第29話 凶星の少女

「た、旅ですか?そんな急に言われても...第一、この国のどこに行っても私は邪魔者扱いなんです。居場所なんて...」

「旅をするのは妖精国じゃない。人界だよ。」

「あなた、人界からきたんですか!?」

「ああ、今は訳あってこっちに来ているんだ。」

「で、でも私魔力強すぎるし、きっと邪魔になっちゃいます。だから...」

言いかけた彼女を黙らせるように、抑えていた魔力放出を一瞬だけ全開にした。ソフィアは目を見開く。

「こ、こんな魔力量がある人間なんて...」

「オレの相棒もこれくらいあるし、むしろ強いなら大歓迎だ。」

「じゃ、じゃあ旅の準備をしてくるので、明日の朝まで待ってもらっていいですか?」

「分かったよ、じゃあまた明日。」

 ソフィアと別れてから、オレに向けられる視線は冷たいものだった。

 アリスに一連の流れを説明すると、オレの予想通り(魔眼の予知で分かっていたのだが)アリスは快く受け入れてくれた。

 その夜、宿への道を歩いていると、家の中で皿が割れる音と男の怒鳴り声が聞こえた。中に入ろうかと迷ったが、家庭の問題だ。オレが首を突っ込むことではない。と言い訳をして、そのまま宿で眠りについた。

 次の日、ソフィアと待ち合わせた場所に向かったが、彼女は来ていなかった。何かあったのかと思い、昨夜に通った道を行くと、口論をしているソフィアとその両親とみられる男女がいた。

「私のカバン返してよ!パパ!ママ!」

「ダメだ!お前が旅に出ることは許さん!」

三人がオレとアリスに気づく。ソフィアはオレの後ろに隠れ、父親は母親の前に立ち、オレを睨みつける。

「フン、こんな人間にそそのかされたのか。おい坊主、うちの娘に何を吹き込んだのか知らんが、今すぐこの村から出て行け。」

「ええ、アンタの娘さんを連れたらすぐに。」

「ふざけるな!こいつが旅に出るなど断じて許さんぞ!」

「こんな状況に追い詰めておいて、村を出ていくのもダメなのか。親が子を守らなくてどうするんだよ。」

「そもそも、こんな子は生まれてこなければよかったのだ!こいつのせいで私たちの肩身も狭くなった!コイツのせいで俺の人生台無しだ!」

「......そんな、事で?............そんな理由で彼女の一生を踏みにじるのか?」

凄まじい嫌悪感と怒りを感じ、無意識に魔力放出を全開にする。それから何秒経っただろうか。気づくと村人たちはみな倒れていて、アリスとソフィアだけがそこに立っていた。何とか声を絞り出す。

「......行こう。」

この世界に来て、嬉しいことも嫌なこともいろいろとあった。だが、今回ばかりはとても耐えられなかった。早足になりながら、試練の土地に向かって進んだ。

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