第27話 不撓の魔弾

 聖剣は地面に突き刺さった。それと同時に侵食空間も解けてダンジョン部屋に戻る。

「オレはアイギスあるから、アリスが抜いて良いぜ。」

「そう?じゃあ遠慮なく。」

アリスは柄に手をかけ、思い切り引き抜こうとする。しかし、聖剣は抜ける気配がない。

「アリスでも抜けないって、やっぱり資格が無いとなのか?」

「資格って?」

「オレが知っているのは、一国を納める王の血筋の人間のみが抜けるって話だ。でも王家しか抜けないのなら、さっきのモンスターの辻褄が合わないし、剣が使い手を選ぶって事だろう。」

「ねえ、ソラトも試してみてよ。」

「それもそうだな。それっ!」

すると、ほんの少し引っ張っただけで剣はあっさりと抜けてしまった。急いでステータスを確認すると、「神器」の欄に「不撓の聖剣エクスカリバー」と書かれている。

「ソラト、貴方すごいわね...」

「譲るって話だったのに、ごめん。」

「いいわよそれくらい。その代わりにアタシのこと、ちゃんと守ってね?」

「ああ、もちろん。」

次の街に行くまでに、使いこなせるようになろう。


 次の街、エンゼルまで二日かかった。

エンゼル周辺はなぜか空間中の魔力が多く、モンスターが少なかった。

試練の石門は少し離れた高台にあったので、探すのにだいぶ手こずった。

「ソラト、行きましょ。」

「ああ、そうだな。」

門を通ると、ダンジョン部屋ではなく大きな空洞に出た。壁や天井は黒い岩で出来ていて、ごつごつしている。学園入学前に戦ったドラゴンの巣を思い出す。

「ソ、ソラト。あれ...」

か細い声を出したアリスが指さす方を見る。

そこには、美しい白竜が眠っていた。王都の邪竜の比でないほどの魔力量と威圧感。今まで相対してきたどんな相手よりも強い。白竜はゆっくりと目を開く。宝石のような碧眼がまっすぐにオレとアリスを見つめる。

『我が名はアルビオン。妖精国を護る守護竜にして、汝らに試練を与える者。』

威厳のある落ち着いた声で竜―――アルビオンは名乗った。どうやら上位の竜は人語を話すことができるらしい。

「オレはソラトだ。」

「アリス・ルージュ・コンフォートです。」

『ソラト、アリスよ。空間侵食は使えるか?』

「使えないが、なぜだ?」

『試練の間は街の直下に位置している。街に危険が及ばないためにも、必要なことだ。お前たちが使えぬのなら私がやろう。空間侵食スペースインヴェイド。』

一面の花畑と、月の上り始めた夕空が広がる。妖精の国を象徴するかのような光景だ。

『試練の内容は、私と戦うことだ。戦いの中で成長して見せよ。』

アルビオンの眼が鋭くなる。オレ達も戦闘態勢に入る。千里の魔眼ラプラスの悪魔、発動。

尾の薙ぎ払いをジャンプで躱し、オレは魔弾を、アリスは炎の剣を竜の背に叩き込む。が、鱗に阻まれて全くダメージにならない。白竜の足元から一気に氷の槍が広がり、オレとアリスの足を浅く斬る。

今度はレールガンを尾の付け根に撃ちこむ。しかし弾丸が弾かれ、オレの頬の横を通過する。やはり対物理、対魔力ともに最高クラスだ。

アリスの必殺の魔法剣も難なく弾かれ、剣先が欠ける。こうなったら、オレの新しい必殺技を使うしかない。

不撓の聖剣エクスカリバー。生成、ラディアンスバレル。」

ラディアンスバレルはオレのオリジナルで、高い強度を有している特製の銃身だ。

「聖剣、装填。」

バレルの中で聖剣に過剰な魔力を流し込む。聖剣は魔力に耐え切れず、ガラスのように割れて神聖力と魔力を発散する。

「仮想神器:不撓の魔弾エクス・ライト・バレット

エクスカリバーの刀身を模した弾丸が、5メートルほどの砲身から超音速で飛び出す。光の弾丸は白竜の胸を軽く抉り、傷口を焼いた。しかし行動不能になるほどの傷を負わすことは出来なかった。逆に、魔力の激しい消耗でオレが動けない。

アルビオンの口が開かれ、複数の魔法陣が展開される。高等技術の『多重魔法陣』だ。炎が噴き出し、オレたちに向かってくる。

すると、アリスが飛び出して剣を思い切り振る。すると炎が二つに斬られ、オレたちの横に流れる。アリスのスキル、『斬火ざんか』だ。

「ソラト、大丈夫?」

「ああ、助かった。」

しかし、先ほどより多い魔法陣が展開され、純白の炎が迸る。アリスの反応が間に合わず、炎の渦が巻き起こる。千里の魔眼ラプラスの悪魔のおかげで間一髪、女神の護りアイギスが間に合ったが、やはりひびが入った。

『その程度かね?試練の結果は生と死のみだ。そろそろ終わらせるとしよう。』

こうなったら一か八かだ。

空間侵食スペースインヴェイド!」

足元から新たな空間に塗り替えられていく。一瞬で、花畑からアスファルトと廃ビルに変わり、空は雲で覆われた。

「ソラト、この空間は?」

「説明は後だ!」

アリスの手を引き、ビルの中に転がり込む。

『ほう、面白い。』

外を見るとアルビオンは、尾や爪でビルを崩して回っている。ここもすぐに壊されてしまうだろう。しかし問題ない。

「アリス、十秒稼いでくれ。」

「分かったわ。」

アリスは外に出て、魔力全開でアルビオンの視線を集める。

その間にソラトはビルの階段を全力で駆け上がる。三秒ほどで屋上にたどり着くと、そのあとの時間をすべて不撓の聖剣エクスカリバーとラディアンスバレルの生成に使う。

約束の十秒が経過した。ソラトはビルから飛び降り、アルビオンに狙いを定める。魔力の上昇に気づいたアルビオンは、こちらに再度純白の炎を噴き出す。

女神の護りアイギス!」

女神の盾は燃え盛る炎からソラトを護り、攻撃のチャンスへと転じた。

「聖剣、装填!」

ソラトの背後に浮かぶ、計十三本の砲身から光があふれだす。アルビオンは翼を広げ、ソラトを撃墜しようと迫るが、その瞬間を狙っていたアリスに羽を切り裂かれ、地に落ちる。

不撓の魔弾エクス・ライト・バレット!」

空から降り注ぐ十三本の光の柱は、白竜の身を焼き尽くした。その直後、魔力の消耗によってソラトの大規模な空間侵食も解かれる。

半ば意識を失いかけていたソラトは着地の姿勢をとれず、アリスにキャッチされた。

「ッ、倒したか?」

『おめでとう、合格だ。』

アルビオンの声が響く。純白の皮膚は所々が黒く焦げ、抉れているが、数秒のうちに元の体に戻ってしまった。

「嘘...あれでも倒せないの?」

アリスが絶望の声を漏らす。

『試練内容は私との対決だが、合格条件は私の撃破ではない。正直、ここまで追い詰められたのは、千年前の勇者以来だ。そもそも、私はこの国が存在する限り死ぬことはない、妖精が作り出した幻想なのだ。本来ならば最後の攻撃で死んでいる。だからそれを追い詰めた君たちは合格だ。』

どうやらアルビオンは、妖精たちの「守護竜がいて欲しい」という幻想ゆめが具現化したものだそうだ。つまり、アルビオンの存在を信じる者が一人でもいれば即座に復活する。まさか戦っている相手がそんなチートだったとは。


試練の間から出て、すぐに宿で休むことにした。明日から、また旅の再開だ。

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