第36話 王族

◇アランside◇

 馬車でレドロン公爵家の屋敷に到着した僕とルーナさんは、その門の前までやって来た。

 そして、そこには門兵らしき人が二人立っていたので、僕はその人たちに話しかける。


「あの、すみません……ここがレドロン公爵の屋敷で合っていますか?」

「ん?そうだが、お前たちは何者だ?」

「失礼しました……私は────」


 いつもの癖で、王族として挨拶をしようとした時、僕はふと口を閉ざした。

 ここで王族と名乗れば、この国の問題解決というものの難易度は、王族と名乗らなかった時と比べてかなり下がる……でも、本当にそれで良いのか?

 ここで王族の名を借りて問題解決して、本当に僕の王族としての力の証明になるのか?

 ────ならない。

 そう結論づけた僕は、再度口を開いて言った。


「僕はアランと言って、今は色々なところを旅しています……この隣に居る人はルーナさんと言います」


 僕がルーナさんのことを紹介すると、ルーナさんはこの門兵の人たちへ軽く頭を下げた。

 すると、門兵の人たちはひとまず警戒姿勢を止めて言った。


「そうか……それで、レドロン公爵に何か用があるのか?」

「はい、少しお話をさせていただきたいんです」

「……旅の者なら知らなくても仕方ないが、レドロン公爵はこの国の重要人物だ、そうやすやすと口を交わせるお方ではない」


 公爵の人の家へ手ぶらで行く以上、こう言われることは予測できていた。

 一応僕は王族だから、今までその名前のおかげで今までこういったことを言われることは無かったけど、こう言われるのが普通……つまり、ここでも僕の王族としての力が試されているということだ。


「レドロン公爵のお耳に入れておかないといけないことがあるんです」

「それなら、俺たちが伝言しておこう」

「伝言しても良いんですけど、こういったものは直接伝えた方が良いと思うんです」

「そうは言ってもな……レドロン公爵には、大事な要件の時以外は通すなって言われてるし……」


 二人の門兵の人は、困ったように顔を見合わせている。

 ……僕がレドロン公爵に伝えたいことがあると言ったのは、何もレドロン公爵の屋敷に通してもらうための嘘じゃない。

 ────民の人たちが苦しんでいるので、今すぐに民の人たちを自由にしてあげてください。

 これが僕の伝えたいことだ……これは間違いなくこの国にとっても、そしてそれを知ってしまった以上僕にとっても他人事じゃない、とても大事なことだ。

 自分の国かどうかなんて関係ない、人が苦しんでいるならそれを助けるために行動するのが────王族。

 僕は、その気持ちを声に乗せて言った。


「大事な要件です……僕を、通してください」

「っ……!?」


 二人の門兵の人は、何故か突然驚いた表情をした。

 そして、二人で耳打ちし合う。


「お、おい、この人は通した方がいいんじゃねえのか?」

「あ、あぁ、なんつうか、今の表情と声は威厳がやばかったな……遠そう」


 短い時間で耳打ちを終えると、二人は僕たちに向き合って言った。


「わ、わかったぜ、入ってもらって結構だ」

「ありがとうございます!」


 僕は、承諾してもらえたことに感謝を伝えると、ルーナさんと一緒に屋敷へと続く庭の道を歩く。

 そして、ルーナさんが優しく微笑んで言った。


「アラン様、お見事です」

「あ、ありがとうございます……でも、途中までは困ってるような雰囲気だったのに、どうして僕が通してくださいと言ったら通してくれる気になったんでしょうか?」

「ふふ、ご自身ではお気づきになられていないのですか?先ほどのアラン様の表情や声音は、まさに王族の方のそれでしたよ」

「え……?さっきの、僕が……?」


 全然自覚できなかった────もしかしたら、王族という後ろ盾が無いことによって、僕の中にある王族としての何かが開花されようとしているのかも知れない。

 ……でも。


「今は、レドロン公爵のことに集中しましょう」


 この国の重要人物であるレドロン公爵のことを説得するのは、そう簡単なことじゃないだろうから、今はそのことだけに集中しないといけない。

 僕がそう考えた上でそう発言すると、ルーナさんは優しく頷いてくれて言った。


「そうですね」


 そして、僕とルーナさんは二人で一緒にレドロン公爵家の屋敷へ入った。

 ────この後、僕が全く予想もしていないことが起きるということを、この時の僕はまだ知らなかった。

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