第31話 気持ち

 ────夜。

 僕がルーナさんと一緒に大浴場へやって来て、ルーナさんに背中を流してもらっていると、ルーナさんが頬を赤く染めて言った。


「路地裏の前でアラン様にいただいたお言葉が、今でも脳裏に焼き付いています」

「っ……!」


 僕もその時のことを思い出す。

 ────僕の傍に居て幸せになってくれるなら、僕がルーナさんのことを幸せにします!

 その時のことを思い出した僕は、すぐに大きな声で慌てて言う。


「す、すみません!あの時は、咄嗟だったので言葉選びもできず、まるで求婚をする時のような言葉となってしまって……」


 僕が恥ずかしさを感じながらも、申し訳なさも覚えながらそう言うと、ルーナさんは言った。


「気にしていませんよ……むしろ────いえ、何でもありません……ですが、アラン様のお傍に居させてもらえるということは、やはり私にとって本当に幸せなことなので、そのことを受け入れてくださったことが本当に嬉しく思います」


 受け入れてくださった……

 僕は、そのルーナさんの言葉が引っかかったので、ルーナさんに僕の気持ちをそのまま伝える。


「ルーナさんが傍に居てくれることを、僕が断るわけないじゃないですか……僕は、ルーナさんに僕の傍に居て欲しいです」

「アラン様……!」


 ルーナさんは、僕の背中を石鹸で洗うのをやめて僕の前に腕を通し僕のことを抱きしめてきた────ルーナさんは、僕の背中を洗ってくれる時はいつも布を台の上に置いているため、ルーナさんの胸や肌が直接僕の背中に当たっている。


「すみません、アラン様……どうしても、我慢ができず……」

「い、いえ……その……だ、大丈夫、です……」


 ルーナさんのことを押し倒してしまう形で、一度服を何も着ずに抱きしめ合ったこともあったけど、正面じゃなくて背中で感じるのも、それはそれでかなり僕にとっては刺激の強いものだった。

 僕ができるだけその感触から意識を逸らそうとしていると、ルーナさんが僕のことを抱きしめながら言った。


「こうしてアラン様のことを抱きしめていると、私はとても心が暖かく、幸せになれるのです……アラン様はいかがですか?」


 そう言われた僕は、一度余計な雑念を忘れて目を閉じ、今感じるものをそのまま言葉にする。


「……上手く言葉にできないですけど、ルーナさんから僕のことを大事にしてくれているような……いえ、それ以上の、何か……わからないですけど、とにかく温かいものを感じて────心地良いです」


 僕がそう伝えて目を開くと、ルーナさんは僕のことを抱きしめる力を強める。


「アラン様……」


 初めてルーナさんと会った時、ルーナさんが僕のことを敬ってくれているのは、僕が王族だからだと思っていた。

 でも、そうではないとルーナさんの口から直接聞いたことや、実際に接していて、ルーナさんが僕のことを敬ってくれているのは僕が王族だからということは関係が無いと肌で感じる。

 ……敬うという言葉すら、ルーナさんから感じるものとは何か違うような気がする。

 ルーナさんに抱きしめられている今この瞬間も、ルーナさんから伝わってくるこの温かい何かの正体が掴めない……僕のことを大事にしてくれているだけではない、それ以上の何か……でも、大事にする以上の何かって、この世界に何があるんだ?

 もしそんなものがあるんだとすれば、きっと────僕は、王族としてその正体を知らないといけない。


「……ルーナさん、僕……本当に、これからもずっとルーナさんと一緒に居たいです……今までもそう思っていたんですけど、今そのことを強く感じました……ルーナさんと居たら、何か大事なことを理解できそうな気がするんです────いえ、そうでなかったとしても、僕はルーナさんと一緒に時間を過ごしていきたいです」

「アラン様……!当然、私はずっとアラン様のお傍に居ます……アラン様……」


 その後、ルーナさんが僕のことを抱きしめたまま時間は過ぎていった────その時間は、とても心地良い時間だった。

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