第9話 僕の作った料理で魔王パワーアップ



 勇者のカバンのスキル、■庭ハコニワ(異空間)の中にて。


『ケースケ~。カレーもっとぉ。もぉっと食べたいんじゃぁ~♡』


 魔王スペさん(※子犬姿)が、僕の足にしがみついておねだりしてくる。


「もうないよ、カレー。てゆーか、食べ過ぎ」


 今後のことを見越して、僕はカレーを余分に作っておいた(お鍋3つ分)。

 しかし、スペさんはその全てを、ぺろっと食べてしまったのだ!


『そこを何とか! もういっぱいだけ~』

「だーめ。カレー作るのにお金かかるんだから」


 カセットコンロなどの日用品に加えて、カレーの材料をたくさん買った。

 結果……。


「もう所持金が150万円(※15万ゴールド)しかないんだから」

『まだそんなにあるじゃないか!』


「だめ。だってこれから脱出するまでに、あと2~3ヶ月はかかるんでしょ? お金は節約しなきゃだし」


 まあ普通に考えて、1ヶ月あたり(3ヶ月で脱出できると想定して)、50万円使えるって考えると、余裕はなくはない。


 が、スペさんはこんな小さくともフェンリル、大食漢だ(女の子らしいけど)。

 財布にひもをつけておかないと、あっという間に、お金がなくなっちゃう。


 節約しなきゃだ。


『我慢するのじゃ……菓子パンで』

「まだ食べるの……?」


『うむ! おぬしの世界の食べ物は、もの凄く美味しいからのぅ! ここの世界のメシときたら、冷たいし、味があんまないし、正直まずいなのじゃ』


 ふーん……料理については、現代日本より遅れてるんだ。

 ん? じゃあ、美味しいご飯を売れば、結構儲かる……?


 まあ、商売するにしても、ここを出ないとだね。


「では、脱出しますかな」

『ミラーサイトで外の様子を確認しておいたほうがよいじゃろう』


「あ、そっか。■庭ハコニワの外には、大量の魔物がいるんだっけ」

『そうじゃ。ミラーサイトで鏡をつくり、片方だけを外に出すのじゃ』


 僕はスペさんのアイディアを採用する。

 鏡の勇者さんの固有スキル、ミラーサイトを発動。


 聖武具である鏡を出して、それだけを外の世界に出す。

 外の様子が鏡に映る。


「わ……! まだ魔物いるぅ」

『こやつらは、大灰狼グレート・ハウンドじゃな。群れで行動する、狼型のモンスターじゃ。敵をどこまでも追いかけ回す厄介な敵じゃよ』


 鏡に映っているのは、石みたいに硬そうな毛皮をした、大きな狼たちだ。

 近くの大きめな岩と、同じくらいの体高がある。


 これが何十匹も周囲をうろついてるのだ。

 このまま出て行ったら、多分僕は一瞬で骨までしゃぶり尽くされちゃうだろう。

「このまま大灰狼グレート・ハウンドがいなくなるのを、待つ?」

『駄目じゃな。彼奴らは執念深い。一度得物と決めたものを、捕食するまでは延々と追いかけてくるぞ』


 うーん……じゃあやっつけないとだ。

 でもこんなたくさんの敵に、360度囲われてる状況で、戦闘なんてできるだろうか……。


『やっと、我の出番のようじゃなっ』

「スペさん……まさか、やっつけてくれるの、こいつら?」


『うむ! 今の我は、ケースケのカレーをたらふく食べて元気いっぱいじゃ! 食後の運動がてら、奴らめを蹴散らしてしんぜよう!』


 他に、どうにかできる手立てはない……か。

 うん。


「わかった。スペさんよろしく」

『うむ! そ、その代わり~。全員倒したら、美味しいものを~』


「わかったわかった」

『おほー! よぉうし! 言ってくる! ケースケはここにおるのじゃよ、外は危ないからの!』


「わかった。いってらっしゃい、スペさん」


 スペさんだけが、シュンッ、と姿を消す。

 僕はミラーサイトで外の様子をうかがう……。


 って!


『なんじゃこりゃああああああああああああああ!?』


 外に出たスペさんが、声を思わず張り上げていた。


 そこにいたのは……。

 

『我……デケエエエエエエエエエエエ!』

「わ、すっご……スペさんって、こんなに大きくなれるんだねえ」


 最初に出会ったとき、スペさんは3~4メートルくらいの大きさだった。

 でも今は……それよりもっともっと! 大きくなってる!


 大灰狼グレート・ハウンドが、岩と同じくらい(1.5メートル)だ。


 その大灰狼グレート・ハウンドが、まるでお人形に見えるくらい……。

 今のスペさんは、デカい!


「おおぉー。これがスペさん本来の姿かぁ~。すげー。15メートルくらいあるのかなぁ。狼の10倍くらいでっかいし」

『どうなっとんじゃぁ!』


 これなら、スペさん余裕でしょう!

 さすが魔王様!


「いけー、僕のポケ●ン!」

『うぉおお! なんかわからんが、やってやらぁあああああ!』


 スペさんが1歩、踏み出す。

 ぐしゃっ!


 あ、もう5匹くらい、大灰狼グレート・ハウンドが死んじゃった。


 スペさんは特別なことをしない。

 ただ追いかけ回すだけ。


 巨象がアリを潰すように、スペさんが狼たちを次々倒していく。


 5分後。

 僕は■庭ハコニワから出て、スペさんの元へむかう。


「わ! 近くで見ると、やっぱりおっきぃ~」


 くそでかフェンリルを見上げながら、僕は言う。

 下から見上げると、彼女の大きさがよくわかる。


「スペさーん! おーい! おつかれー!」


 彼女は伏せ、状態になり、顔を近づけてきた。


『どうなっとるんじゃこれは……!?


 え、何に驚いてるんだろう……?


「どうしたの?

『いや我のこのでっかい姿を見てなんとも思わないのかの!?』


「? それが本来の姿じゃないの?

『違うのじゃ! おぬしと出会ったあの姿! あれこそ真の姿じゃ!


 ……え?

 てことは……。


「なんでそんな大きくなってるの?

『わからんってゆーとるじゃろうが!』


「そっかぁ~。どうしちゃたんだろうね」

『ううん、わからん……我にこんな巨大化する力は無いんじゃ……』


「心当たりは?」

『……まさか。ケースケ! 我を鑑定するのじゃ!』


「わかった。鑑定!」


~~~~~~

フェンリル(SSSランク)


【スキル】

※別ページ参照


【状態】

魔力上昇、体力上昇、攻撃力上昇、魔法攻撃力上昇

~~~~~~



『魔物を鑑定すると、そやつのステータスが表示される。ランクや、所有するスキルがわかる。そのほか、魔物の状態も表示されておるはずじゃ』


「うん……なんか、魔力とか体力とか、色々上昇してるみたい」

『やはりな……。ケースケよ、さっきのカレーの残りはあるかの?』


「? あるけど」

『調べてみるのじゃ』


 カバンから、ボックスに入れておいた、カレー(器に小分けして収納しておいた)を取り出す。


「カレーを、鑑定」


~~~~~~

・勇者カレー

→勇者の作った特別なカレー。

 魔力上昇、体力上昇、攻撃力上昇、魔法攻撃力上昇効果

~~~~~~


「へえ~。食べ物にバフの効果なんてあるんだぁ……って、どうしたの、スペさん?」

『あのなぁ、ケースケよ。食べ物にバフ効果なんて、普通、ないのじゃ!』


「え? そうなの?」


 テイ●ズとかのゲームとかだと、料理を食べると、ステータスがアップするみたいなのは、普通にあった気がするんだけど……。


『スキルには魔力が付与されておる。スキルを使って料理することで、その料理にも勇者の魔力が宿るのじゃろう。で、それを食べることで、能力を向上させた……と』


「へえ~。料理でステータスを上げることができるんだぁ。すごい、ファンタジーだなぁ」


『いやケースケよ……もっとな、もっと驚いてええんじゃよ? これは本当にすごいことなのじゃ』

「そーなの?」


『そーなのじゃ!』


 でも具体的にどう凄いのかわからないしなぁ。


『まあ、鑑定スキル持ちはこの世界には少ないからの。おぬしの料理にバフ効果があることは、気づかれんじゃろう』


「え、鑑定持ちって少ないの? なんで?」


『鑑定スキルは、召喚勇者の固有スキルじゃからな』


 あ、そっか。

 ワルージョが言っていたっけ。鑑定、アイテムボックス、聖武具は、三種の神器だって。


 そっか、どれも勇者固有の力なんだ。

 なら、安心か。外でこの料理を鑑定され、大騒ぎみたいなことにはならないね。


『しかし……食べ過ぎたのじゃ。体に力がありあまっておる……今も……ぜんぜん……』


 ぶるぶるぶるぶる……とスペさんの体が震え出す。


「え、なに? どうしたの?」

『ま、まずい……! おぬしから注がれた魔力量が、多すぎて、我の体の中で暴れ回っておる!』


 え、なになに?

 どういうこと?


『このままでは体が破裂してしまうのじゃ!』

「こわっ! え、どうすればいいの?」


『魔力を放出する! おぬしは■庭ハコニワに待避しておれ!』


 言われるがママ、僕は■庭ハコニワに一度移動。

 

『うう~~~~~~……』


 スペさんが上を向いて、口を開く。

 コォオオオオオオオオ…………。


「え? スペさん? 何するの……?」

『魔力を体外に放出する……!』


 口を大きく開き、天を仰ぎ、スペさんは……。


『ふぁいあーーーーーーーーー!』


 ビゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!


「えーーーー!? ビームぅう!?」


 スペさんの口から、ビームが発射された。

 それは迷宮の天井を、容易くぶち抜く!


 光の柱は天へとぐんぐんと伸びていく。

 やがて……。


 スペさんは子犬姿に戻った。


「だ、大丈夫?」


 僕は■庭ハコニワの外に出て、スペさんの元へ駆け寄る。


『うむ……魔力、いっぱい出たのじゃ……』

「お、お疲れ……」


『まさか、勇者おぬしの料理に、あれほどまでの膨大な魔力が込められておるとはな……。すごすぎるのじゃ……』


 料理にそんなに魔力が含まれてたんだ……。


「余計に、食べ過ぎちゃだめだよ。これからは」

『はーい……』


 僕は天井を見上げる。

 わぁ。天井に穴が空いてるや。


『なんということじゃ……! 迷宮の天井に、穴が空いておる!?』


 え、これのどこが驚くことなんだろう……?


『迷宮の壁や天井は、破壊不能オブジェクトといって、文字通り破壊することができぬ仕組みとなってるのじゃ!』


「え、でもスペさん破壊したじゃん」


『うむ……。本来は無理なのじゃ。おそらく、お主の料理が原因じゃろう』


 また僕ですかぁ?


『お主の料理には、攻撃力上昇バフがついておったからな』

「攻撃力が【ちょっと】上がったくらいで、壁って破壊できるものなの?」


『いや……普通は無理じゃ。勇者の料理、魔王の力、2つが合わさった結果じゃろうなぁ』


 ……うん。

 今わかったよ。


「スペさん、料理、しばらく食べるの禁止!」

『しょんなぁ~~~~~~!』


「だって危ないもん」

『ふぇーーーーーん!』


 しかし、さっきのビーム凄かったなぁ。

 天井に穴が空いたけど……一体天井を、いくつぶち抜いたんだろう……?


 って、あれ?


「待てよ……これ、ひょっとして……ショートカットできるんじゃ……?」


 そうだよ、一階層ずつ上がらなくても、今天井に穴が空いてるんだ、ここから空を飛んでいけば、ダンジョンをショートカットできるじゃん!


「たしか、靴さんの聖武具に、空を歩くスキルあったよね」


・勇者の靴

固有スキル:ウォーキング

派生スキル:空歩、縮地


・空歩(SS)

→空中に空気の足場を作り、歩行を可能とする。


「よし、スペさん、この穴を通って、上に行こう! 近道だ!」

『のぅケースケぇ、料理ぃ~。たべたーい』


「わかったよ、でも、食べ過ぎは駄目ね」

『わーい!』

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