第32話 玉座の間

 ────ルーナさんと生活を共にし始めてからしばらくした頃。

 僕は、珍しく国王であるお父様に、玉座の間へ呼び出されていた。


「お父様、本日は何用ですか?」


 僕がそう聞くと、お父様は真面目な表情で言った。


「うむ、アラン……お前が成人して皇位継承権を得るまで、あと半年を切った……そこで、そろそろだと思ったのだ」

「そろそろ……?」

「……あと少しで皇位継承権を得るお前に一つ大事なことを聞いておくが、王族として一番重要なことは何だと考えている」


 王族として、一番重要なこと……当然、王族として重要なことというのは数えれば増えて、また数えれば増えてを繰り返しそうなほどにたくさんある。

 でも、一つと言われたら……


「国の平和を守り、国に住まう民の人たちのことをお守りすることです」


 僕が答えると、お父様は力強く頷いて言う。


「その通りだ……そして、そろそろだと言ったのは、そのために必要なことの一つを学んでもらうということだ」

「……それは、なんですか?」

「────人を知ることだ」


 ……漠然とはわかるけど、お父様がどういった意図でその言葉を言っているのかはわからない。


「お父様、人を知るというのは、どういうことですか?」

「その答えを出すのは、お前自身だ……この答えは、自分で出さねばならない……だから、お前の父としてただ一つだけ命ずる────本日より、他国の見知らぬへ赴き、その地で一つの問題を解決し、その国になんらかの形で貢献せよ……それを終えるまで、帰ってくることは許さん」

「えっ……!?」


 僕はその突然の命に驚いて驚きの声を上げたが、それを気にせずに言う。


「自らが王族としての立場の場で何かを成せたとしても、それだけで王としての力の証明にはならない……自らの権力が全く無い状況で何を生み出すことができるのかで、本当の王族としての力を示すことができる」

「ま、待ってください!そんなこといきなり言われても────」

「安心せよ、何も一人でとは言うまい……お前の今一番頼れる人物、もしくは共に居たいと思える相手が居るなら、その相手一人だけは連れていくことを許可する」

「え……?」


 ……今、僕が一番頼れて、一緒に居たいと思える相手?

 ────そう言われた瞬間、僕はルーナさんの顔が頭を過った。


「少し前のお前なら、ここで思いつく相手は純粋に優秀な人物だったと思うが……今のお前は、もしかしたらあの神聖の位を持つルーナ・エルリエラが思い浮かんだか?ははっ、いやはや、父としてはアランにそういった相手が見つかって嬉しいばかりだ」

「か、からかわないでください!ルーナさんはそういう相手じゃありませんから!」


 お父様は少し笑ってから、再度真面目な顔つきで話始める。


「さっき学んでもらうことは一つだと言ったが、もしお前の連れて行きたい相手がルーナ・エルリエラなら、お前はもう一つとても重要なことを学べるかもしれん」


 僕の連れて行きたい相手がルーナさんなら、もう一つ重要なことを学べる……?


「もう一つの重要なこと……それは、なんですか?」

「────その答えも、自分で見つけねばならないものだ……そもそもそれは、教えられるものではないからな」


 ……お父様の言っている言葉の意味がよくわからないけど、その重みだけは僕にも伝わって来た。

 そんな大事な旅に出るなら、やっぱり僕のパートナーは一人しか思い浮かばない。

 僕は、力強くお父様に言った。


「わかりました……僕は、ルーナさんと一緒に旅に出ます」

「よく言った……馬車の御者にはもう行く先を伝えてあるから、お前たちは王城前にある馬車に乗るように」

「はい!」


 その会話を最後として、僕は玉座の間を出た。

 そして、僕の部屋に居るルーナさんのところへ戻ると、ルーナさんは言った。


「おかえりなさいませ、アラン様」

「ただいまです、ルーナさん」


 僕はその挨拶をしてから、ルーナさんにお父様に言われたことを伝えた。


「なるほど……旅、ですか」

「はい……それで、一人だけ誰かを連れて行けるっていう話のことなんですけど────僕は、ルーナさんと一緒に旅へ出たいんです」


 僕がそう言うと、ルーナさんは頬を赤く染めて嬉しそうな表情で言った。


「っ……!もちろんです、アラン様!私はアラン様とでしたら、どこへでも行きます!」

「ありがとうございます、ルーナさん!」


 ────こうして、僕とルーナさんは、二人きりでいつ終わるのかもわからない旅へと出ることになった。



 この作品の連載が始まってから一ヶ月が経過しました!

 いつもこの物語を読んで、いいねや☆、コメントをくださっている方へ、本当にいつもありがとうございます!

 作者は今後もこの物語を楽しく描かせていただこうと思いますので、この物語を読んでくださっているあなたも最後までこの物語をお楽しみいただけると幸いです!

 今後もよろしくお願いします!

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