第2話 主
◇アランside◇
「アラン様、お待たせしてしまい申し訳ありません」
「いえ、飲み物を淹れていただいてありがとうございます」
紅茶の入った二つのカップを手に持ったルーナさんが僕の座っているソファまで戻ってくると、そのカップを目の前にある机に置いて僕の隣に座った。
せっかく紅茶を淹れてもらったのにそれに口を付けないのは失礼かもしれないと思った僕が、その紅茶の入ったカップに口を付けて飲んだ。
そして、そのカップを机の上に戻して改めてルーナさんの方を向いてさっきの続きを話し始め────ようとした時、ルーナさんが小さな声で何かを呟いていた。
「私が淹れた紅茶をアラン様が……!あぁ、主よ……既に幸福に満たされているこの身に、さらにこのような幸福まで与えてくださるなんて……!」
……何を言っているかはよく聞こえないけど、主っていう単語が聞こえたからおそらく神様にお祈りを捧げているんだろう。
神聖の位を持っているというだけあって、本当にその神様のことを崇拝しているみたいだ。
でも、このままルーナさんがずっと何かを呟いているところを見ているわけにもいかないため、僕は恐る恐るルーナさんに話しかける。
「ルーナさん……続きを話させていただいてもよろしいですか?」
「────っ!は、はい!すみません、つい……」
「いえ、気にしないでください」
ルーナさんは、一度静かになって落ち着いた様子だったので、僕は今度こそ本題に入らせてもらうことにした。
「今、僕はとても悩んでいることがあるんです」
「私で良ければ、是非お聞かせ下さい」
ルーナさんは、とても優しい声でそう言った。
……今の今まで、おそらく僕が王族だからという理由でルーナさんの様子が少しおかしいところもあったけど、ようやく本当に聖女さんといった感じの雰囲気だ。
僕は、ルーナさんに悩んでいることをそのまま伝える。
「僕は、この国の第三王子で今十七歳なんですけど、十八歳にならないと皇位継承権がもらえなくて、王族の中でも一番権力が無いんです」
「そうですか……」
「でも、小さな頃からできる限り一人でも多くの人を助けたいっていう気持ち一心で色々な人のことを助けて、今はできる限り権力争いとか他国との小規模な戦争を止めたりしようとしてるんですが、それらはまだほとんど実らず今できてることと言えば孤児院や資金力の無い方々のことを少し援助することぐらいで、王族という立場に生まれながらこんなことしかできていない自分に、情けなさを感じてるんです」
僕の悩んでいることを全て口にすると、ルーナさんは優しさと同時に哀しさを思わせる表情をした。
「それはとてもお辛いお悩みですね……ですが、孤児院や資金力の無い方々への援助を行なっていて、小さな頃からできる限り一人でも多くの人を助けたいという志のもと実際にそれを行動に移していることに情けなさを感じる必要は無いと思います」
「……そう言っていただけるのは嬉しいですけど、僕のやっていることは結局自己満足なのかもしれないって、最近思うんです」
「自己満足などではありません、アラン様に救われた人間は必ずアラン様に感謝しているはずです」
「感謝……ですか」
どうしてだろう……ルーナさんのその言葉には、とても感情が込められているような気がする。
ルーナさんが僕に感謝することなんて無いはずなのに、とても温かい何かをルーナさんから感じ取ることができる。
「ありがとうございます、聖女様……少し気が楽になりました」
そう言って僕が立ち上がると、ルーナさんは大きな声で僕の名前を呼んだ。
「アラン様!」
「はい?」
名前を呼ばれた僕が聖女様の方を見ると、聖女様は頬を赤く染めながら言った。
「こんな言葉を発言するのは恐縮なのですが、良ければアラン様の願いの実現のために、私も協力させていただけませんか?」
「ルーナさんが、僕に協力?」
「はい!悩みがあればお聞きしますし、私程度でその役目が足り得るかはわかりませんが解決のために思案もします!必要とあれば、私の身も心も全てアラン様に差し出します」
協力、悩み、解決、身、心……?
色々と思うところはあったけど、とにかくルーナさんが協力してくれるということなら僕としてはありがたい限りだ。
「わかりました、よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
ルーナさんはそう言って一度僕に頭を下げると、そのまま僕のことを大聖堂の外まで見送ってくれて、僕はそのままここまでやって来た馬車で王城へと帰宅した。
◇ルーナside◇
ルーナは、応接室でアランと二人で座っていたソファに座り、つい先ほどの会話を思い出して口角を上げていた。
「主よ、わかったと仰ってくださったのはどこまでおわかりになっていただけたのですか?よろしくとはどこまででしょうか……私がアラン様の願いのために協力するためですか?悩みを聞くことですか?それとも解決のために思案することですか?それとも、身も心もアラン様に差し出すことでしょうか?あぁ……心は言われずとも差し出していますが、身を差し出すこともアラン様は許可してくださるのでしょうか?なんて、アラン様はそのようなことは考えていないのでしょう────我が主、アラン・デーヴィット様、私の全てをあなた様に全て捧げることを、どうかお許し下さい……」
その後、ルーナは一人その応接室で手を合わせて
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