第11話 神眼をもらい、勇者を超越する


 魔王を封じた勇者、ミサカさんの封印を、解くことにした!


「僕に任せて!」

『……安心せよ、大勇者ミサカ。この少年は……凄い子じゃ』


 ミサカさんは少し黙ったあと、こくんとうなずいた。


「わかったわ。お願い……ここから連れ出して!」

「はい! いくぞぉお! 収納!」


 僕は勇者のカバンを、ガバッと開く。

 ヒュゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!


 僕はまず、あの封印の呪具ごと、ミサカさんを収納!

 スペさんの時の失敗を踏まえて、封印してるアイテムごと収納!


『【久遠封縛の匣】を収納しますか?』


 よし!

 呪具を収納できた!


「あとは、ミサカさんだけを取り出して……」


 しーん……。

 あ、あれ……!?


「ミサカさんだけを、取り出せないよぉ!」

『やはりな。さっきの世界の声アナウンスでは、【アイ・ミサカを収納しました】ってならなかったじゃろう? 我の時みたいに』


 はっ!

 そ、そうだ……。


 スペさんの時は、絶対結界、そしてスペルヴィアを収納したって、アナウンスがあった!


 でも……今回は、ミサカさんを封印してる、呪具だけしか収納できなかった……。


「どうして……?」

『呪いのせいじゃろうな』


 あの箱の呪いが強すぎて、肉体と呪具を分離できない……ってことか。

 くそっ……!


 ……僕は一旦、呪具を取り出す。


「ごめん、ミサカさん……呪具は収納できたんだけど、君は取り出せ……」

「ぐす……うう……わああああああん! ありがとぉ!」


 え?

 あ、ありがとう……?


「ど、どういうこと……ミサカさん……?」

「今ね、君のカバンの……中に、呪具ごと入ったとき……私ね、眠ることができたの!」


 ……どういうことだろう?


『まさか、大勇者ミサカよ。おぬし……封印されてから今日まで、眠ることもできなかったのか……?』


 !?

 な、なんだって……!?


 じゃあ……ミサカさんは今までずっと、ひとり孤独に、眠ることも死ぬこともできない状態で居続けた……ってこと!?


 ……ふざけるなよ、王族!

 こんな仕打ち……酷すぎるでしょ!


「うん……でもね、君の箱の中に入ったら、痛みも、苦しみも、孤独も……何もかもを感じず、眠ることができたの……」

「ミサカさん……」


「ねえ、けーすけ君。私を、呪具ごと君のカバンに入れてくれないかな?」


 このカバンの中に入れば、ミサカさんは、永遠の苦しみから一時解放される……。


 一時……だけ……。


「わかった。でも、僕はミサカさんを解放すること、諦めないよ」

「え……?」


「呪いが分離できなかったのは、聖武具のレベルが低かったからだよ! もっと聖武具を鍛えれば、きっと……! あなたを呪縛から解放できる!」


 僕は、たくさんの聖武具を見てきたからわかる。

 一見ハズレに見える聖武具も、鍛えれば、凄いことができるんだって!


「ミサカさんをこの勇者の鞄の中に収納して、レベルを上げて、いつかきっと、ミサカさんだけを、取り出してみせます!」


 だから、と僕は言う。


「異世界を一緒に、楽しく! 冒険しましょう!」


 聞く限りだとミサカさんはずっと苦労してきたみたいだ。

 せっかく、楽しいファンタジー世界に来たのに、あんまりだ!


「そしていつかきっと、二人で、お日様の下でご飯食べましょう!」


 ミサカさんは「うん……うん!」と何度もうなずく。


「ありがとう……。うれしい。でもね、君は私みたいに、使命感に燃えなくて良いよ」


 ミサカさんは言う。


「私は不死の存在だから。時間は腐るほどあるし、どれだけでも待ってられるよ」

「でも……早く自由になりたいですよね?」


「大丈夫! 何世紀もまったし、待つのにはなれてるわ! それに、鞄の中に入ってるときは、眠ってる状態だから、待つのも全然辛くないし」


 うーんでもなぁ。


「それより、君に重いモノ背負わせたくないな」

「そっかぁ……」


 やるぞ! と意気込んだけど、でもそれが逆に、ミサカさんに負担に感じさせてしまうようだ。


「じゃあ……ほどほど頑張ります」

『うん、マイペースに頑張って』


 僕らの会話を聞いてた、スぺさんが口をはさむ。


『ケースケの場合、歩いたり、ご飯作ったり、鞄にモノを突っ込むだけで、聖武具のレベルあがるみたいじゃし、他人の聖武具を持ってるからか、人の七倍早く経験値貯まる。存外早く解放されるかもな』


「そっか……じゃあ、私の聖武具も、君に貸してあげる! おいで!」


 ミサカさんの聖武具……。

 神眼って言ってたな。

 

 でも、どこにあるんだろう……?


「私の右目を覗いてみて」


 空洞になってる、右の眼窩をのぞき込む……。

 カッ!


「わ、まぶし……!」


 何か強く光った……と思った次の瞬間……。


「って、あつぅう! 右目あつ!」

「はい、神眼を移植したよ」


「移植なんてできるんですね……」

「うん、私の聖武具だけできる、特殊能力!」


・大勇者の神眼

→勇者を超越する勇者の持つ神眼。所有者に絶大なる特殊眼力を与える。


 勇者を超越する力?!

 え、す、すごぉい……! この目!


「その神眼は、きっと君を守ってくれるよ」

「ありがとうございます……!」


「うん……じゃあ、しばらくお別れだね」

「そうですね……でも、大丈夫です! またすぐ会えます!」


 聖武具がこれで8個になった。

 八倍のスピードでレベルが上がっていくのだ。


 きっと……この鞄はいつか、ミサカさんの呪縛だけを、収納できるようになる!


「うん、気長に待ってるね。何度も言うけど、あんまり気負っちゃだめよ」

「ふぁい!」


 僕は鞄をあけて、呪具ごとミサカさんを収納する。

 呪具を収納するか聞かれたので、YESと答える。


『条件を達成しました』

『聖武具のレベルが上がりました』

『聖武具のレベルが上がりました』

『聖武具のレベルが上がりました』


 ん?

 あれ……?


『聖武具のレベルが上がりました』

『聖武具のレベルが上がりました』

『聖武具のレベルが上がりました』……


 あ、あれあれ!?

 レベルアップが止まらないぞ!


『凄いアイテムを収納したのじゃ、鞄のレベルが上がりまくるのも当然じゃな。我の時もそうじゃったろう?』


「そ、そうだったね……」


『ふふふ、これは、思ったより相当早く、大勇者を解放できそうじゃな』


『【久遠封縛の呪い(レベル1)】を、取り出しますか?』

『って、はやぁああああああああああああ!?』


 スぺさんが驚きの声を上げる。


「え、これって……もう呪い、完全に解除できたってこと?」

『いや、部分的に、呪いが解けたようじゃがな』


「部分的?」

『呪いは何重にもなってかかっておるのじゃ』


 なるほど、たくさんの呪いという名の鎖が、ミサカさんを縛り付けてるってことか。

 その呪いの一端だけを、解除できるようになった、ってこと!?


「ちょ、ちょっとミサカさんの様子みてみよう」

『いやおぬし、空気。あんな感動的な別れをした後に、もう再会って……』

「呪具、取り出し!」


 かばんが開き、中から呪いの箱が出てくる。

 

「え、け、けーすけ君? どうしたの?」

「『!?』」


 僕も、スぺさんも思わず驚いてしまった。


「み、ミサカさん、姿が……」

「姿?」


 僕はカバンから、勇者の鏡を取り出して、ミサカさんの前にかかげる。

 鏡に映っているのは……。


「ミ、ミイラ!? ガイコツじゃ、なくなってる!」


 そうなのだ。

 さっきまでミサカさんは、肉も皮もない、ただの骨だけの状態だった。


 でも呪いレベル1を取り除いた結果、ミサカさんの外見に変化があった。

 しわしわだけど、皮膚と筋肉がある。

 

 髪の毛も、生えている(しわしわだけど)。


『おそらく、呪いの一部を解いた影響じゃろう』

「す、すごい……すごいよけーすけ君! 君、すごすぎるよ! 一部だけど、もう呪い解いちゃうなんてー!」

 

 にこぉ、とミイラ状態にレベルアップしたミサカさんが、笑っている。

 そう、笑っているのだ! よかった……笑えるようになったんだね!


「僕、これからもほどほどに、もっと頑張ります!」


 呪いの一部分だけが、こんなに早く解くことができたんだ。

 きっと、僕が思うよりずっと早く、解呪できる。そんな予感がした。


『……大勇者を封じるほどの呪いを、一部とはいえ解呪した。今のケースケには、世界最強の解呪の力が宿っておるということか。……聖武具を複数使えてる時点で、尋常でもないし。この子は、ほんとにとんでもない奴かもしれん』


 さ、これからも、ほどほどに頑張るぞい!

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