第30話 過去
ルーナさんの行きたいという場所へ向けて、足を進めたいた僕とルーナさんだったけど、しばらくしてからルーナさんが足を止めた。
「……ここです」
そう言ってルーナさんが足を止めた場所の前にあるのは、何の変哲もない建物と建物の間にある路地裏だった。
「……ここは?」
「正確な場所は違いますが、私が当時七歳の孤児だった十年前、ここと似たような路地裏であるお方に救われたのです」
「っ……!そうだったんですね……」
路地裏……その言葉だけで、ルーナさんの過去が過酷だったことがわかる。
僕がそう思っていると、そのことが顔に出てしまっていたのか、ルーナさんが言った。
「そのような暗いお顔をなされないでください、食に困ることはありましたがそれ以外は特に何か不幸なことがあったわけではありませんから……それに、私はここへ暗いお話をしにきたわけではなく、明るいお話をさせていただきたいと思いここまで来たのです」
「……明るい話、ですか?」
「はい……私はここで、あるお方に食べ物をいただき、その後さらにそのお方は私のことを入浴をさせてくださったり、その当時学びたかったことが書かれている本を購入し、私にくださったのです」
「……」
僕が初めて路地裏で出会った黄金髪の女の子にも、同じことをしたような気がする……すごい偶然だ。
でも、そんな偶然が起きるのも当然かもしれない……困っている人が居ればその人を助けるのは当然────
「アラン様は今、私の話を聞かれて、私のことを救ってくださった方がそうなされたのは当然だと考えられたのではないですか?」
「えっ……!?ど、どうしてわかったんですか?」
「ふふっ、アラン様がお優しい方だからですよ」
そう言って、ルーナさんは優しく微笑んだ。
……でも実際、困っている人が居ればその人のことを助けるのは当然のことなはずだ。
「僕が特別優しいわけではありません、困っている人が居ればその人を助けるのは当然だと思います」
「それを自分とは無関係の人にも思えるのが、アラン様のお優しさだと私は考えています……私は、食べ物をいただけたことも、入浴をさせていただけたことも、本をそれらのこともそれまでの人生にないほど嬉しいと感じましたが、何よりもいただいて嬉しかったものは────その方のお優しさです」
「ルーナさん……」
「私が本日このようなお話をさせていただいたのは、今後アラン様と関わっていく上で自らの過去をお伝えしておくべきだと考えたからです」
続けて、ルーナさんは暗い表情をしながら言った。
「実は、ずっと密かに考えていたのです……今では神聖の位を持つ聖女となることができましたが、私は元々このような路地裏に居た身……そのような私が、アラン様のお傍に居るなどという幸せを、許されてもよろしいのでしょうか?」
「っ……!」
僕はその言葉を聞いた瞬間、思わずルーナさんのことを抱きしめていた。
「アラン……様?」
困惑しているルーナさんに、僕は大きな声で伝える。
「ルーナさんはルーナさんです!生まれがどうだったとか、そういうのは関係ありません!僕は今、ここに居るルーナさんと生活を共にしたいと思ったから、今ルーナさんと一緒に生活してるんです!だから……傍に居ても良いかどうかなんて悲しいこと聞かないでください!居て良いに決まってるじゃないですか!僕の傍に居て幸せになってくれるなら、僕がルーナさんのことを幸せにします!」
「っ……!アラン、様……私も、アラン様の、ことを……」
ルーナさんは小さな声でそう言うと、涙を流しながら僕のことを優しく抱きしめてくれた────ルーナさんの体の温もりは、とても心地良かった。
その後、僕とルーナさんは路地裏の前で一時の間互いのことを抱きしめ合った。
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