第32話 帰郷
何とか水銀の巨人を倒したオレたちは、陸上に戻っていった。
後は人界に繋がる門から戻るだけだ。幸い神殿のすぐ近くにあるそうなので、今日中に戻れそうだ。
「じゃあ、帰りましょ。」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
引き留めたのはソフィアだ。
「妖精は受肉しないと人間の世界に留まれないんですけど、どうしましょう?」
オレはそんな情報初耳なので、ちらりとアリスの方を見た。
「うっかり忘れてた☆」って表情をしている。おいおい、どうするんだよ。
「ともかく魔力が沢山あればいいんです。どんな魔法でも出力が高ければ、あとはイメージでどうにかなります。」
なんとなくのイメージで行使した魔法で、受肉は成功した。初歩の回復魔法なのだが、出力が出力なので、何とかなったのだろう。もしかしたらオレの「神性」の影響かもしれないが。
「ここが人間界ですかー。いいところですね!」
出入り口は全然違うところなのに、来た時と同じ王都周辺に出られるのは、さすが魔法といったところか。
「離れたのはたった一週間くらいだけど、21年も住んでいたら恋しくなるものね。」
そういえばアリスはオレと違い、人生のすべてをここで過ごしていたのだ。たかが一年半ぽっちのオレと違い、思い入れも相当のものだろう。
もっとも、オレだってこの世界を愛している。しかし、家族や友人たちがいる世界でなければ、オレは真の意味では住人たり得ないだろう。
妖精国との間には、明確な互換性があった。しかしオレは転生者をこの世界で一度も見ていない以上、あの世界との関わりを確認できない。どうして転生なんて起こったのか。いや、そもそも―――
何故オレなのか。毎日数万人単位で死者が出ていたにも関わらず、どうしてオレだけが第二の生を与えられたのか。
得たものを手放すつもりはないが、これが死者への一種の冒涜であるとも理解している。オレはかつて、絶対に帰ってこないはずのモノを落とした。いつか人間が必ず落とす、とても大事なモノを。しかしオレはそれを新たに得た。今まで重ねた経験も、消えるはずの魂の灯火も、なに一つの対価も払わずに。
「ソラト?」
アリスに声を掛けられてハッとする。何回も呼ばれていたようだが、全く気が付かなかった。
「すまん、考え事してた。」
「すごく思いつめたような顔していましたよ。大丈夫ですか?」
ソフィアが心配そうにこちらを見ている。
「ああ、大丈夫だ。気にしないでくれ。」
そうだ、これはオレの問題なのだ。アリスにもソフィアにも絶対に迷惑はかけない。
だから二人とも、安心してくれ。
「......大丈夫だから。」
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