に自らのスキルを分割して保存、未来に託した。

 古い歴史書に書いてあったのは「二振りの剣、盾、槍、槌、弓」だ。剣と盾はオレが所有しているものだが、他のものは名前どころか存在すら知らない。不撓の聖剣エクスカリバー女神の護りアイギスの性能からして、残りの4つも回収しなければ危ないだろう。

 オレが以前倒れた「神殿」なる場所はまだ紐解けていない。だがオレの考察では、最初の転生者がこちらに移った後、ビルが乱立するレベルの文明を築き上げたのだろう。神代から現代への移り変わりで文明が焼却されたという文献があり、あれは燃える前の世界の残骸だろう。


 あちらの世界が時々恋しくもなる。だが、戻りたいとは思わなくなった。この世界に、守るものが出来た。

 これから再び何らかの事件が起こることもあるかもしれない。だけど、オレは絶対に打ち勝ってみせる。転生者としてではなく、この世界に生きる人間として。

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マジックバレット 小噺みんと @mint_cool

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