第25話 疑問

◇ルーナside◇

 アランに感謝を伝えられながら抱きしめられた刹那、ルーナは思う────今、アラン様のことを抱きしめ返してもよろしいのでしょうか……


「……」


 ────私から自発的にアラン様のことを抱きしめるという行為は現段階では難しいですが、今回はアラン様から抱きしめていただいています……そして、昨日はアラン様と直接肌を重ね合わせて互いのことを抱きしめ合いました……ということは、今私がアラン様のことを抱きしめてしまっても問題無いのでは?……しかし、アラン様は今私への感謝によって私のことを抱きしめてくださっています、その感謝に漬け込むように私欲でアラン様のことを抱きしめるというのは、あまり好ましく思えません……ですが、アラン様のことを抱きしめたいと思う衝動もあります。

 刹那の間にそれらのことを考えたルーナは、口を開いて言った。


「私は何も特別なことはしていません、全てはアラン様が今まで努力なされてきた故のことです」

「ルーナさん……!」


 アランのことを抱きしめることはせずに、そう言うだけに留めた。

 ────私は、アラン様の感謝の感情に漬け込むような真似は致しません……ですが、あのようなものに要求を呑ませただけで、アラン様から抱きしめていただけるなどという幸せをいただいてもよろしいのでしょうか、いえ、これはアラン様がしてくださっていることなので、私が疑問を持つことではありません……でしたら今は、アラン様に抱きしめられているという幸せだけに意識を集中させましょう。

 その後、ルーナは少しの間アランに感謝を伝えられながらアランに抱きしめられ続けた。



◇アランside◇

 ルーナさんのことを少しの間抱きしめながら感謝を伝えていた僕は────ルーナさんのことを抱きしめてしまっているということをようやく客観的に認識すると、すぐにルーナさんのことを抱きしめるのをやめて言った。


「す、すみませんルーナさん!いきなり抱きしめてしまって!」

「いえ、アラン様にでしたら、どれほど抱きしめていただいてもよろしいですよ」


 気を遣わせてしまったみたいだ。

 このままの雰囲気は少し申し訳なかったため、僕は時計の方を一度見て言う。


「そ、そろそろ昼食の時間なので、一緒に食べましょう!』

「はい、そうですね」


 ルーナさんが優しく微笑んでそう言ってくれると、その後僕とルーナさんは僕の部屋で昼食を食べることにした。

 そして、朝食を食べている途中でルーナさんが言う。


「アラン様、よろしければ今日の間に料理長の方へ、明日の朝食はアラン様と私の分を作らなくても良いです、言伝していただけませんか?アラン様にこのようなことをお願いするのは申し訳ないと感じているのですが、まだ王城で生活を始めてから二日ほどしか経っていない私がそのようなことを伝えるのも不自然かと思いましたので」

「それは気にしなくても大丈夫、ですけど……どうして朝食が要らないんですか?」


 僕がそう困惑していると、ルーナさんが頬を赤く染めて優しく微笑みながら言った。


「以前申しました通り、私がアラン様に朝食を作らせていただきたいからです」

「っ……!」


 そうだ、そういえば、前にルーナさんが僕に朝食を作ってくれるって言ってたんだった!


「わかりました!そういうことなら、この昼食を食べ終わったらすぐに料理長に伝えておきます!」

「ありがとうございます」


 昼食を食べ終えた後、僕はルーナさんに言われた通り、明日の朝食は作らなくても良いことを料理長に伝えると、自室に戻ってルーナさんに言う。


「今日はもう何か特別な用事はないので、僕は勉強をしようと思います」

「わかりました……よろしければ、私もアラン様のお勉強を隣で見させていただいてもよろしいですか?」


 僕の勉強していることに興味を持ってくれてるのかな……当然、僕にそれを断る理由はない。


「はい、もちろんです」


 僕がそう言うと、ルーナさんは優しく微笑んだ。

 そして、僕が椅子に座って勉強を始めると、ルーナさんは僕の隣へやって来た。


「アラン様は、このようなことをお勉強なされているのですね」


 そう言った後、ルーナさんは少し暗い表情で言った。


「アラン様……お勉強中に申し訳ないのですが、一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「大丈夫です、なんですか?」


 僕がそう聞き返すと、ルーナさんは僕に身を寄せて言った。


「アラン様は、ご成人なされて皇位継承権を得れば、婚約者の方をお探しになるのですか……?」

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