第42話 十年間

「……え?」


 救った……?僕が、ルーナさんのことを……?

 ……今までのルーナさんとの生活を振り返ってみるも、僕がルーナさんのことを救ったと言えそうなことなんて無い。

 というか、僕とルーナさんが生活している中で僕がルーナさんのことを何かしらの形で救っていたとしても、それではルーナさんと出会った最初からルーナさんが僕が王族ということ以外を理由に僕に敬意を払ってくれていたことの説明にならない。

 僕が、ルーナさんの言葉の意味を理解できずに居ると、ルーナさんは言った。


「今までずっとお伝えしていませんでしたが、私は────十年前に、アラン様に救っていただいたのです」

「十年前に……僕が、ルーナさんのことを……?」


 十年前……つまり、僕が七歳の時だ。

 僕が七歳の時と言えば、資金力が無いなりに、路地裏に居た困っている人たちに食べ物をあげたりしていた時だ。

 路地裏、その単語が心の中で浮かんだとき、僕はルーナさんと一緒に路地裏前に行った時のルーナさんの言葉を思い出した。


「────正確な場所は違いますが、私が当時七歳の孤児だった十年前、ここと似たような路地裏であるお方に救われたのです」


 じゃあ、あの時のルーナさんのあるお方っていうのは……僕のこと?

 そう考えて改めてルーナさんのことを見てみる。

 そこに居るのはとても綺麗な女の人だ……あの女の子が可愛い女の子だったことは覚えているけど、十年も経った今ではその容姿から過去の記憶を探ることは難しいかもしれない。

 でも────その黄金色の髪には、見覚えがあった。


「もしかして、ルーナさんは……」

「はい、私は……アラン様が初めて、困っている人たちへの援助を始め、アラン様に初めて救われた者です」

「っ……!」


 あの時の女の子が、ルーナさん……?

 あの女の子には……確か、食べ物をあげて、入浴を────と、僕があの女の子にしたことを思い出していると、また以前ルーナさんの言っていた言葉を思い出した。


「────私はここで、あるお方に食べ物をいただき、その後さらにそのお方は私のことを入浴をさせてくださったり、その当時学びたかったことが書かれている本を購入し、私にくださったのです」


 そうだ……僕はあの女の子に食べ物をあげて、入浴できる場所に連れて行って、欲しがっていた本を買って、それをあげたんだ。

 じゃあ……間違いなく、ルーナさんがあの時の女の子……

 僕が突然発覚した事実に何も言えないで居ると、ルーナさんは僕に向けて両手を合わせて言った。


「そして……あの時より今に至る十年の間、私はアラン様のことを神として崇め、神として信仰しているのです……そして、それはこれからもこの命がある限り続くでしょう」

「っ……!?ぼ、僕のことを神として崇めている……!?」


 そういえば、前にルーナさんがルーナさんの信仰している神様に救ってもらったって言っていたような……僕が過去のルーナさんの発言から、今のルーナさんの発言が真実であるという裏付けを得ていると、ルーナさんは言った。


「はい……苦しんでいた私のことを救ってくださらなかった他の神とは違い、アラン様は私のことを救ってくださりました……私はそのお優しきアラン様のことを主として信仰し、愛しているのです」

「……」


 僕は、突然告げられた数々の事実に、頭を追い付かせることができなかった。

 頭を追いつかせることはできなかった……けど、僕は不思議と涙を流していた。

 ────いや、不思議じゃない。

 これは……僕が悲しんでいるから流れている、正常な涙だ。


「アラン……様?」


 ルーナさんのことを、十年もの間僕のせいで縛ってしまった……もっと早く、ルーナさんの考えに気付けていれば……そう考えると、僕は立って居ることすらできずに、そのまま膝から崩れ落ちてしまった。


「アラン様!!」

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