第23話 交渉

◇アランside◇

 客室に入った僕は、早速その客室のソファに座っている、少し肥満体型で長い髭を生やしている公爵家のデドードさんの対面に座って挨拶をする。


「こんにちは、デドードさん」


 僕がそう挨拶をすると、デドードさんも挨拶を返してきた。


「こんにちは、アラン様……おや、そちらの綺麗な女性はどちらですか?」

「あぁ、えっと……この人はルーナ・エルリエラさんという方で、神聖の位を持つ聖女様なんです」


 僕がそう言うと、ルーナさんはデドードさんに会釈をした。


「ほほう、その名前には聞き覚えがありますぞ……こんな美女は世界中を探してもそうはおりませんな……して、本日は何用ですか?」

「はい、今日も前回と同じで、デドードさんの持っている資金を少しでも良いので困っている民の人たちに分けていただきたいんです」


 僕がそう言うと、デドードさんはため息を吐いて言った。


「以前も言いましたが、私の財は私が自力で集めたものです、それを何故民に渡さねばならないのでしょうか」

「困っている人を助けるのが僕たち王族、そして貴族の人の務めだからです」

「いやはやアラン様は素晴らしい心の持ち主ですな、ですが生憎、私の家には他人に財を分け与えられるほど裕福ではないのです」

「そ、そんなはずは────」

「アラン様はまだご成人なされていないので詳しいことはわからないと思いますが、建物の改修費や土地代など、財を成せば成すほどそれと比例して財を使うことも多くなっていくものなのです」


 確かに、それはそうなのかもしれないけど、このデドードさんの場合はそれを加味してもたくさんの財を持っているはず。

 なのにそれを民の人たちに分けないなんて……どうしてデドードさんはわかってくれないんだろう。

 僕がそう思っていると、デドードさんが自分の長い髭を触りながら言った。


「アラン様は、勉学面などは優秀だとお聞きしておりますが、やはり経験が何よりも重要な交渉の方はまだまだですな、こちらにも利が無いと私に財を出す理由は無いのですよ」

「それは……以前にも言いましたが、今の僕にはまだ何か差し出せるほどの権限が無いので、成人して皇位継承権を得てから、利はいくらでも作り出してみせます」

「でしたら、交渉はその時ですな、アラン様、本日はこれで────」


 デドードさんがそう言いかけた時、僕の後ろからルーナさんの声が聞こえてきた。


「アラン様に感謝していただけること、それ以上に一体どのような利をお求めになっているのですか?」

「ル、ルーナさん……?」


 僕がルーナさんの方を振り向くと、ルーナさんは優しく僕に微笑んで言った。


「すみませんアラン様、私もあの方を説得してみようと思いますが、口下手なところをアラン様に見聞きされてしまうのはお恥ずかしいので、アラン様は少しの間あの方の方を向いて耳を塞いでおいていただけますか?」

「……わかりました」


 本当を言うとあまりよくわからないけど、ルーナさんが僕のために何かしてくれてようとしていることだけは強く伝わってくるから、ルーナさんがそうして欲しいというのであればそうしよう。

 僕はルーナさんの言う通りにデドードさんの方を向いて両耳を塞ぎ、何も聞こえないようにした。



◇ルーナside◇

「……アラン様、お聞こえになりますか?」

「……」


 ルーナはアランに自分の声が聞こえていないことを確認すると、デドードの方を向いた。

 すると、デドードはルーナに向かって言う。


「エルリエラと言ったか、さっき私に何か言ったかね?」


 そう聞かれたルーナは、微笑んで答える。


「はい、アラン様に感謝していただけること以上の利など、あなたのような方が得る資格があるとお思いですか?」

「何を言って────」

「いえ、失礼しました……あなたにはアラン様に感謝される資格などありませんでしたね」


 そう言うと、ルーナは続けて微笑みを消し、デドードに冷たい目を向けて言った。


「あなたはただ、アラン様のお求めになっていることに応えなさい」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る