第15話 冒険者たちから料理を大絶賛される
「さて……じゃあ地上に……」
そのときである。
ぐぅ~~~~~~…………。
「なんか腹減ったな……」
「そーいやメシ食ってねーな」
「でも、食料ないわよ? ミノから逃げるときに、魔法バッグ落っことしちゃったし」
……ん?
魔法バッグ……?
「魔法バッグってなんですか? エルシィさん」
エルシィさんがちょっと僕から距離を取る。
「……収納の魔法が付与された、カバンのことよ。ちっこいカバンに、モノをたくさん入れておけるの」
ええ!? 僕の聖武具と同じじゃん!
「そんなのあるんですね……。普通に売ってるんでか?」
「そうね。まあ結構高いけど。入る量が増えれば増えるほど、値も張るわ」
ワルージョが僕を追い出したのって……。
一般に出回るような品物と、聖武具が、同じ機能なんだもんね。
納得~。
まあ、ちょっとがっかりしたよ。僕の聖武具、【たいしたことないんだ】って。
でも、まあこのカバンが便利なのは事実だし、僕は結構気に入ってるし。
それに、
【あらゆるものを収納できるカバン】は、【一般的】なんだから。
「あ、僕のカバンのなかに、食べ物結構ありますよ。よかったら、僕がご飯作りましょうか?」
「え、いいのかい?」
「はい。オタクさんのところへ連れてってもらうわけですし」
途中で空腹で倒れられても困るしね。
「そっか。じゃあ、ありがたくご相伴にあがるとするよ」
さて、料理をするとなると、
魔物が襲ってきたら、料理に集中できないし。
「じゃ、
「「「なにそれ……?」」」
がばっ。
シュゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
「「「うわぁあああああああああああああああああ!」」」
カバンの中に入る、僕たち。
ややあって。
何もない白い空間、
「「「なんじゃこりゃあああああああああああああ!?」」」
あれ、三人とも驚いてるぞ……?
「ちょ、ちょっとあんた! なにこれ!?」
「え、
「だからそれなに!?」
「僕のカバンの中にある、異空間に移動するスキルですけど……」
「
「はい。あれ? 何驚いてるんですか……?」
マジで何に驚いてるんだろ?
「アイテムボックスに入るスキルなんて聞いたことないぞ! すごいな!」
「ミノ一撃で倒したし、やっぱすげえガキなんだな……」
シーケンさんとチビチックさんは素直に感心してた。
「いや二人ともなにあっさり受け入れてるの!? こんなのおかし……」
と、そのときだ。
『おい女』
今までずっと黙っていた、スペさんが、ぴょんっ、と肩から下りる。
ボンッ……!
「あ……あば……あばば……ふぇ、ふぇ、ふぇん……りるぅ……」
ぺたん、とエルシィさんが尻餅をつく。 ぎろり、とスペさんが彼女をにらみつける。
『さっきから無礼であるぞ? マスターであるケースケにそれ以上無礼な態度を取ると、我が許さんぞ』
「は……へ……え……? え……?」
顔面蒼白となる、エルシィさん。
「う、うそ……ふぇ、その子が……ふぇ、フェンリルの……ま、マスター……?」
伝説の獣とは聞いたけど(自己申告)。
なんでエルシィさん、こんな怯えてるんだろう……?
フェンリルはわるいモンスターじゃないよ?
可愛いし。
「す、すす、すごい! フェンリルだ! 伝説の神獣だ! おおお! すっごーい!」
興奮するシーケンさん。
あれ、エルシィさんとちがって、怯えてないよ。
ほらね、スペさんは恐い魔物じゃないんだよー。
「ほらな、やっぱりやばいすごいガキじゃん……」
と、ひきぎみに、けれどどこか納得したように、チビチックさんが言う。
『おいエルフ女。我のマスターにさっきから、随分と言いたい放題言ってくれたじゃないか……? あ……?』
スペさん(デカいモード)が、エルシィさんに顔を近づける。
がくがくがくがく……! と、エルシィさんは、見てるこっちが気の毒になるくらい、怯えていた。
「す、す、すみませんでした……!!!!!!!」
エルシィさんが僕に土下座してきた。
「生意気な口聞いて申し訳ないです……! すみません……!」
『謝罪くらいで、我が許すとでも?』
「うひぃいいい! 食べないでぇえええ!」
僕はスペさんに近づいて……。
「そこまでだよ、スペさん。ケンカはだめ」
めっ、と注意する。
『しかしな、ケースケよ。そこの女は先ほどから、我が友に酷いことばかりを言ってじゃな……』
「友達の、僕のためを思って、怒ってくれるのは嬉しいよ? でも、彼女は冒険仲間なんだから。スペさんも仲良くして」
『しかし……』
「ご飯抜くよ?」
『わかったよぅ……』
ぽんっ、とスペさんが子犬姿になり、頭の上に乗っかる。
良かった。食事前にスプラッタとか嫌だよ?
「あの……ケースケ……様?」
「なぁに、エルシィさん?」
エルシィさんは僕に対して、ペコッと頭を下げた。
「助けてくださって、ありがとうございます。ケースケ様」
助けた……?
僕何かしたかな……。スペさんをとめただけなんだけど。
「たいしたことしてないし、気にしないでください。あと、敬語はやめてください。僕が一番年下なんで」
ちらちら、とエルシィさんは頭の上のスペさんを見る。
『主の言うことが聞けぬのか? ん?』
「わ、わかりま……わかったわ。ケースケ……君。ごめんね」
「気にしないでください。じゃ、ご飯作りますね」
エルシィさんがぺたんとその場に尻餅つく。
「エルシィ……近くで見た生フェンリルどうだったっ? 毛皮が発光してるように見えたけどっ!」
「だいじょーぶかよエルシィ。顔が真っ白だぞ?」
かたかた……とエルシィさんが震えてる。
寒いのかな……?
じゃあ、シチューとかがいいかも。
「あ、でも肉がないや……」
『問題ないぞ! 我がミノタウロスを、回収しておいたのじゃ!』
念じてみると、たしかに、さっき僕が倒した牛さんの死骸が出てきた。
「まさかスペさん……さっきずっと黙ってたのって……」
『こいつをカバンに入れておった! 我ほめて~』
僕らが話してる後ろで、なんかやってるなぁって思ったけど、まさか死骸回収してたとは……。
なんでそんなことをしたかって?
『はよぅ、美味しいモノを作って欲しいのじゃぁ!』
「も~。スペさん食いしん坊フェンリルなんだからぁ」
『ケースケの料理が美味すぎるのがいけないのじゃぁ~♡ 我は悪くないもーん♡』
まあ、作ったモノを評価してくれるのは、悪い気しないけどね。
「よし、じゃあ……温かいモノを作りましょう」
『カレーかっ!?』
「今回は違うもの」
『ぬぅ……カレー食べたい~』
まあカレーでもいいんだけど(ミノは牛だし)。
ここのところ、ずっとカレーだったから、別のものを食べたいのだ。
「解体」
ぱっ、とミノが肉とかアイテムに分解される。
よし。
「取り寄せカバン、発動!」
僕は必要なモノを地球から取り寄せる。
と言っても、取り寄せるものは、カレーの時とほぼ同じだ。
僕は料理スキルを発動させる。
勇者の鍋があれば、作りたいモノが、一瞬でできてしまうのだ。
「料理……完成! あと付け合わせを、取り寄せて……っと」
人数分の料理ができあがった。
「みなさーん、料理できましたよ~」
黄昏の竜(パーティの名前なんだってさ。たいそうな名前だよね、弱いのに)の皆さんが、集まってくる。
「これは……? ケースケくん、これはなんだい? 見たいことがない料理だけども……」
お鍋の中を見て、目をぱちくりさせるシーケンさん。
「ミノの肉を使った……ビーフシチュー、です!」
「「「!?」」」
目を剥く……三人。
あれ? どうしたんだろう。
「み、ミノ……え、ま、魔物の肉……?」
「うげえ……マジかよ……」
シーケンさんが困惑。
チビチックさんは、露骨に嫌そうな顔をした。
あれれ?
「あの……ケースケ君。せっかく料理作ってもらって悪いんだけど……これは食べれないよ」
エルシィさんが控えめに言う。
さっきまでと違って、声を荒げてこない。
「食べれないって?」
「魔物の肉にはね……人間じゃ食べれないの」
人間じゃ食べれない……?
「いや、食べれますが?」
『うむ。そのとおり。ケースケの料理スキルならば、魔物を美味しく料理できるのじゃ!』
エルシィさんが大きく目を剥く。
一方、キラキラ目を輝かせながら、シーケンさんが僕の肩を掴む。
「ほんとに食べれるのか!? 魔物料理がっ!」
彼の目が、好奇心で、きらっきらしていた。
何だろうこのリアクション。
「はい。大丈夫ですよ。僕もスペさんも食べたことありますし」
「うぉおおお、食べる! いただこう! みんな!」
チビチックさんは「ええー……」と引いていた。
エルシィさんも「あんた先食べてよじゃあ……」と拒否反応見せてる。
一方、シーケンさんは鍋の前に座る。
僕が器に(使い捨て)ビーフシチューを注いで出す。
「うぉお! これが夢にまで見た魔物料理!」
夢に……?
大げさだなぁ。
「いただきますっ! あぐっ!」
「「ほ、ほんとに食ったぁ!?」」
躊躇無く食べるシーケンさんを見て、青い顔で叫ぶお二人。
「う!」
「う?」
「うんまぁああああああああああああああああああああああい!」
シーケンさんが笑顔で絶叫。
がつがつがつ! と残りのビーフシチューも食べる。
「え、シーケン……食べれるの……? 平気なの……?」
「ああ! エルシィもチビチックも食え! 今まで食ったどの料理よりもうまいぞ!」
よかった、シーケンさんも気にってくれたようだ。
さて、スペさんの分を……。
『ふがふが……うまー!』
「あ、こら! スペさん! お鍋に顔突っ込んでもー!」
フェンリル姿になったスペさんが、お鍋からダイレクトで、シチューをすすっていた!
顔をずぼっと鍋から抜く。
顔の周が、シチューでべったり汚れていた!
もー。
僕は箒の勇者さんのスキル、清拭を使用。
触れたモノを一瞬で綺麗にするスキルだ。
『うまいぞケースケ! カレーもうまいが、こっちの汁も濃厚で美味い! なにより、肉がとろっとろじゃあ!」
カレーと同様、シチューも気にってくれたようだ。
「うまぁ! なにこれぇ!?」
「こんなうめーメシはじめてだ!」
器に注いであった分を、エルシィさんとチビチックさんが食べている。
シーケンさん同様に、めっちゃがっついていた。
「うぐ……ぐす……うますぎて……涙出てきたわ……」
「冒険の途中で、まさか温かい汁物が食えるとはなぁ~」
う、う、う……と涙を流すエルシィさん。
ふふふ、作って良かった。
「おかわりいります?」
「「「『おかわりー!』」」」
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