第13話 卒業、そして就職
入学からちょうど一年。卒業の日が近づいてくる。とはいっても、毎年何人かは卒業試験に落ちてしまうらしい。オレは卒業後、騎士団への就職が決定しているので、絶対に落ちるわけにはいかない。などと思いつつ、余裕をかまして店で茶を啜っていると、隣に見知った顔の客が座った。
「久しぶり、ソラト。もうすぐ卒業ね。」
「アリスさん、お久しぶりです。」
「いきなりだけど、卒業試験の対策は万端?今年は少し難易度が高いそうだけど。」
「平気です。なんたって、Xランク冒険者を倒した男ですから。」
「Xランクを倒したCランクというのは君だったのね。巷で噂になっているわよ。」
マジか。あまり手の内は見せたくないので、早く噂が止むことを願おう。
「うん。その様子なら、試験は平気そうね。騎士団内での君の役職はもう決めているから待っているわよ。」
最後にそれだけ言って、副騎士長は立ち去った。
いよいよ卒業試験だ。試験内容は試験官との決闘。試験官はみな教授たちで、Xランクのような人外がいないのははっきりしている。
基本的にみな合格していき、授業中に寝てばかりだった奴は順当に落ちていった。アルトも得意の剣で試験官を翻弄し、危なげなく合格した。次はオレの番だ。オレの相手は、炎魔法専攻の教授で、「手加減しない」で有名だ。この男に当たった学生で、合格した奴は一人もいないという噂まである。
案の定、戦いが始まるとすぐに上位魔法「爆破魔法」の詠唱をし始めた。門を5つほど開き、25%の魔弾を数発撃つと、あっという間に戦闘不能判定でオレの勝利となった。おそらく、毎年ビビりの生徒と戦っていて、弾丸並みの速度で攻撃されたのは初めてなのだろう。
「じゃあ、頑張れよ、次期当主!」
「君こそ、元気でな、Sランク!たまには会いに来てくれよ!」
これでアルトともしばらくお別れだ。彼の家、ロレーヌ家は、大陸北側に領地を多く持っている。東に位置する学園都市オリオンからは、王都経由で向かう必要があるが、騎士団の任務でそのうち行くことになるだろう。
親友との別れも済んだので、オレは新たな職場に行かなければ。
オリオン騎士団本部まではあっという間だった。建物に入り、受付でソラトだと名乗ると、一分もせずにアリスが出てきた。
「卒業おめでとう。私たち、騎士団一同、君を歓迎するよ。ソラト、改めてよろしくね。」
「こちらこそ。」
「早速だけど、君の配属を伝えるわ。君は...」
新入りなのでやはり、下っ端からスタートが基本だが、以前の口ぶりから推測するに、そこそこ上のポストなのだろうか。
「私の護衛、いえ正しくは、私と共に冒険ね。」
騎士団なのに。冒険?
「実は最近、魔物の動きが活発になっていてね、今まではそれぞれの町で独立していた騎士団を統合して、協力関係を強くしようという話になったの。王都騎士団をトップとし、各騎士長を支部騎士長、副騎士長は支部副騎士長として、大きく組織体制が変わるのよ。」
「...それと冒険に何の関係が?」
「そうなれば私は自由に動きやすくなるから、強い魔物探しに冒険をしないかっていう提案。ソラトなら信頼もできるからね。」
また随分と上のポストに就けたものだ。冒険をしたいというオレの根本からも外れていないし、アリスと一緒に冒険とか、ハッキリ言って天国だ。行かないわけがない。
「ぜひ行きましょう!さあ、今すぐ!」
騎士団生活にはますます夢が膨らむ。
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