第24話 存在

 突然ルーナから冷たい目を向けられてそう言われたデドードは、少し動揺しながら言う。


「な、なんだね君は、私が誰か────」

「あなたこそ、このお方がどのような存在か理解されているのですか?」


 そう言うと、ルーナはアランの方に手を向けて言った。


「このお方は、この国の第三王子アラン・デーヴィッド様ですよ?あなたはこの方の慈悲深い心による交渉を断ったのです……恥を知りなさい」

「ぐっ……」


 ルーナにこれ以上ないほどに冷たい目で見られたデドードは、恐怖からそんな声を上げた。

 だが、ここでその恐怖に負けることを自身のプライドが許さなかったので、デドードはまたも口を開く。


「こ、この私を相手に全く気圧されないとは、流石は神聖の聖女、君には見どころがあるな……そこで一つ、アラン・デーヴィットではなく、私の元へ来ないか?も、もちろんただでとは言うまい、君の欲しいものがあればなんでも与えてやろう」


 そう言うデドードの表情は、動揺しながらも、これでどうにか状況を打破できるということを確信している表情だった。

 そのことに対し、ルーナは呆れ以上の何かを感じながら言った。


「よりにもよって、私を買収とは……私への最大と言ってもいいほどの侮辱、もはや怒りを過ぎて愚かとしか言いようがありません、あなたは我が主に救われることすらできないほどに愚かです」

「な、なんだと────」

「あなたとの会話にも疲れました……なので、もう一度だけ言います」


 冷たい声音でそう言うと、ルーナは今日の中で一番冷たい表情と声音でデドードに言った。


「あなたはただ、アラン様のお求めになっていることに応えなさい……わかりましたね?」

「ひ、ひっ!わ、わかった!わかった!」


 デドードが動揺を隠すことができず、もはやルーナに対し怯えるようにそう言うと、ルーナは一度溜息を吐いてからアランの方へ目を向けるとルーナは微笑んだ。

 ────あぁ、アラン様……あのような愚かな人間と違い、やはりアラン様はとてもお優しく、とても美しく、見ているだけで温かい気持ちになってしまいます。

 そんなことを考えながら、ルーナはアランの右肩を優しく触った。



◇アランside◇

「……」


 耳を塞いでいるから何を言っているのかは聞こえないけど、デドードさんが慌ててるみたいだ。

 あのデドードさんがこんなにも慌てた様子を見せるなんて……ルーナさんは一体どんな交渉をしているんだろう。

 僕がそう思っていると、後ろから僕の右肩を触られたため、咄嗟に後ろを振り向くと、僕の右肩を触っているルーナさんが優しく微笑んでくれていて、ルーナさんは小さく頷いた。

 きっと、もう耳を塞がなくて良いということだろう。

 僕は両耳を塞ぐのをやめると、ルーナさんに聞いた。


「ルーナさん、交渉はどうなったんですか……?」

「快く引き受けてくださることになりました……そうですよね?」


 ルーナさんがデドードさんの方を向いてそう聞いたため、僕はデドードさんの方を向くと、デドードさんはとても早く何度も頷いていた。

 あのデドードさんがこんな態度になっていることが未だに信じられないけど、僕は一応確認しておくことにした。


「デ、デドードさん、本当に民の人たちへの資金援助をしてくださるんですか?」


 僕がそう聞くと、デドードさんは動揺したような声音で言った。


「は、はい、アラン様、今後は誠心誠意アラン様のお求めになることに全力でお応えさせていただきたいと考えております」

「あ、ありがとうございます……あの、一つお聞きしたいんですけど、ルーナさんとは一体どのような交渉をなされたのですか?」


 僕がそう聞くと、デドードさんは一度僕の後ろに視線を逸らしてからすぐに僕に視線を戻して言った。


「こ、交渉ではなく……ただ、アラン様の民を想う気持ちを素晴らしいと感じたからです」

「そ、そうですか……ありがとうございます」


 よくわからないけど、とりあえず引き受けてくれるというのであれば今はこれ以上余計なことは言わないでおこう。

 その後、資金に困っている人たちへの資金援助の話を書面などに記すと、デドードさんは王城を後にした。

 デドードさんを見送った門前から自室に帰ってきた僕は、同じく僕と一緒に僕の自室に居るルーナさんに聞いてみる。


「あのデドードさんがあそこまで前向きに資金援助の話をしてくださるなんて……ルーナさんは、一体デドードさんとどのような交渉をしたんですか?」

「交渉と言っても、こちらは何も差し出していませんので、私がしたことは説得というところでしょうか……アラン様のお優しい心が、あの方にも伝わっていただけたようですよ」


 僕にはそんなことできなかったけど、ルーナさんにならそんなことができても不思議はない。


「……ルーナさん」

「はい」


 僕はルーナさんの名前を呼ぶと、ルーナさんのことを抱きしめた。


「ア、アラン様……!?」


 驚いている様子のルーナさんに対して、僕は大きな声で言った。


「ルーナさんのおかげで、たくさんの人を助けることができそうです!本当に、本当にありがとうございます!」

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