第13話 本望
「アラン……様?」
形だけ見れば、突然僕に押し倒されたルーナさんは、当然困惑の表情を浮かべていた。
こ、こんなことをするつもりは全く無かったのに……!
ルーナさんに軽蔑される……?嫌われる……?
ち、違う、そんなことを考える前に、とりあえずこのルーナさんのことを押し倒してしまっている状況の方をなんとかしないと!
今、僕はルーナさんの両胸を、ドレス越しにとはいえしっかりと触ってしまっているから、この手を離さないといけない────けど、変に刺激したらダメだろうから、手はゆっくり離した方がいいのかな?それとも、ゆっくり離すよりも勢いよく手を離したほうがいいのかな?
ダメだ、考え事をしてる場合じゃない、ひとまずルーナさんにこれが誤解だと伝えないと!
「あ、あの、ルーナさん、僕は、やましいことを考えてるわけじゃないんです!こ、こんな状態で言われても信じられないかもしれないんですけど、僕は、ただ……」
僕が、動揺のあまり言葉を上手に紡げないで居ると、ルーナさんは優しい表情で言ってくれた。
「えぇ、わかっていますよ……アラン様、そんなにお気持ちを動転させずとも、これくらいのこと私はどうとも思いませんから」
「ほ、本当にすみません!ルーナさんのドレスの胸元がはだけそうになっていたので、それを止めようとしたら、勢いでこんなことになってしまって」
「そういうことでしたら、私の不注意ですね……アラン様には何も非はありません」
「本当に、すみません……手を、離します」
僕は、ルーナさんの胸元からゆっくりと手を離し、ルーナさんのことをベッドに押し倒している体勢を変えようとした────ところで、ルーナさんが優しい表情と声音で言った。
「アラン様、すみません……私は先ほど、アラン様に一つ嘘をつきました」
「え……?嘘、ですか……?」
「はい、先ほどこれくらいのことをどうとも思わないと言ったことです」
あれが、嘘……当然だ、どんな理由があるにしてもいきなり男性から胸を触られながらベッドに押し倒されたら────
「ほ、本当にごめんなさい!」
僕はその気持ちを想像して誠心誠意謝罪した────けど、ルーナさんは優しい表情で首を横に振って言った。
「そういうことではありません……本当は、私はどうとも思わないのではなく────嬉しいと、感じました」
「……え?嬉、しい……?」
全く予想だにしていなかったことを言われて、僕はかなり驚いてそう聞き返すと、ルーナさんは小さく頷いて言った。
「アラン様のようなお優しい方に求められたと感じ、嬉しいと感じたのです」
「そ、そんな……僕のために気を使ってくれてるなら────」
「お言葉を遮って申し訳ありませんが、気を遣っているわけではありません……私は本当に、そう強く感じたのです」
そう強い口調で言うルーナさんの目は、確かにとてもじゃないけど気を遣っているようには見え無かった。
そして、ルーナさんは僕の顔に自分の右手を添えて言った。
「アラン様、私はアラン様に求められるのであれば本望です……なので、どうかご自分を責めないでくださいね」
「……ありがとう、ございます」
僕は、今この瞬間だけはルーナさんの優しさとルーナさんの手の温もりだけを感じることにした。
◇ルーナside◇
動揺した表情から、だんだんと安心した表情へと変わっていくアランの顔に右手を添えながらルーナは思う────危うく主の意に反して愛の行為を始めてしまいたくなるところだった、と。
ルーナはアランに胸を触られてベッドに押し倒された時、今までにない胸の高鳴りを覚えたが、アランの動揺した表情を見て、今後のためにどうにか自分の欲求を抑え、アランのことを安心させる方向へと持っていくことにした……ルーナにしてみれば、身も心もアランに捧げると決めているから、アランに体を触られることに嫌悪感などあるはずもなく、むしろそれは本望だったため、アランに触れることのできている今この瞬間も、ルーナは文字通り嬉しい────という言葉だけでは言い表せないほどに、幸せな感情でいっぱいだった。
「主よ……今後共に生活を重ねていく中で、少しずつ愛を捧げさせてください……そしていつか、主の寵愛も我が身に……」
ルーナは心の中でそう呟きながら、今後のアランとの生活をとても楽しみにしていた────こうして、二人の寝食を共にする生活が幕を開ける。
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