第21話 生活

 ────互いのことを抱きしめ合っていた僕たちは、互いから腕を離した。

 そして、僕はルーナさんの体を見ないようにしながら立ち上がると、ルーナさんは大浴場にある取り忘れた布を取りに行った。


「僕、あのルーナさんと、抱きしめ合って……」


 もうルーナさんとは抱きしめ合っていないはずなのに、まだルーナさんと抱きしめ合っている時の感情や、ルーナさんの体の感触が体に残っているような気がする。


「ダ、ダメだ!忘れないと……!」


 僕はどうにか覚えていなくてもいいことを忘れようとしたけど────あんなにも魅力的なルーナさんと抱きしめ合ったことをすぐに忘れるなんてことは、僕にはできそうもなかった。


「……そういえば、どうして僕がルーナさんのことを抱きしめて押し倒してしまったのかをルーナさんに説明してなかった!」


 ルーナさんが戻ってきたら、すぐに説明しないと……!



◇ルーナside◇

 大浴場に布を取りに戻ったルーナは、布を手に取ると大浴場を見渡して言った。


「私は今日、ここでアラン様の背中を流し、アラン様に背中を流していただき、アラン様と一緒にお湯に浸かったのですね……なんという幸せ、こんな幸せが私に許されていいのでしょうか……それに……」


 ルーナは自分の腕に手を当てながら先ほど脱衣所でアランに押し倒され、抱きしめられていたこと……そして、アランと抱きしめ合ったことを思い出す。


「アラン様と直接肌と肌を重ね、抱きしめ合うことができるとは……ですが、アラン様のことですから、私のことを抱きしめて押し倒そうとしたわけではないのでしょう……朝と同じで、きっと布を持っていない私の体が露わとなってしまうことを防ぐために……あぁ、アラン様……なんとお優しいのでしょうか、ですが、私はアラン様に私の体が露わとなってしまうことを恥とは思いません……アラン様にこの身を捧げられるのなら、それこそが私の幸せ……私を救ってくださった慈悲深きアラン様……私はいずれ、あなたと────」


 その願いを口にすることはせず、ただその時のことを想像してルーナは頬を赤く染めながら微笑んだ。

 そして、それからその想像に頭を働かせようとしていたルーナだったが────


「……いけません、そろそろアラン様のところへ戻らなければ、アラン様のことをご心配させてしまいます」


 どうにか冷静になり、布を手に持って体の局部を隠すと、すぐにアランの居る脱衣所へ戻った。



◇アランside◇

 布を持って体の局部が見えなくなったルーナさんが脱衣所に戻ってくると、僕はすぐに言う。


「ルーナさん!あの、さっきルーナさんのことを押し倒してしまったのは、決して意図的にしたわけじゃなくて、理由があるんです!」


 僕がそう言うと、ルーナさんは優しく微笑みながら言った。


「ちゃんとわかっていますよ、布を持っていない私の体が露わになってしまわないため……ですよね?」

「そ、そうです!」


 的確に僕の考えをわかってくれている……流石ルーナさんだ。

 僕が改めてルーナさんの凄さを感じていると、ルーナさんが口を開いて言う。


「朝のこともそうですが、アラン様は本当にお優しいお方ですね……ですが────いつか本当に、アラン様に抱きしめられてみたいものです」


 最後の部分だけ、ルーナさんはどこか遠い目をしながら言った。


「……ルーナさん、それはどういう────」


 僕がその言葉の意味を聞こうとするも、ルーナさんは服を着るために足を進めて行ってしまった。


「……」


 今はルーナさんの言葉の意味はわかりそうに無いため、僕も服を着ることにした。

 そして────服を着た僕とルーナさんは僕の部屋に入ると、二人で一緒に僕のベッドの上で眠った。

 今日はルーナさんと初めて一緒にする生活で、色々と大変なこともあったけど────今後もこの生活が続いていくと思うと、僕はそのことがとても嬉しかった。

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