第10話 魔王を封じた大勇者との出会い



 僕の料理で巨大化したスペさん。

 スペさんレーザーによって、天井に大穴が空いた。


 僕は空を歩くスキル、空歩を使って、迷宮をショートカットすることにした。


「ほっ、ほっ、よっと」


 靴の勇者さんの派生スキル、空歩。

 透明な空気ブロックが足下に生成され、それを足場にできるスキルだ。


 階段を登るように、僕は上を目指して歩いて行く。

 どんどん歩く。


 上へ上へ……。

 やがて……。


「よいしょっと。わ、なんだこの階層……! 真っ暗だ……」

『うむ……変じゃの。ダンジョン内の壁や床は、淡く発光してるはずじゃ。しかしここは……本当に真っ暗じゃ』


 ダンジョン内は、地面がぼんやりと光ってて、周りが見渡すことができたのに……。

 ここには、どこまでも続く闇が広がっていた。


「わ! 地面の穴がふさがっちゃった」

『む! むむむ! この……魔力は……?』


「スペさん? なんか、いるの?」


 スペさんの魔力感知に、何か引っかかったのかな?


『……ケースケよ。ここに、勇者がおるぞ』

「! 勇者が……! いるって……え、生きてるの?」


『うむ……恐らく』


 恐らく……?

 なんだか、歯切れが悪い答えだなぁ。


 でも……生きてる勇者!

 オタクさんたちを除いて、生きてる勇者に会うのって初めてだ!


 ちょっとワクワクする!


「スペさん、その人どこにいるの? この部屋? 階層? 真っ暗でなんも見えないから、案内してよ!」

『…………』


「スペさん?」


 彼女はしばしの間黙って、何かを考えてるようだった。

 でも……。


『ケースケよ。おぬしは、同胞ゆうしゃに会いたいか?』

「うん! そりゃもちろん!」


『そうか。わかった。主であり、友である、おぬしの頼みじゃ。【過去の遺恨】は水に流すとしよう』


 ……?

 よくわからないけど、スペさんは僕を、勇者の元へ案内してくれるようだ。


 スペさんに指示された方角に進んでいく。


 魔力感知を使えば、真っ暗闇のなかでも、物や人の位置がわかるんだって。(モノも人も魔力が含まれてるからって)。


『ここはどうやら、部屋の中のようじゃ。それも、一般人では決して入れない』

「そんなことまでわかるんだ」


『うむ、魔力感知を使えばな』

「へぇ、あれでもなんで僕らは入れたの?」


『我のビームで穴を開けたからじゃろうな』

「なるほど、我ビームすごい」

『いや名前……まあよいがの』


 ほどなくして……。


「ん? なにあれ……? 大きな……箱……?」


 遠くに、巨大な、青白く光る箱が見えてきた。

 

『あそこにおるぞ』

「ふーん……人陰らしきものは見当たらないけど……」


 巨大な光る箱へと近づく僕たち。

 やがて……。


「わぁ……ほんとにおっきいなぁ、この箱……」


 箱は4~5メートルくらいあった。

 何だろうこの箱……?


「に……ほんご……?」


 どこからか、女性の声が聞こえてきた。

 スペさんとも違う、かすれきった声。

 まさか……勇者さんの声!


「あのぉ! どなたかいるんですかぁ!」


 すると……。


「やっぱり! 日本語! ここ……ここよ! わたしは……ここにいるよ!」


 声が鮮明に聞こえてきた。

 やっぱり勇者さんここにいるんだ!


 光る箱の、後ろ側から声が聞こえてきた。

 僕はそこへ行って……。


「え……? が、ガイコツ……?」


 ……なんと、そこには、人間のガイコツが、箱の面からにょきっと生えていたのだ。


 上半身が箱から出ている。

 下半身、そして両腕が、箱の中に入っているような状態。


「ああ! やっぱり! 人間! あなた……日本人ね!」


 かたかたかたかた……とガイコツが、動く!

 あわ……あわわわわ……。


「あ、やっぱり……そうよね。こんな姿じゃ……恐いよね……」

「ど、」


「ど?」

「ど、どうやって、しゃべってんですか……?」


 ……。

 …………。

 ………………。


「えっと……私が恐くないの? 君……?」

「え、あ、はい。それより、そんな骨しかないのに、どうやってしゃべってるのかなって。声帯とかないですよね?」


 それでしゃべるって……す、すごい……!


「私の聖武具の力だよ。私のは、他の聖武具とリンクさせて、その聖武具の所有者に念話を送ることができるの」

「念話! す、すげえ……!」


 テレパシーだ!

 超能力だ! かっこいい!


「い、いやあのさ……君……このガイコツ姿の私を見て、恐いとか、気持ち悪い、とか思わないの?」


「? 全然。テレパシー少女だなんて、かっこいいなぁとは思いましたけど」


 しばし、沈黙があった。

 やがて……。


「ぷっ! あははははっ!」


 勇者さんが突然笑い出す。


「あはははは! おっかしぃ。君……そうとう変わってるね」

「姉ちゃんからも言われました。『あんたあたしの彼氏並に変』って」


「あはは! ストレートすぎる…………う……うう……ううううう……」


 ど、どうしたんだろう……?

 

「ごめんね……人と話すの、もう随分久しぶりで……。しかも、相手は日本人で……もう二度と、会えないって思っていたから……だから……うれしくって……涙が……うう……」


 ふぅむ……。

 なるほど。これは、あれだ。


「いや、その姿じゃ、泣けないでしょう? ガイコツなんだし」


 ぺん、と僕は勇者さんにツッコミを入れる。

 

『お、おぬし……よくこの雰囲気でツッコミ入れられるな……凄いな逆に……』


 今までずっと黙っていた、スペさんが、思わずそういった。


「! その声……もしかして、スペルヴィア?」


 あれ? 

 勇者さん、スペさんと知り合いなんだろうか……?


『久しいの、【神眼の大勇者アイ・ミサカ】』

「神眼の大勇者……? アイ・ミサカ……?」

 

 日本人だろうから、ミサカ・アイさんっていうのかな、この人……。


「え、え、え、え? な、なんでスペルヴィアがここに……?」


 ミサカさんはちょっと、いやだいぶ困惑してる様子が、声から伝わってくる。


『この少年が、おぬしがかけた封印を解いたのじゃ』

「わ、す、すご……君、ほんとすごいね!」


 おぬしがかけた封印……?

 スペさんを封印してたのは、いにしえの勇者とか言っていたような……。


 って、まさか……。


「ミサカさんが、スペさんを封印した勇者なの?」

「そうよ。私……【神坂みさか 愛】が、スペルヴィア【達】を封じたの」


 やっぱり!

 そうなんだ……って、え?


「でも、おかしくないですか? だってスペさん、もう気が遠くなるくらい長く封印されてたって言ってましたけど」


 すると、ミサカさんは声のトーンを落として言う。


「私ね……死ねないの」

「不死……ってことですか?」


「うん。この光る箱……あるでしょ? これね、呪具なの」

「じゅぐ……?」


「呪いのアイテム。私を永遠に、この場所につなぎ止めておく……呪具を、私は【使われた】の」


 永遠につなぎ止めておくって……。

 じゃあ、この呪いの箱のせいで、ミサカさんは死ねないってこと!?


「酷い!」


 女の子をこんな暗い部屋に、気が遠くなるような時間閉じ込めて!

 しかも永遠に死ねないようにしたやつがいるだって?


「使われた、って、誰かがミサカさんを閉じ込めたってことですよね? 誰がそんなことを!」


『……ケースケよ。お主ならば、わかるだろう? 廃棄勇者である、お主ならば……?』


 スペさんの発言を危機、僕は、直感する。


 いや……。

 いやいや。嘘でしょ……?


「王族……?」

「正解。頭良いね、けーすけ君……」


 そんな……。

 

「ミサカさんの聖武具も、使えないからって、こんな酷い仕打ちを受けるハメになったの?」


『いや、違う。大勇者ミサカの聖武具は、【神眼】。凄まじい力を発揮する、強力な聖武具じゃった』

「神眼……」


 魔王であるスペさんが、凄いと評価するんだ。

 ホントに凄い聖武具持ちだったんだ……。


「じゃあ、なんで? 封印されるハメになったの? 僕みたいに、はずれ聖武具持ちじゃないのに」

「…………色々ね、あったんだ」


「色々……」

「うん。七大魔王を封印したり、魔族の戦争を止めたり、人間同士の諍いを仲裁したり……。平和のために、頑張ったんだけど……なぁ……」


 ……どうやら、いっぱい頑張ったのに、王族にここに封印されてしまったようだ。

 ……僕には、さっぱり理解できない。


 なんでミサカさんは頑張ったのに、こんな仕打ちを受けなきゃいけないんだ!


『平和になったからこそ、勇者は邪魔になったのじゃろうな』

「そんな……あんまりだよ」


 ポタポタ……


「……君、泣いてるの?」


 気づけば、僕の頬を涙が流れていた。


「そっか……ありがとう。私のために泣いてくれて……嬉しいな」


 ミサカさんは、ガイコツだから、笑うことができない。

 笑うことも、泣くことも、美味しいご飯を食べることも、できない。


 異世界のこの地に、永遠に、独りぼっち……。

 そんなの駄目だ!


「ミサカさん! 僕が君を、ここから連れ出してあげます!」

「! できるの……そんなこと……?」

「はい!」


 勇者のカバンで、魔王の封印を、解くことができたんだ。

 なら……勇者の封印だって、きっと解ける!


 いや、絶対解ける! 100パーセント、絶対!


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