第18話 触れる
◇アランside◇
しばらくの間僕の背中を洗ってくれたルーナさんが、一度僕の背中から手を離して言った。
「アラン様、このくらいでいかがでしょうか?」
「は、はい!このくらいで大丈夫です!」
緊張感のある状況下で突然ルーナさんに話しかけられた僕は慌ててそう返事をする。
「わかりました」
すると、ルーナさんは優しい声でそう言ってくれた。
……突然話しかけられたことには驚いてしまった僕だったけど、ルーナさんが僕の背中を洗ってくれているという状況をどうにか切り抜けられたことには少し安堵していた。
前にルーナさんにも言ったことだけど、ほとんど今まで女性と関わってきたことのない僕が、後ろで何も体を隠していないルーナさんに背中を洗ってもらっているのに変な反応を見せずに事なきを得たというのは本当にすごいこと────
「ではアラン様、次は前をお流しさせていただきましょうか?」
「……え?」
僕はそのルーナさんの発言に、思わず衝撃を受けて、慌てながら言う。
「ま、前は自分で洗うので大丈夫です!」
「そうですか……」
ルーナさんは何故か落ち込んでいる様子だった……申し訳ないけど、これだけは譲ることができない。
……でも、だからと言ってルーナさんに背中を洗ってもらうだけ洗ってもらって終わりというのも、なんだか悪い気がする。
「でしたら、次はそれぞれ別の場所で体を洗う……のですよね」
僕は、どこか寂しそうにそう言って前の台に置いていた布を手に取ったルーナさんの名前を呼んで、ルーナさんのことを呼び止める。
「ルーナさん!」
「はい……?」
突然名前を呼ばれたルーナさんは、困惑した様子だったけど、僕はそんなルーナさんに伝える。
「その……ルーナさんが良かったらなんですけど、僕もルーナさんのお背中を流させていただいても良いですか?」
「……アラン様が、私のお背中を?」
そう呟いた後、ルーナさんは大きな声で言った。
「ア、アラン様にそのようなことをしていただくなど、とてもではありませんが出来ません!」
「僕もルーナさんにしたもらったことですし、何より僕がしたくてそうするんです……そうは言っても、ルーナさんが嫌だと言うのであれば無理にすることでも無いので、そういうことなら僕は何もしません」
「嫌などということはありませんが、アラン様に私の背中を流していただくなど……いえ、ですが断ったらアラン様に背中を流してもらうということが嫌ということに……ですがやはり、アラン様に私などの背中を流していただくなど────」
ルーナさんは僕に聞こえないほど小さな声で色々と呟いていたけど、結論が出たのか、僕に聞こえる声で言った。
「……アラン様がそう仰ってくださるのであれば、アラン様にお背中をお流ししていただきたく願います」
「わかりました!」
ということで、今度はルーナさんが浴場用の椅子に座り、僕はルーナさんの後ろに回った。
鏡を持っているとルーナさんは手に布を持って体の局部を隠してくれている……それでも体のかなりの部分は見えてしまっているけど、ルーナさんの背中を洗うことに集中すればそのことは問題にならないだろう。
僕は石鹸を手に取ると、ルーナさんの背中を洗い始めた。
「……」
色白で、滑らかで、柔らかい肌だ。
僕がこうしてルーナさんの背中に触れているということをどこか不思議に感じながらも、こうしてルーナさんの背中に触れられるほどに僕たちの関係性が初めて会った頃よりも深まっていると考えると、僕はそのことが嬉しかった。
◇ルーナside◇
アランに背中を洗ってもらっているルーナは、アランの背中を洗っていた時同様に頭の中がアランのことで埋め尽くされていた。
────あぁ、アラン様が、私の背中をお洗いに……アラン様のお手が、私の背中に……あぁ、アラン様……どうかそのお手でずっと私に触れていてください、どうかその愛を私にだけお向けください……アラン様────私も、もっとアラン様に、触れさせてください。
ルーナは、心の中で静かにそう願った。
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