第3話 敬意
◇アランside◇
────ルーナさんと初めて会ってから数日後、僕はまたルーナさんの居る聖堂へとやって来た。
すると、僕のことを見つけたルーナさんが笑顔で僕の方に近づいてきて、一度僕に頭を下げてから言った。
「アラン様、再度この聖堂まで足を運んでいただきありがとうございます」
「……僕の方こそ、ルーナさんのような方が協力してくださるということに感謝しかありません」
「そのようなお言葉をいただき光栄です……本日も応接室でお話をお聞きしましょうか?」
「いえ、せっかく聖堂に来ているので、今日はルーナさんが信仰している神様の見えるところで話しましょう」
「わかりました」
ということで、僕とルーナさんは聖堂の最前列の椅子に向かう。
「ルーナさん、今日も膝をついたりせずに隣に座ってくださいね」
「私がアラン様のお隣に座らせていただくなど恐縮ですが、アラン様がそう仰るのであればそのようにさせていただきます」
相変わらず、ルーナさんは僕のことをとても上に置いているような雰囲気だ。
……今言わなくても良いかもしれないけど、今後のことを考えれば早い段階で言っておきたいことがあったため、僕はそのことを伝えておくことにした。
「ルーナさん、僕が王族だからと言ってそこまで僕に敬意を払う必要はないです」
王族に生まれたからというだけで、僕はまだ何も成し遂げられていないのに敬意を払われてきたけど、正直僕はそれが苦手だった……その理由は、その敬意に見合うだけのことを、僕がまだ成し遂げられていないからだ。
この国の制度上、どうしても成人しないと何かを成し遂げるのは難しいし、僕の場合は王族として何かを成し遂げようと思ったらなおさら成人して皇位継承権を得なければならない。
だから、僕がまだ何も成し遂げられていないのを仕方ないと言ってくれる人も居るけど────やっぱり僕は、どうしても自分にそう言い聞かせ続けることができない。
今できる限りのことをやって、人々を助けたい……それがきっと王族に生まれた僕のするべきことで、僕のしたいことでもある。
でも、まだそれらのことを全然成し遂げられていないから、王族だからというだけで敬意を払われるのはあまり好きじゃな────
「私がアラン様に敬意……そして、それ以上のものを払わせていただいているのは、アラン様が王族の方だからということはほとんど関係ありません」
「……え?」
その言葉に、僕は少し驚いた。
こんなにも僕に敬意を払ってくれているルーナさんが僕に敬意を払ってくれている理由が、僕が王族であることはほとんど関係ない……?
大体は僕が王族だからという理由の人がほとんどなのに……僕がそのルーナさんの言葉に疑問を抱いていると、ルーナさんは僕に優しい微笑みを見せてくれながら言った。
「全てはただ、私のことを救ってくださった主への敬意であり、信仰であり……愛なのです」
どうして僕の話をしていたのにルーナさんが信仰している神様の話になったんだろう、と思ったけど。
「そうだとすれば、ルーナさんの信仰している神様も、ルーナさんと同じでとても優しい方なんですね」
「私はアラン様にそのようなお言葉をいただけるほどの存在ではありませんが、我が主は本当に心優しく、人々のために悩み苦しみ、それでも人々を救おうとして下さっている慈悲深いお方なのです……現に、私自身も主に救われましたから」
「そうなんですね……また、ルーナさんの信仰している神様のお話も聞かせてください」
「わかりました!お話だけでなく、私がどれほど我が主を信仰し愛しているのかもお伝えさせていただきます!」
一つの話が落ち着くと、僕は今日この聖堂にやって来た理由を伝えることにした。
「今日お話したいことは、近々開催される船上パーティーのことなんです」
「船上パーティー、ですか?」
「僕自身はそんなことをしている場合じゃ無いと思ってるんですけど、成人する前にできるだけ多くの有力者と関わっておくというのが通例らしくて……」
「なるほど……そういうことでしたら、特にお悩みになる必要も無いのでは?」
「それが……そのパーティーの話を聞かされた時に忠告されたことなのですが、十中八九たくさんの女性の方が僕に対して何かしらのアプローチをしてくると言われたので、それをどう乗り切ろうか────ルーナさん……?」
僕が話していると、ルーナさんが途中から表情は笑顔なものの目が全く笑っていない表情へと変化していた。
「たくさんの女性が、アラン様にアプローチ……?」
ルーナさんは、どこか暗い声音でそう言った……どうしたんだろう?
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