第30話 試練前夜

 ソフィアを連れて村を飛び出し、オレ達は最後の試練の土地に向かった。

とにかく、早くあの村から離れたかった。これ以上いるとおかしくなりそうだった。

「ソラトさん、こんなに怖い方なんですか?」

「普段はあんなに暗くないわ。あの村の人たちに、相当怒っているのね。」

「そ、そうなんですか?」

そう言ってから、ソフィアは少し微笑む。


「...少しは落ち着いた?」

アリスが俯いているオレの顔を覗き込みながら言う。

「ああ。感情的になりすぎた。二人とも、ごめん。」

そういいながら、アリスとソフィアに頭を下げる。

「いいですよ。実を言うと、少しうれしかったです。今まで、私のために何かをされたことなんてほとんどなかったので。」

なんと反応すれば良いのか分からない。こういう時に女性経験の無さを痛感する。

「グラァァァァ!!!」

丁度いいタイミングで魔獣が飛び出してきた。助け舟を出してもらって申し訳ないが、速やかにご退場いただこう。

 カタカタカタッ!と歯切れのいい銃声が響いた後に、魔獣がドスンと倒れた。

「ソラトさん、今のは?」

「銃って言って、火薬で金属の弾を飛ばす武器だよ。」

「あなたは聖剣も飛ばすでしょ。」

「せ、聖剣?」

ソフィアが訝しげな表情をする。

「そのうち見せると思うよ。さあ、試練の土地も近いことだし、この街でゆっくりして行こうぜ。」

「私は疲れちゃったから、先に宿とっておくわ。」

そう言ってアリスは宿の方へ歩いて行った。

「あの、ソラトさん。今日って時間ありますか?」

「あるけど、どうかした?」

「装備の購入に着いてきてほしくて。」

「もちろん。早速行こう。」

向かったのは、街一番と名高い武器屋だ。

「らっしゃい!何をお探しで?」

出迎えてくれたのは、筋骨隆々としたヒゲ親父だ。

「えっと、私の両手杖を買いに来ました。」

「オーダーメイドで頼む。」

「ソラトさん!?」

「大丈夫だよ、任せとけって。」

幸い、以前のダンジョン攻略で、金は有り余っている。

「じゃあまずは、嬢ちゃんの魔術属性を測ろう。この水晶に手をかざしてくれ。兄ちゃんも測るだけならタダだがどうするね?」

「いや、オレはやめとくよ。」

実は妖精国に来る前に、自腹で水晶を買って試したことがある。すると浮かんで来たのは、「鋼、神性」だった。おそらく女神の護りアイギスの影響だろう。こんなのを他人に知られるわけにはいかない。

水晶が映したソフィアの属性は、「氷、風、鋼、星」。

「星なんて属性、滅多にいねぇ。杖の素材も値が張るが...」

「ああ、構わない。」

「じゃあちょいと待ってな。最高のを作ってくるぜ。」

二十分ほど待っていると、 美しい杖を抱えた店主がやってきた。

「柄はトネリコ、魔石は五十年錬成した年代物で全長は190センチだ。」

柄の部分には蝶と風の模様が彫られていて、目を奪われるような流線形のボディ。

先端に付けられた蒼い玉は、三つの軸が付いた地球儀の様になっている。魔法を行使する際に、最適な魔力回路を演算・調整してくれるらしい。

代金は二十万コル。想定よりも安かったので、銀の胸当てとローブも購入し、二十五万コルでフィニッシュだ。


「本当にありがとうございます!」

「大丈夫、気にするなって。それよりも、明日は結構大変だろうから、もう休もうぜ。」

「そうですね、宿に行きましょう!」


「おかえり。デートは楽しかった?」

そう、アリスはこういうところがある。これで下手に言い返すと、さらにいじられるので、手をひらひらさせて返事してやった。

「で、でぇと?」

スティは顔を真っ赤にして、目がぐるぐる回っている。真に受けてはダメだと、今度言っておこう。

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