第28話 試練への旅路

 いよいよ最後の試練だ。最後の試練は、大陸の中心にある祭壇で行われるらしい。エンゼルからだと、五日はかかるだろうか。

 エンゼルを出て数時間、オレたちは街道を歩いている。隣町のポップは治安が悪いそうなので、寄らずに行く予定だ。しかし。

 ポップを少し過ぎたあたりで、賊の集団と遭遇してしまった。メンバーは全員妖精で、後ろの車には人間が数人乗せられている。人攫いだ。

武装は簡素な革鎧と腰の曲刀シミターのみだが、妖精なので高位の魔法も使えるだろう。

メンバーの一人が口を開く。

「上物の人間が二匹も居やがるぜ!片方は丸腰だ!やっちまえ!」

どうやら武器を持っていない(ように見える)オレから狙われるらしい。

「アリス、ここはオレが。」

「分かったわ。」

弱いと思われるのも癪なので、軽くいなしてから一気に決めよう。

一斉に切り掛かってくるが、ミノタウロスには遠く及ばないなまくらな太刀筋ばかりだ。襲ってくる剣の全てを躱しきり、魔法攻撃に備える。

賊たちが詠唱を開始する。

「眼前の敵を焼き払え!地獄の炎ヘルフレイム!」

「眼前の敵を吹き飛ばせ!螺旋の嵐スパイラルハリケーン!」

「眼前の敵を切り刻め!鋼鉄の雨メタルレインズ!」

竜巻によって炎と金属片が舞い上がる。アレに巻き込まれたら、オレもアリスもひとたまりもない。だが。

不撓の聖剣エクスカリバー!!」

放たれた光は竜巻、炎、金属片、全てをかき消して賊たちを吹き飛ばした。流石に気絶程度の威力に留めたが。


「本当にありがとうございます!」

荷車から降ろした人達に次々と礼を言われる。

「ここでは危ないので、近くの街に行きましょう。」

アリスの提案で、最寄りの街まで一緒に移動することとなった。その後は特に何も起こらず、彼らとはその街で別れた。賊たちから彼らの荷物を回収したので、街までたどり着けたからもう大丈夫だそうだ。

 別れた後、オレたちはさらに進んで、セレンという村に到着した。のどかそうな雰囲気の村で、ここならゆっくり休めそうだ。

この村のことをいろいろ知りたいので、近くにいた妖精の少女に話しかけた。

「すみません、この村の宿はどこにありますか?」

「あ、えっと、あ、あの建物です。」

なぜか怯えている。怖がらせるような言動は何もしていないはずだ。周りを見渡すとオレたちを、正確にはこの少女を見る目がとても冷たいことに気が付いた。

「あなた、名前は?」

「ソ、ソフィアです。」

「ソフィアさん、ちょっとこっちに。」

そういって彼女を村はずれに連れ出す。

「きゅ、急になんですか!?」

「いえ、周りの目が気になったもので。何かあったんですか?」

「...私は十六年前に生まれました。その年は七十五年に一度の凶星が見える年だったのですが、私はその星の日ちょうどに生まれてしまいました。それからずっと、忌み子として扱われた来たんです。それに、私は生まれつき魔力が強くて、それで余計に怖がられて...」

七十五年周期の星と言ったら、この世界においてのハレー彗星のことだろう。オレは生まれた日なんて気にしないし、アリスもきっとそうだろう。この村で彼女が生きづらいのなら、引っ張り出してあげるしか方法はあるまい。

「ソフィア。オレたちと旅をしないか?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る