第33話 関係

 一通り必要そうな荷物を持った僕とルーナさんは、一緒にお父様の用意してくださった馬車へ乗り込むと、その馬車はどこかへ向けて走り出した。


「アラン様のお父君からは、この馬車がどこへ向かうのかは教えていただけなかったんですよね?」

「はい……ただ、他国の見知らぬ国と言っていたので、おそらくデーヴィット王国とはほとんど縁の無い国になるんじゃ無いかと思います」

「なるほど……となると、本当に後ろ盾の無い状態で、その国へ貢献したと言えるほどのことを成さないといけないのですね」


 ……もしも僕が一人だけだったら、今頃慌ててどうしようかと考えていたところだけど、僕は今不思議とそこまで慌ててはいなかった。

 もちろん、それは僕にとってこのお父様から出された命が簡単だからということではない……きっと、それは本当に難しいことだ。

 だったら、どうしてそこまで僕が慌てていないのか……その理由は一つしかない。

 僕は、その理由を口に出してルーナさんに伝える。


「僕は、ルーナさんと一緒であれば、今回のことも全然怖くありません」

「アラン様……!アラン様のご期待に添えるように、全力で手助けさせていただきます!」

「助かります!」


 ルーナさんが手助けしてくれるなら、それ以上に心強いことなんてない。

 ルーナさんとなら……本当に、どんなことだってできそうな気がする。

 そして────数時間後。

 夕暮れ時になってからしばらくした頃、馬車はその足を止めた。


「────着いたようですね」

「ルーナさんと話していると、あっという間でしたね」

「私も同じ気持ちです」


 そう言って微笑んだルーナさんと一緒に、僕は馬車から降りる。

 すると────そこは街だった……けど。


「やっぱり、見たことのない街なので、デーヴィット王国とは縁の無い場所みたいです」


 つまり、この国の事前知識は一切無いということだ。


「そうですか……色々と調べてみたいところですが、その前に宿を探しませんか?」

「そうですね」


 持っていく荷物を選んでいる間にお父様に聞いてみると、お金は半年の間生活できる分だけ持って行っても良いということだったので、変な使い方をしなければ半年はこの街で暮らしていくことができるだろう。

 ということで、僕たちは早速を宿を探すために街を歩く。

 建物やお店などがあって、それらに使われている建材などからこの国の文明力がデーヴィット王国とほとんど変わらないことがわかる。

 そんなことを考えながら歩いていると、宿らしきところを見つけたため、僕たちはそこへ入る。


「らっしゃい」


 すると、宿主と思われる男の人が慣れた雰囲気でそう言った……宿屋に入ったことはあるけど、泊まりに来るのは初めてだから少し緊張する。


「宿に泊まらせてください」

「はいよ、料金はその紙に書かれているとおりだ」


 宿主さんがそう言って指を指した紙には、一泊の値段や十泊の値段、そして一ヶ月泊まった時の値段なんかが書かれていた。

 ……もっと泊まりたくなったら後からまた決めればいいし、今日は様子見ということでとりあえず一泊で良さそうだ。


「一泊でお願いします」

「はいよ」


 そう言って僕が料金を払うと、宿主さんは僕に部屋の鍵を渡してくれた。

 そして、続けて言う。


「お二人はカップルさんかい?もしそうなら、他の客に迷惑がかかるから夜はあまり激しくしないように頼むぜ」

「っ……!ぼ、僕たちはそういうのじゃありませんから!」

「そうかい、美男美女でお似合いだと思ったんだがなぁ」

「い、行きましょう、ルーナさん!」

「はい」


 僕は、少し慌てながらもルーナさんと一緒に割り当てられた宿の部屋へと入った。


「はぁ、お父様といい宿主さんといい、あんなことを……」

「……お父君にも、何かを言われたのですか?」

「え……!?い、いえ!ただ、ルーナさんがそういう相手だとからかわれただけですから!」


 僕が、またも慌ててそう言うと────ルーナさんは、不安そうな表情で聞いてきた。


「アラン様は……嫌、なのですか?」

「え……?」

「────私とそういった関係だと思われることは、アラン様にとって嫌なこと……なのですか?」

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