第41話 敬意

「……アラン様、私は危険なことなど────」


 僕の言葉を躱そうとするルーナさんに対して、僕はその言葉を遮って言う。


「今日してました!客室でレドロン公爵と二人になったことです!」

「危険ではありません、私は護身術を会得していますから」

「だとしても!二人にならないよりは二人になった方が危険です!……きっと、レドロン公爵を説得するためには、僕が居るよりも二人きりの方が話をしやすかったのかもしれないですけど、そのせいでルーナさんが危険な目に遭うかもしれないと思ったら、僕は……」


 僕が思わず弱々しい声でそう言ってしまうと、ルーナさんはそんな僕に対して言った。


「……実は私とレドロン公爵が客室で二人になっている時、レドロン公爵は私の肩を掴もうとしてきました」

「えっ……!?」


 レドロン公爵が、ルーナさんの肩を掴もうと……!?


「だ、大丈夫だったんですか!?」


 僕が思わず心配すると、ルーナさんは言った。


「ご心配いただきありがとうございます……ですが大丈夫です、私は会得していた護身術でレドロン公爵のバランス感覚を奪わせていただきましたので」


 確かに、そのルーナさんの話を聞く限りだと、ルーナさんの護身術はかなりすごいんだと思う……でも。


「説得はどうしたんですか?レドロン公爵は、元々自益のために民の人たちのことを気にしていませんでしたが、ルーナさんとレドロン公爵のことを二人にした後で再度話してみたら考えが一変していました……何か、交換条件とかを出したんじゃないですか?」


 あの時はそこまで考えなかったけど、今考えればそういったことも十分考えられる……むしろ、そのぐらいしないとあそこまで人が変わったような意見は出せないはずだ。

 ……ルーナさんのことを問い詰めるようなことをしてしまうのは本当に胸が痛いし、こんなことしたくないけど、もしルーナさんが僕のために何かを犠牲にしているなら、僕はルーナさんにそんなことをして欲しくない。

 僕がそう考えていると、ルーナさんは言った。


「私は何も差し出していません……ですが────あの方には、懺悔していただきました」

「……懺悔?」


 突然出た懺悔という単語に少し困惑してしまいそうになったけど、ルーナさんは聖女様だから懺悔という単語が出てきても不思議はない。

 だけど、一体何をレドロン公爵に懺悔させたんだろう……民の人たちを困らせたことかな。

 僕がそう考えていると、ルーナさんは言った。


「はい、アラン様への不敬を、懺悔していただきました」


 え……?

 僕への不敬を、懺悔……?

 僕は、その言葉の意味がわからない中でどうにか理由を考えて聞く。


「それは……レドロン公爵のことを説得するため、ですか?」

「それもございますが────私にとって一番の理由は、アラン様への不敬を私が許せなかったからです」


 僕への不敬を、許せなかったから……

 僕は、全く予想していなかったルーナさんの返答に、一瞬固まってしまった。

 僕への不敬を許せなかった……そもそもルーナさんはどうしてそこまで僕に敬意を払ってくれるんだろう。

 これは、最初からある疑問だった。

 ルーナさんは僕のことを王族だからという理由で敬意を払ってくれているわけではないと言ってくれていた。

 なら────どうしてルーナさんは、僕に敬意を払ってくれているんだろう。

 どうしてレドロン公爵に僕への不敬を懺悔させるほどに僕に敬意を払ってくれているんだろう。

 僕は、そんな疑問を口にしていた。


「ルーナさんは、どうして僕に敬意を払ってくれるんですか?」


 僕がルーナさんのことを抱きしめる腕をルーナさんから離してそう聞くと、ルーナさんは僕の目を見てハッキリと言った。


「────私が、アラン様に救っていただいたからです」

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