第9話 ダンス
◇アランside◇
「船上でお料理を食べる機会というのは初めてなので、なんだか不思議な感覚です」
テラス席でルーナさんとご飯を食べていると、ルーナさんが進んでいる船から見える夜の海の景色を見ながらそう言った。
「普段は船の上でご飯を食べる機会っていうのは確かに無いですもんね、僕も数えるほどしかありません」
「……船上で今の状況のように、私でない他の女性とも二人でお料理を食べたことはありますか?」
「複数人でならあると思いますが、二人でっていうのはルーナさんが初めてです」
僕がそう言うと、ルーナさんは一度口を結んで嬉しそうに微笑んだ。
「……」
僕は、改めてルーナさんのことを見てみる。
その微笑みは、まさに聖女様といった感じの綺麗で優しい微笑みで、相変わらず今着ているドレスもとても似合っている。
姿勢や所作もとても綺麗で、ルーナさんの一挙手一投足に思わず目を奪われてしまいそうだ。
「アラン様、どうかなされましたか?」
ずっと僕に見られていることに気が付いたのか、ルーナさんがそう聞いてきた。
「いえ!どうもしないです!すみません、ずっと見ちゃって」
「アラン様になら、どれだけ見られても構いません……むしろ、私のことを見ていてくださるなら、それはとても嬉しいことなのです」
「そ、そうなんですか?」
「はい」
そう言って僕に微笑みかけてくれるルーナさんの言葉の意味はあまりわからなかったけど、少なくとも不快に思っている様子では無いから、ひとまずはそれで良いだろう。
テラス席で料理を食べ終えた僕とルーナさんは、周りにずっと大勢の人が居るのも少し落ち着かないということで、ルーナさんの提案により船内にある個室に行くことにした。
個室には質の良さそうなベッドやソファ、テーブルなどがあり、船の上の個室としてはほとんど満点に近い出来となっていた。
「豪華なお部屋ですね」
その個室を見たルーナさんが、そう感想を言う。
「元々は豪華客船らしいので、一つ一つの個室も豪華なんだと思います」
「なるほど……ですか、パーティーということはあちらの大きく質の良いベッドを使わせていただく機会は無さそうですね」
「あと一時間ほどで港に到着するのでその時に降りる場合はそのベッドを使うことはできませんが、大人の方だとお酒が入ってそのまま眠ってしまったりするかとも多いみたいなので、この船は一応次の日の朝までは船上パーティーのために貸し切られてるらしいです」
「そうなのですね……アラン様は、本日どうなさるんですか?」
「僕は港に着いたら船を降ります、船の上に残る理由も無いですし、何よりルーナさんに明日の朝まで付き合ってもらうわけにもいきません」
「私であれば問題ありませんが、船上に残り続けるとまた他の女性たちがアラン様に近づいてくる可能性もあるのでその考えは妥当……ですね」
そう言うと、ルーナさんは少し考えた素振りを取ってから僕に手を差し出して笑顔で言った。
「……アラン様、よろしければこの個室で私と踊っていただけませんか?」
「……え?」
僕は、ルーナさんのその突然の申し出に少し驚く。
ルーナさんと踊ること自体はもちろん良いけど、それだったらどうしてあのダンス会場じゃなくてこの個室でなんだろう。
そんな僕の考えは透けて見えたのか、ルーナさんがそれを捕捉するように言う。
「たくさんの方が居る前でアラン様と踊りたい気持ちもあったのですが……アラン様との、二人だけでの思い出も欲しいと思ったのです」
「そういうことなら……わかりました、踊りましょう」
「ありがとうございます」
ということで、僕とルーナさんは手を取り合って二人だけの個室でダンスをし始めた。
◇ルーナside◇
アランと手を取り合って踊っているルーナは、この踊っている瞬間はアランと一心同体になれたような気がしてとても楽しく、嬉しかった。
こうして信仰と愛を感じているアランと一緒に踊ることができるのは、ルーナにとってとても幸せなことだからだ。
「アラン様は、やはりダンスもお上手なのですね」
「ルーナさんもとても上手ですごいです」
アランに褒められたルーナはとても嬉しくなり頬を赤く染める。
本当ならいつまでもこうしていたいが、そういうわけにもいかない。
「……」
数分間アランと踊った後、ルーナがダンスのフィニッシュに向けた動きをしたため、アランもそれに合わせて動く────が、ルーナはバランスを崩し、アランの方へ体を傾けてしまいそのまま咄嗟の反応……と見えるようにアランのことを抱きしめた。
「ル、ルーナさん!?だ、大丈夫ですか!?」
「はい、すみません……バランスを崩してしまいました」
そう話している間にも、ルーナは全身でアランのことを感じる。
アランの温もり、抱きしめ心地、そして同時に自分のこともアランに感じてもらえるように抱きしめる力を少し強める────ルーナはこの瞬間、今すぐにでもアランに全てを捧げたいと思うほどに全身が愛で満たされていた。
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