第17話 背中

 ルーナさんと二人で大浴場に入ると、ルーナさんはその大浴場を見渡しながら言った。


「流石アラン様の大浴場ですね、とても広くお綺麗です」


 この大浴場は、とても質の良い建材で作られた大浴場で、暖かい白色がベースとなって作られている。

 そして、洗い場も僕用なのにこの大浴場を作ってくれた人たちの気合いが入ってしまったという理由で複数あり、お湯に浸かる場所も僕だけで浸かるにはとても広かった。


「この広い大浴場に一人で居ると、時々落ち着かない時があるのでこれからはルーナさんが一緒に入ってくれると思うと少し気が休まりそうですね」

「私でよろしければ、いつでもアラン様とご入浴させていただくので遠慮なく教えてください」

「あ、ありがとうございます!」


 その後、僕とルーナさんはお湯に浸かる前に洗い場へと向かった。

 そして、僕はルーナさんに伝える。


「見ての通り、洗い場は複数あるので好きなところを使ってください、もちろんルーナさんが体を洗ってる時はルーナさんの方を見ないようにしながら僕も体を洗うので、その辺りの心配はしなくても大丈夫です」


 そう配慮した僕だったけど、ルーナさんは小さく首を横に振って言う。


「いえ、アラン様がよろしければですが、私はアラン様のお背中をお流しさせていただきたいです」

「え……?」


 ルーナさんが、僕の背中を流す……?

 それを聞いた僕は、反射的に言った。


「ダ、ダメです、ルーナさんにそんなことさせられません!」


 だが、そんな僕のことを見てルーナさんは小さく笑いながら言った。


「私がそうしたいと考えているのです……それに、直接肌に触れることによって、より親睦を深められるかもしれません」

「そ、そういうものなんでしょうか」

「そういうものです」


 ……ルーナさんに僕の背中を流してもらうなんて少し申し訳ないけど、ルーナさんがここまで言ってくれているのにそれを断る方が申し訳ない。

 そう考えた僕は、小さく頷いて言う。


「……わかりました、ではお願いします」

「はい」


 ルーナさんがとても優しい笑顔を見せてくれると、僕は浴場用の椅子に座る。

 目の前には鏡と石鹸の置いてある台があって、その鏡には僕と、僕の後ろに居る体だけ隠れたルーナさんの姿があった。

 ────その次の瞬間、僕の後ろに居るルーナさんは石鹸の置いてある台に布を置いた。


「……布?」


 僕は一瞬、それが何を意味するのかわからなかったけど、次にルーナさんが両腕を伸ばして僕の前にある石鹸を手に取ってそれを両手で泡立て始めた。

 布を前の台に置いて、両手で石鹸を泡立て始める……つまり、それは────ルーナさんは今、体を全く隠していない!?

 そのことに気づいた僕が心臓の鼓動を早めていると、ルーナさんが言った。


「ではアラン様、お背中お流ししますね」

「は……はい!」


 緊張を覚えながら僕がそう返事をすると、ルーナさんは僕の背中を洗い始めてくれた。

 柔らかい手と細い指で、とても優しく僕の背中を洗ってくれている。

 ……僕は余計なことを考えるのをやめて、今はルーナさんが僕の背中を洗ってくれていることに意識を集中させた。



◇ルーナside◇

 ルーナは、何も言わずに小さく微笑みながらアランの背中を洗っていた。

 アランから見れば、ルーナの様子は普段とあまり変わらないように見える────が、その心中は普段以上にアランへの想いが強くなっていた。

 ────あぁ、主よ……私は今主のお背中に触れているのですね……そして、主の後ろで何も纏わずにその身そのままの姿……どうか、私の愛を感じてください、私に触れてください、そして願わくば私のことを愛してください……アラン様……アラン様を前にして、このような浅ましいことを思い浮かべてしまう私のことをどうかお許しください……これらも全て、アラン様への深い愛と信仰故なのです……

 ルーナは心の中でそんなことを呟きながら、しばらくの間アランの背中を洗った。

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