第16話 ダンジョンを脱出しよう


 食事を取り終えた僕たちは、■庭ハコニワのなかで作戦会議をする。


「さて、これから方針だが、おれたち3人で、君をまず地上へと護送する」


 リーダー・シーケンさんがそう言う。

 ん……? 護送……?


 三人が僕を守るってこと?


「え、大丈夫ですよ。僕も戦います」

「いやいや。君は小さな子供だ。子供を守るのは大人の仕事だよ」


 うーん、いい人。

 けどなんだか、この人僕に対して過保護じゃない?


 しかもまた、小さな子供っていうし……。

 なんでそんな子供扱いするんだろうね。15歳ですよ、僕ぁ。


 まあ姉ちゃんによく『あんた童顔ねえ』って言われるけど。


「というか、ケースケくん」


 エルシィさんが僕を見て言う。


「君、そもそもどこから来たの?」


 エルシィさん、警戒を完全にといてた。

 ご飯の影響かな。あの時すごかった、誰よりもおかわりしてたから。まあさておき。


「え、250階層からですけど」

「はぁ……?」


 困惑するエルシィさん。


「そういう冗談、いいから」

「いや冗談じゃないんですけど……」


 マジでそうなんだけど。


『おいエルフ女。我が主の言葉を疑うのか? ん?』

「ひぃ! 滅相もない!」


 スペさんは僕の膝の上に座っている。

 どうにもエルシィさんに対して、風当たりが強い。嫌いみたいだ。


「スペさん、仲良くしようね」

『む……仕方ないな。菓子パン1つで手を打とう』


 僕はスペさんに菓子パンを与える。

 もめ事は勘弁して欲しいからね。早く地上に出て、オタクさんとこ行きたいし。


「おいエルシィ、このガキの言ってること、あながち嘘じゃねーかもだぜ?」

「どういうこと、チビチック?」


 ハーフフットのチビチックさんが言う。


「このガキには、伝説の獣が従魔についてるんだ。魔物はフェンリルが倒してきた、っていうならつじつまが合う」


 いや別に、スペさんは魔物倒してないけど。だいたいビームしか撃ってないけども。


 うーん、でも話が前に進まないから、色々黙っとこ。

 勝手に想像してもらった方が楽だし。


「そっか……。でも、じゃあそもそも250階層にどうしてこの子いたのかな?」

「もしかして、【チェンジリング】じゃないか?」


 ん? チェンジリング……?

 シーケンさんからの言葉に、エルシィさんがうなずく。


「それなら、ありえるかも。彼が250階層いた理由も、こんな凄いスキルを持ってることにも、説明がつくわ」


 わー、話しについてけないや。

 なんだよチェンジリングって。


「妖精にここに連れてかれた。そこでフェンリルと出会った。フェンリルが護衛してここまで来た……そういうことなんだね?」


「じゃあ、それで」


 そういうことにしておこう。

 沈黙は金。


「話を戻そう。現在は50階層。こっから地上へと戻る。1階層ずつ進んでいくから……たぶん来たときと同じ、1ヶ月くらいは掛かると思う」


 そういえば、スペさんも、脱出には2~3ヶ月掛かるって言っていたし。

 そんなもんなのかな、進み具合。


「てゆーか、そこのフェンリルさん、天井ぶち抜いて出てこなかったか、さっき?」


 チビチックさん、結構色々見てるんだなぁ。

 めざとい人だ。


「フェンリルさんがやったみてーによ、全員で乗っかって、上まで連れてってもらえば早く脱出できるんじゃね?」


 おお、たしかに。


『断る。けーすけ以外を、我の背に乗せたくないのじゃ』


 じろり、とスペさんが三人をにらみつける。

 えー。


「スペさん、乗っけてよ」

『だめじゃ。たとえケースケの頼みであろうと、そこは譲れん』


「菓子パンでも?」

『うむ』


 菓子パンで何でも言うこと聞くスペさんが、断ってきた。

 よっぽど僕以外を乗っけたくないんだね。


「じゃあやっぱり一階ずつ登っていく必要があるか」


 時間が掛かりそう。

 でもまあ、しょうがない。


 オタクさんにスペさん紹介したいし(置いてけない)。

 すけすけビーム+空歩コンボも、僕しか登っていけないから。


 結局のところ、彼らと一緒に歩いて、脱出するしかないか。


「フォーメーションは、チビチック。後ろにエルシィ。で、ケースケ君、おれという隊列で行くぞ。全員で彼を守る形で」


「え、だから僕も戦いますって」


「いや、大丈夫。これでもおれたち、結構強いんだぜ?」


 大丈夫かな。

 50階で、手こずってるような人たちなのに?(※←ここが最難関ダンジョンと知らない)


 ま、いざとなったら僕が助けてあげれば、いっか。


「わかりました。じゃあそれで」


 ということで、早速出発。


 ■庭ハコニワから出て、僕らは進んでいく。


 てくてく……。

 てくてくてく……。

 てくてくてくてく……。


「チビチック、まだ50階層の出口に突かないのか?」

「わりぃ、シーケン。どうやら、オレらが休んでいるとこに、【迷宮変遷】がおきちまったよーだ」


 めーきゅー、へんせん……?


「なんですか、めーきゅー、へんせんって……?」


 エルシィさんが答える。


「迷宮が変化する現象のことよ。一定時間が経過すると、迷宮内の通路や宝箱、モンスターの配置が変わるの」


 へえ、そんな現象が……。


「早く行きましょう」

「無茶言うなよ。地形が完全に変わっちまったんだ。今まで使ってた地図が使い物にならなくなってる状況で、下手に動くことは自殺行為なんだよ」


 え?

 地図が使い物にならない……?


「いやいや、何言ってるんですか。ミニマップ使えば良いじゃないですか」

「は……? なんだよそれ……?」


 僕は短剣さんから習得ラーニング下、ミニマップスキルを発動。

 目の前に透明な板、ミニマップが出現。


 マップ上には詳細な地図が表示されている。

 もちろん、出口の場所も、そこへいたるルートも乗っていた。


「な、な、なんだよこれぇええええええ!?」


 チビチックさん、驚愕。

 ん? どうしたんだろ……?


「この周囲の地図!? しかもこの三角マーク……もしかしてオレらの現在位置!?」

「あ、はい。動くとマークも動きますよ」

「なんだとおぉおおおおおお!?」


 ええ、何驚いてるんだろう……?


「し、信じらんねえ! こんな神マップ、見たことねえよ!」

「え、そうなんですか?」


「そうだよ! マップっていや、これだからよ!」


 チビチックさんがポシェットから、分厚い羊皮紙を何束も取り出す。

 そのうちの一つを広げる。


 汚い羊皮紙には、インクで地形が書かれていた。

 当然、現在位置もわからない。


 あー。

 こっちの地図も、日本の地図と同じなんだ。


「魔法の地図的なものってないんですか? 現在位置が表示される」

「そりゃ、遺物アーティファクトっていって、一般市場にゃ出回ってない、超すごいレベルのアイテムだよ」


 ふーん……。

 あれ?


「じゃあ、魔法の地図と同じ効果を示す、ミニマップって、すごいスキル?」

「そうだよ、そーいってんだろ!?」


 あらら、そうだったんだ。短剣さんには感謝。


「スペさん、なんで教えてくれなかったの……?」


 スペさんもいちおう、現地人(犬だけど)なのに。


『人間の営み、社会のことなんて、フェンリルが知ってるわけじゃろ?』


 人間がアイテムにどれくらい価値を見いだしてるなど、人間の評価や、外の常識は知らないんだね。スペさん。


 それにずっと長い間、封印されてて、世情にも疎いだろうし。


 もしかして、スペさんって現地ガイド役には、不適当なのでは……?

 ま、いっか。今は友達だもんね。


「ミニマップお貸ししますんで、それ使って案内してください」


 僕は神眼スキル、視覚支援を使って、チビチックさんにも、マップが使えるようにする。

 ぎょっ、とチビチックさんがまた仰天してた。


「どうしたんですか?」

「……いやもう、ツッコみきれなくて」

「?」

「いくぞ。案内する」


 チビチックさんが疲れ切った顔で、進み出した。


~~~~~~

《チビチック視点》


 オレはチビチック。

 ハーフフットで、今年40になる(人間から見ると10代前半に見えるらしい)。


 妻子がいて、養わないといけない。だから、冒険者なんつー、アブねえ仕事やってる。


 特に最近、マイホームを購入したせいで、金欠状態だ。

 デカく、金を稼ぐ必要があった。だから、七獄挑戦を提案した……が。


 正直、舐めてた。

 トラップ多すぎるし、地図にない通路が普通ある。


 オレは自慢じゃないが、誰よりも優秀な盗賊シーフだと思ってる。

 ダンジョンで一度も迷ったことがないのが、オレの誇りだった。


 ……だが、このダンジョンでは何度も迷子になりかけた。

 

 迷わないようにするだけでも大変なのに、そこに加えて、強力なモンスターがうじゃうじゃ沸いて出る。


 また、トラップの数も尋常じゃない。

 こんなヤバいダンジョン、初めてだ。


 ……正直、50階層で引き返そうってシーケンが言ったとき、オレはほっとした。

 これ以上は無理だ、そう思ったからだ。

 ……で、だ。

 オレたち黄昏の竜は人間のガキと出会った……。


 で、そいつ、ヤバい。

 そいつがヤバいのは、まあ最初からなんとなくわかっていたが。


 このガキ、ミニマップなんていう謎のスキルを出してきた。

 効果が、遺物アーティファクトと同じだって……?


 ふざけんなよ!

 遺物アーティファクトは稀少すぎて、市場では決して出回ることはない。


 貴族でも、買うことができない。国宝と同義なんだ。

 ……つまり、あのガキは国宝を持ち歩いてるってことなんだ。


 しかもだよ。

 やべーのはこっからだ、あのガキ……スキルを他人に付与してきた。


 ミニマップの詳細は一旦おいとくとして、スキルであることは確定してる。

 スキルは、持っているやつを対象にしか効果を発揮しない。


 でも、このガキは、そんなスキルを他人に付与したのだ。

 こんなの、付与術師エンチャンターにもできない!


 やつらは付与魔法を使い、腕力をあげたり、素早さを上げたりする。

 でも、どれだけ優秀な付与術師でも、スキルを他者に付与することはできない!


 それをやってのけたんだ!

 ミニマップ持ってることでも、そーとーやべえのに、スキルを付与する力持っていた。


 オレは思った。

 このガキは、ケースケは……ヤバい。


 そして、決意した。

 ……触らぬ神に祟りなし、と。


 このガキがマジで、エルシィの言うところの魔神かもしれねーとか、思ったけど、気づかなかったことにする。


 オレにとって重要なのは、金。

 このガキをOTKおたく商会に連れて行けば、1億っていう莫大な金が手に入る。


 3で割っても、十分……いや、十分すぎる大金だ。

 これで危ない仕事から手を引ける。家族と安心して、豊かな生活が送れる。


 そのためには……うん。 

 このガキについては、触れないでおく。ただ、送り届ける。


 何が起きても疑問に思わない。

 こいつがそうとうやべーやつだってわかっても、知らぬ存ぜぬで通そう。

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