第4話 魔王と出会い、餌付けする



 僕、佐久平さくだいら 啓介は、女王のせいでダンジョンに落とされた。


 地下で出会ったのは、白骨死体。

 それをカバンの中に収納した途端、僕は新しいスキルを手に入れた……。


「短剣の勇者……この人も、異世界から召喚された勇者なのかな……?」


 でもなんで勇者がここに……。

 って、まさか。


「彼も僕と、おなじ境遇だったのかな」


 つまり、女王に呼び出されて、ハズレだといって、ここに追放された……と。

 ……あり得ない話ではない気がした。


 勇者召喚が、今回が初とは限らないしね。


「ここで餓死しちゃったんだ……。食糧が尽きちゃったんだろうね」


 僕には、食べ物や飲み物を取り寄せる力があるけど、この人にはなかったんだろう(カバンの中にも食料はなかったし)。

 だから、彼は餓死しちゃったんだ。

 こんな異世界の、暗い場所で。……可哀想に。


「僕が君を、外に連れてってあげるからね」


 さて。

 短剣の勇者の死骸を入れたことで、僕は『条件を達成しました』と言われた。


 で、彼の持っていたスキル? を獲得した。


「たしか死骸を確認しました……って言っていたな。つまり、死骸をカバンに入れると、そのスキルが手に入る……?」


 そういや、毒大蛇ヴァイパーを収納したときには、スキルを獲得しなかった。

 あれは、死骸じゃなかった(=倒してない)からだったのかな。


 あくまで仮説でしかないけど。

 ……でも、ラッキーだ。


 短剣の勇者さんは【マッピングスキル】スキルを持っていた。


「鑑定!」


・マッピング

→周囲の地形を表示する。


 ぶぶん、と目の前に小さな、半透明の窓が開いた。

 あれだ、ゲームとかやってると出てくる、ミニマップだ!


 中央に赤の三角形。これが多分僕だろう。

 で、通路が結構先まで表示されてる……!

 

 助かるぅ!


「…………ん? あれ? 地図があるのに、どうして短剣の勇者さんは、こっから脱出しなかったんだろう……?」


 食料がないから餓死した。ここまではわかる。

 でも短剣の勇者さんには、こんな凄いスキルがあるんだ。


 彼もまた外に出ようとしたはず。

 でも、この場にとどまったのは……どうして?


「ううん……わからない。こういうときに、質問に答えてくれる人とかいると、いいんだけどなぁ」


 そんな優しい人はいない、かぁ。

 オタクさんが側にいれば、一緒に考えてくれたかもだけど。


「ま、ないものねだってもしかたないね。何かあったら何かあったときに考えよう!」


 とポジティブシンキングな僕。

 いつも姉ちゃんから、『あんたはもうちょっと、この先に何があるかちゃんと考えて行動しなさい』っていつも注意されてる。


 でもさ、先に何が起きるかなんて、想像できないでしょ。 

 特にここは異世界、魔法があるんだ。なんでもありな世界で、先のことなんてわからないよね?


 なら、何か起きたときに考える。これがベストだと思うんだよねえ。


「さ、前にすすもっと」


 幸いにもゴールドが手に入ったし、水も食料も取り寄せることはできる。

 あ、ちなみにゴールド(貨幣価値)なんだけど……。


・1ゴールド=10円


 だってさ。

 つまり短剣さん(※短剣の勇者さん)は30万ゴールド、300万円持っていたってこと……。


 300万?

 結構たかくね!?


 あの女王から金もらったのか、あるいは、地下で稼いだのか……。

 ダンジョンだし、宝箱とかもあるよね? 


 そこからお金取ったのかな。

 鍵開けとかあったしね、スキル。


 そんなこんな考えながら、マップを頼りに進んでいく……。

 結構歩いた。


 ちょっとお腹空いちゃった。

 僕はカバンから菓子パンを取り出して、もちゃもちゃ食べながら歩く。


「もちゃもちゃ……ううん……ダンジョンだって言うけど、このあたり、なーんかモンスター全然でないなぁ」


 モンスター。さっきの毒大蛇ヴァイパーに出会ってから、他には一度も出会ってない。

 どうしてこの辺モンスターいないんだろう……?


「ん? ちょっと広いところにでるぞ」


 僕はマップを見ながら進んでいく……。

 だから、気づかなかったのだ。


『おい貴様』

「え……?」


 そこに、とんでもないものがいるってことに。


「あ、あわ……あわわわ……」


 僕がたどり着いたそこには……。

 見上げるほどの、大きな巨体をした……。


「お、狼ぃー!?」

 

 クソデカい狼が、そこにいたのだ!

 身長は4,5メートルくらいある。

 体毛は白いが、薄紫色に淡く発光してる。


 顔はいかにも凶暴そうな顔をしてらっしゃる!

 ど、どどど、どう見ても……ヤバい狼だ。あわわ……。


 鑑定スキルを使用!


・フェンリル(SSSランク)

→神獣にして、最強種の一種。神狼ともいう。


 ど、どうしよう……。

 そ、そうだ!


 僕にはあれがあるじゃないか!


「しゅ、しゅうの……」

『まあ、待て。人間よ』

「あ、はい」


 ……。

 …………。

 ………………。


「『え?』」


 僕もフェンリルも、ぽかんとする。


『え、おぬし? なぜ何もせぬのじゃ?』

「え、だって待ってって言うから……」


『そ、そうか……おぬし素直じゃな』

「姉ちゃんにもよく言われます。おまえは馬鹿正直だねえって」


『それ、馬鹿にされとらんかの……?』

「そうでしょうか?」


『そうか……お主変わってるな。【他の連中】は我を見るなり、大抵逃げ出すのにな』

「ほかの、連中……?」


 僕の他にここに来た人がいるのかな?

 あ、短剣さんか。


 あれでも連中ってことは、他にも廃棄された勇者がいるってこと?


 あれあれ、てゆーか……。

 このフェンリルさん、襲ってこない?


 それに、普通に会話できるし……意外と悪い人じゃない?


『おぬし、変わったやつじゃの。む……? なんじゃそれは? その手に持っているやつじゃ』


 僕の手には、食べかけの菓子パンがあった。


「菓子パンですけど……?」

『パン……なんと。そのような、ふわふわしてるのが、パンじゃとっ?』


 フェンリルの口から、ぼた……とよだれが垂れる。

 ええと、もしかして……。


「た、食べたいんですか?」

『うむっ! よければ一口くれぬかのぅ』


 うーん、どうしよう……。

 ま、でも僕を食べたい! とか言われないだけ、いいか。


「いいですよ。他にもありますし」

『おお! 恩に着るぞ! わるいが、近くに来てもらえぬか。我はこの場から動けぬでな』


 動けない……?

 そうだ、フェンリルさん、さっきから1歩もその場から動いてないや。


 どうしてだろう……?

 まあ、聞けば良いか。


 それよりお腹空いてるみたいだし、パンをあげよう。

 僕はフェンリルに近づいて、パンを差し出す。


 フェンリルは顔を近づけると、舌を出してきた。

 ぺろん、と舐め取る。


『もぐもぐ……う!』

「う?」


 ぶるぶる……とフェンリルさんが体を震わせる!

 まさか……食あたり?


『うーーーーーまーーーーいーーーーーーぞーーーーーーーーーー!』


 フェンリルさんが吠える。

 迷宮がごごごごお! と全体的に揺れ動いた。


 わ……デカい声……。

 僕は思わず尻餅ついた。


『美味すぎるのじゃ! ふわふわで、甘くって、おいしい! こんなパン……初めてじゃ!』

「そ、そう……良かったですね」


『うむ! もっとないかの!』

「も、もっとぉ……?」


 あるけど……ううん……どうしよう。


『もっとほしい! もっとおくれ!』

「いいですけど……」


 これで断って、怒って、じゃあ僕を食べる!

 みたいになったら困るしね。


 それに菓子パンは、取り寄せまくって結構余ってるし。

 あとゴールドも手に入れてるから、取り寄せも可能だからね。


 僕はカバンをひっくり返して、菓子パンを取り出す。

 ビニールを破って、中にぽいっと投げる。


 フェンリルさんはべろり、とひとなめしただけで、菓子パン全部食べちゃった。


『うぉおおお! 美味すぎるのじゃ! こんな美味しいパンが世の中にはあるんじゃなぁ!』

「この世界にはないですけどね」


 すると……。


『なんと! では、おぬしまさか、召喚者かの?』

「召喚者……?」


『うむ。異世界より召喚された人間のことを、召喚者というのじゃ』


 ……その口ぶりからして、やっぱり、僕ら以外にも、この世界に召喚されてきた人間はいるのがわかった。

 短剣さんは、ワルージョに呼び出され廃棄されたのか……。


 ん? 短剣さんがここから出れなかったのって、もしかしてこいつがいるせい……?

 でも、悪い人(悪いフェンリル)には見えないけど……。


『もっと食いたいのじゃ!』

「えー……これ以上はちょっと」


『そこをなんとか! 頼むのじゃ~。何百年とここに封印されて、ずっと空腹じゃったのじゃぁ』


 封印……そうか、このフェンリル、封印されてたのか。

 だからこの場から動けなかったんだね。

 なんか、可哀想……。

 でも知らない人に、これ以上パンをあげるのはなぁ。


 ん?

 あ。


「じゃあ、友達になってよ」

『む? 友達……?』


「うん」


 ちょうどこの世界のこと、教えてくれる人、欲しかったところだ。

 このフェンリルさん、強そうだし、なんか長く生きてそう(偏見)


 なら、色々教えてくれるかも。


『なる! 我は、おぬしの友になる!』


 なんか嬉しそうに言うフェンリルさん。


「よかった。僕は佐久平さくだいら 啓介。君は……?」


『我は【スペルヴィア】! 高慢の魔王スペルヴィアじゃ!』


 ふんふん……。魔王スペルヴィアさん……。


 ん?

 え?

 ま、魔王……?


「魔王、なの……スペルヴィアさん……?」

『うむ。そうじゃ』


 あっさりと魔王さんはうなずいてみせた。

 え、ええー……。


 じゃあ、僕らが倒すべき魔王って、この人……?

 いや、待て。そう決めつけるのは早計か。


「スペルヴィアさん。ってどれくらいここに封印されてるんですか……?」

『正確な数字はわからぬが、かなり昔からここにおるのぉう』


 あ、なんだ。

 やっぱりそうだ。ワルージョが倒せとか言っていた魔王と、スペルヴィアは、別の魔王ってことだ。


 安心。


『のぅ、ケースケよ。はよぅパンを』

「あ、ごめんごめん。はいどうぞ」


 僕は取り寄せカバンをつかって、菓子パンをありったけ取り出す。


 もうこのフェンリル、友達だからね。

 お腹空いてそうだったし、たらふく食べさせてあげよう。

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