第7話 ソラトの事件簿/3

 遺体に血が残っていなかった。

つまり、血が流れていなかったのではなく、流れる血がなかった。

「ここからは騎士団の建物で話させて?ここだと機密ダダ洩れだからね。」

学園から10分ほど歩いたところの、美しい外壁の建物に案内された。

オレはダメもとで頼んでみた。

「2つの遺体を改めて見せていただくことって...」

「構わないわ、あちらの部屋に安置してあるわよ。」

全身くまなく調べ、一つだけ不自然な傷に気づいた。その瞬間、犯人の正体、目的、すべてが分かった。

「そうか!そういうことか!」

「ソラト、何かわかったのか!?」

「おう!アルト、アリス副騎士長さん、手を貸してくれ!」


 2日後の雲が多い夜、一人の女が夜道を歩いていた。そしてその女に、命を狙う魔の手が迫っている。女を狙う男は完璧な気配遮断で背後まで忍び寄り...

―――バン!と銃声が響いた。男は弾丸をギリギリ躱したが、かぶっていたフードは一直線に破られた。

女は軽い動きで間合いを取り、陰になって見えない、男の顔を見据えた。

「上手く釣れて助かったよ。こいつだな、アルト」

「間違いない、同じ魔力を感じる」

「それで?そろそろ種明かしをお願いしますよ、ソラトさん」

女――副騎士長アリスが言った。

「ああ。まず、血のない変死体。オレは最初、多量の出血で血が失われたものと思っていた。だから、何処に血が消えたのか、それをずっと考えていた。しかし、あの傷がダミーだったとしたらどうだろう。死体をよく見て気づいたよ。首元に、針に刺されたような傷跡が4つ、ちょうど、鋭い牙でかまれたかのような傷があった。」

「なるほど!つまり、血を抜かれてから切り付けられた、そういうことか!」

「ああ、そういうことだ。首にかみつき血を吸う、夜にしか行動しない、転移魔法を操るほどの魔法の使い手。こんな条件が当てはまる種族なんて一つしかない。」

「つまりこいつの正体は!」

「「「吸血鬼ヴァンパイアだ!」」」

その瞬間、雲の切れ目からのぞいた月光が、男の顔を照らす。

鋭い牙、血走った目、血色の悪い肌の色。男――吸血鬼ヴァンパイアは軽く笑った。

「まさか人間ふぜいに見破られるとはね。」

「俺も、まさか犯人がコウモリだとは思わなかったよ。」

「なかなか面白いことを言いますね。しかし、私の正体がわかったところでどうするのです?転移!...」

「転移無効結界、発動!」

転移無効結界。ダンジョンなどに設置されている魔道具で、その名の通り、転移魔法や離脱魔法を強制解除させる空間を展開する効果がある。騎士団で保管されていたものを拝借した。

目論見通り、ヤツの転移は失敗し、唖然の表情を浮かべた。

左右から剣士二人が斬りかかるもジャンプで躱され、そこを狙ったオレのマシンガン掃射も空中で器用に避けられた。

今度は使い慣れたリボルバーを生成し、銀の弾丸を装填して放つ。

ヤツはその6発目を躱すと、一気に距離を詰めてきた。

鋭い爪がオレに接触するまで1メートル、10センチ、1センチ...

しかしヤツの爪は竜の皮製のジャケットに阻まれ、オレは無傷、むしろヤツの爪が刃こぼれした。笑っていたヤツの顔が、再び唖然の表情となる。

あえて弾数が分かるリボルバーを使い、攻撃を誘ったのだ。

ガラ空きの脳天に、弾丸を再生成したリボルバーを突きつけ、1発、2発と弾丸を撃ちこむ。吸血鬼はその場に倒れると、手足の先から灰となり崩れていった。

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