第29話 デート

 次の日の朝。

 僕とルーナさんは、貴族の方と資金援助の契約を進め、それが終わると昨日約束した通り二人で一緒に街へとやって来た。

 ルーナさんと、デート……そのことに、昨日の夜から引き続き緊張感を覚えていると、ルーナさんが口を開いて普段通り穏やかに微笑みながら言った。


「ドレスを購入した時や、資金援助のためにアラン様と街へ来たことはありましたが、こうして何も目的が無く来るのは初めてのことですね」

「そ、そうですね」


 ルーナさんは普段通り……きっと、僕だけが変にデートだなんて思って気負ってしまっているんだ。

 それなら、僕も普段通りに────


「アラン様とデートさせていただけるなんて、私はとても幸せ者です」

「デ、デート……!?」


 ルーナさんからその単語を聞いた僕が、思わず立ち止まってそう声に出していると、ルーナさんが申し訳なさそうに言った。


「はい、私はそう思っておりましたが……すみません、私とアラン様がデートなど、おこがましかったでしょうか……」

「いえ!そういうわけじゃないんです!ただ、その……デートっていう響きを聞くと男女交際を連想してしまいそうになって、緊張感が出ると感じたんです」

「私に緊張する必要などありませんし、緊張する要素もありませんから、緊張などなさらないでください」

「き、緊張する要素はありますよ!」


 僕は、ルーナさんの言葉を否定すると、続けて言う。


「ルーナさんはとても綺麗な人で、僕に優しくしてくれて、女性として魅力的で……そんなルーナさんとデートをするってなったら、緊張……します」

「アラン様……!」


 僕がそう伝えると、ルーナさんは頬を赤く染めて僕の名前を呼ぶと、頬を赤く染めたまま言う。


「……決して、私とアラン様が男女交際をするという意味ではありませんが……それでもやはり、私はデートという響きが良いのです……なので、アラン様さえ良ければ、本日は私とデートをしてくださいませんか?」


 ルーナさんと、デート……やっぱりその響きにはまだ少し緊張感を覚えてしまうけど、それでも────何故か、僕もルーナさんと同じで、ルーナさんと出かけるならデートという響きが良いと感じた。


「……わかりました、デートしましょう」

「っ……!ありがとうございます!」


 そう言って、ルーナさんは僕に明るい笑顔を見せてくれた────とても明るくて、綺麗な笑顔だ。

 ずっと見ていられそうなほど、明るくて綺麗な笑顔……そうだ、僕はこのルーナさんの笑顔を守るためにも、精一杯できることをしよう。

 改めてそう心の中で誓うと、僕はルーナさんと一緒にデートを始めた。

 そして、少し街を歩いてから、僕は近くにあるお店の方を向いて言う。


「ルーナさん、あのお店に入ってみませんか?資金援助の街回りで行ったことがあるんですけど、フルーツの飲み物が売ってるんです……資金援助の時に気になってたんですけど、その時は他にも街を回らないといけなくて飲めなくて……」

「私は、アラン様とでしたらどこでも構いませんよ」


 そう言ってくれるルーナさんと一緒にそのお店の中に入ると、店主の人が言った。


「ア、アラン様とエルリエラ様……!?」


 そして、店主の女の人がそう言うと、次にこの店に来ていたお客さんたちが話し出す。


「ほ、本当だ……!お二人で!?」

「ど、どうしてここに!?」


 混乱している様子の人たちに、僕は言った。


「僕たちはただ、客として来ただけなので、そんなに気を張らないでください」


 そう言った僕だったけど、店主の女の人が首を横に振って言う。


「この店はアラン様の資金援助によって支えられたことが今の商売の成立に大きく関わっていて、エルリエラ様にも知り合いがお世話になっているので、それは難しいです!なので!アラン様もエルリエラ様も、どうぞ一杯でも二杯でも、好きなだけお飲みになられてください!」

「え、え!?そんなの申し訳────」

「いいですからいいですから、どうぞ好きなだけお飲みになってください!!」


 ────それから、僕とルーナさんは、店主の女の人に押し切られる形で様々なフルーツの飲み物を飲ませてもらった。

 そして、その後も僕とルーナさんは様々なところを回ったが、他のところも似たような感じで、少し困惑もしたけど────僕たちは、街の人たちの優しさを改めて知ることができた。


「とても、明るい街ですね」

「……そうですね」


 そんな感じで時間を過ごしていると、もう夕暮れ時になっていたため、僕はルーナさんに言う。


「ルーナさん、そろそろ帰りますか?」

「はい……ですが、すみません……最後に一箇所だけ、よろしいでしょうか?」


 そう聞いてくるルーナさんの表情は、少し暗い表情だった。

 でも、僕にそれを断る理由はないため、頷いて答える。


「はい、行きましょう」


 僕がそう答えると、ルーナさんは微笑んで言った。


「ありがとうございます」


 ルーナさんがどこに行きたいのかはわからなかったけど、僕はやはりどこか暗い表情をしたルーナさんと一緒にルーナさんの行きたいという場所へ向かった。

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