第2話 獣人メイドさんの部位欠損を治す


 僕の目の前には、一台のホロ付き馬車がある。

 御者台に座って、ブルブルと震えているその子に、話しかける。


「大丈夫?」

「は、はひぃ……【らとら】は……だいじょうぶなのです」


 メイド服を着た、女の子だ。

 頭を布で覆ってる。


 垂れ目で、ちょっと頼りない印象を受ける。

 年齢は10代前半くらいかな?


 ホロには【OTK】とカッコいい文字で書いてある。

 OTKおたく商会の馬車、なんだろう。


「ら、らとらはどうなってもいいのですっ。でもでも、このお金には手を出さないで欲しいのですっ」


 メイドさんはギュっと、手に持った皮袋を強く抱きしめる。


「ごしゅじんさまの大事な荷物を、大事なお得意様にお届けして、手に入れた、ごしゅじんさまのお金なのです!」


 なるほど、この馬車は荷物を運んできたとこらしい。

 で、盗賊に襲われたと。


 しかしご主人様……ご主人様、かぁ。

 この子メイド服着てるし、もしかして……。


「ご主人様って……飯田オタク……いや、【オタク・イーダ】さんってひと?」

「は、はいなのですっ」


 やっぱりだ!


「大丈夫ですよ、僕はオタクさんの知り合いです」

「………………」


 あかん、警戒してる。

 そりゃそうか。証拠も何もないし。


 うーん、どうしたら警戒解いてくれるだろう……。


「ん? 君、ケガしてるね?」


 よく見ると、その子の腕に、ナイフで切られた痕があった。

 結構深く斬られてるのか、血がじわ……とにじんでる。


「良かったら治療するよ」

「ち、ちりょー……? あ、あなたは……治療師なのです?」


「ううん。でも、任せて」


 僕は新しく手に入れた、カバンの力を使うことにする。

 見知らぬ誰かだったら、別に治療する義理なんてないけど、この子の信頼を勝ち取るために、僕は治療する。


『ケースケよ、治療なんてできるのか?』


 頭の上に乗ってる、スペさんが僕に尋ねてくる。


「ふふふ、僕のカバンは進化して、新しい力が備わっているんだよ」


救急ファーストエイドボックス

→損傷した細胞を収納し、ケガを治す。また、病原物質を体から取り出して収納することで、病気を治す。

 

救急ファーストエイドボックス、発動! この子のケガ……というか、悪いとこ全部なおしてあげて」


 かぱっ、と開けたカバンの口から……。


「へ、へ、へえ!? は、白い翼の……て、天使ぃ……!?」


 カバンの中から現れたのは、白い翼を生やした、綺麗なお姉さんだった。

 白衣……のわりには、結構きわどい格好をした、お姉さん。


 天使ってわかるのは、背中から翼を生やし、頭に金の輪っかを携えているからだ。


 天使のお姉さんが、ふぅ~……と息を吹きかける。

 お姉さんからはキラキラと光り輝く、不思議な青い風が吹いた。


 その風がメイドさんの体にまとわりつく。

 腕……そして、頭に。


 お姉さんは息を吹きかけるのをやめて、カバンの中に帰っていった。


「どう? 治ったでしょ?」


 腕のケガが、すっかり治ってる。

 出血も収まり、傷口も塞がってる。


「あわわわ! す、すごいのです……!」


 でしょ、一瞬で毛顔を治しちゃったんだし……。


「耳が! らとらの……耳が! 生えてきたのです!」

「……はい? 耳?」


 ふぁさ……メイドさんが頭に巻いてた布が、落ちる。

 ぴょこっ。


「わ、わ、かわいい~! うさ耳だぁ~! ケモミミがーるだっ!」


 メイドさんの頭からは、ぴんっ、と立ったうさ耳が生えていたのである!

 わ~! すごぉい!


 現代日本人としては、こういうリアルケモミミ美少女と出会えて、テンションが上がるわけですよ。


「あ、あのぉ~……らとらのこと、気持ち悪くないの……です?」


 メイドさんは恐る恐る尋ねてくる。

 気持ち悪い……?


「なんでですか?」

「だ、だって……人なのに、獣の耳とか……生えてるし……。きもちわるいって、みんないうし……ご主人様以外……」


 オタクさんもきっとテンションがあがっただろう。

 獣美少女がいるんだから。


 でも、きもちわるい?


「そんなわけないですよ。普通に可愛いです」

「ひぅ~……♡ ご主人様以外で、同年代の男の子に、そんなふうにいわれたの……はじめてなのですぅ~……♡」


 ぴょこぴょこっ、とうさ耳が動く。

 か、かわい……触りたい……。


「で、メイドさん……」

「ら、らとらなのです!」


「ラトラさんは、さっき何に驚いてたんですか?」


 なんか耳がって。


「らとらの、耳。生えてきたのです。もともと……ちょん切られてたのです」

「ちょん切られてた!? ひ、ひどい! 誰がそんなことを!」


「げ、ゲータ・ニィガ王国の……奴隷商人なのです……らとらはもと、奴隷なのです」


 ゲータ・ニィガ……。

 あ、僕を召喚した国か。ワルージョのいる。


 こんな獣美少女の、ケモミミをちょんぎるだって!

 ひっどい国!


「らとらの耳……なおったのですっ。あなたの、治癒のおかげでっ! ほんとにありがとなのです!」

「いえいえ、どういたしまして」


 しかしさすが異世界の治癒魔法》ケガだけじゃなくて、部位の欠損まで治しちゃうのかぁ。

(※基本部位欠損は魔法で治せません)


 ややあって。


「へえ、君を買ってくれたのが、オタクさんだったんだね」


 黄昏の竜の面々がくるまで、僕はこの場で待機することにした。

 その間に、ラトラさんから、色々聞いた。


「はいなのです。オタクごしゅじんさまは、とっても優しい人なのですっ」


 ラトラさんはが興奮気味に言う。


「らとらたち獣人奴隷、しかも、部位がかけてるような、商品価値の低い子らを、優先的に買ってくれるのですっ」


 オタクさんはどうやら、若くして売りに出されてる奴隷や、戦争孤児などを集め、孤児院で育てているらしい。聖人かな。


「今のオタクさんに速く会いたくなってきた……!」

「あのあの、あなた様は……」


「あ、僕、啓介っていいます」

「ケー……ス? あれあれ、どこかで聞いたことあるよーなぁ~」


 と、そのときだ。


「おおい、ケースケくーん!」


 シーケンさんたち、黄昏の竜の皆さんが、やっとこさ現場へ到着した。


 結構時間掛かったなぁ。僕が移動、団長を蹴散らし、その後ラトラさんと会話してる。

 この人ら何してたんだろ(※←必死に走ってきてました。かなり距離あります)


「その娘が、OTKおたく商会んとこの、人間か?」


 チビチックさんが僕に尋ねてきた。


「はい。あ、はい。人じゃなくて、獣人ですけど」

「「「獣人……」」」


 あ、この人達も人間だった。

 ラトラさんに対して、嫌なこと言ったらどうしよう。


「そうかい。おれはシーケン。この二人はおれの仲間だ。よろしくね」


 あれ、シーケンさん普通に会話してる。 僕が不思議に思ってると……。


「おれ、修業であちこち旅しててさ。獣人の国にも立ち寄ったことあるんだ。そこでお世話になった獣人たちいるからね」

 

 だから、差別しないってことか。

 他2人も特にラトラさんを嫌ってる様子もない。よかった。


 さて。


「なるほど、じゃあ盗賊に襲われてるところを、ケースケ君に助けられたと」


 ラトラさんが、ここに至るまでの経緯を、黄昏の竜の皆さんに説明した。


「ほんとーにありがとなのです! なんとお礼を言えば良いか……」

「いえいえ。ところで、お願いが一つあるんだけど、僕をごしゅじんさま……オタクさんのとこへ連れてってもらえないでしょうか?」


「ごしゅじんさまの? いいのですっ!」


 ほぉ……良かったぁ。

 ラトラさん、ケガを治したことで、僕への警戒心がかなり薄れてる。


 あと、「わ、わ、わ! た、黄昏の竜だぁ!」とラトラさんは驚いていた。

 黄昏の竜って、駆け出しなのに、有名なのかな?(※←トップ冒険者で、ファンも多数です)


 ともあれ、黄昏の竜の皆さんの証言もあり、ラトラさんの僕への疑い(不審者)も晴れた次第。


「良かったなぁ、ケースケ君。これで念願のOTKおたく商会のギルマスに会えるね」


「はいっ!」


「おれらもギルマスに会いたいから、最後までついて行くよ」


 そうだった、僕には賞金がかかってたんだったっけ。

 彼らはそれが目当てで、僕を連れてきたんだった。


「じゃ、直ぐ行きましょう!」

「あのぉ……ひじょーに、いいにくいのですがぁ。直ぐの出発は無理なのですぅ~」


 ラトラさんが悲しそうな声で言う。


「どうして?」

「馬車の車輪が、壊れちゃってましてぇ……」


 車輪が?

 たしかに、側面の車輪二つが、壊れていた。


「馬車に追われてるときに、壊れてしまったんじゃねーの? この馬車、結構年季が入ってるしよぉ」


 チビチックさんが、木製の車輪を見ながら言う。


「新しい車輪は?」

「替えのが1つなら……」


 ふーむ、車輪は二つ壊れてるって言うし……。


「あ、そうだ。僕に任せてください、すぐ修理しますので」


 僕はカバンから、勇者の鎚を取り出す。

 ハンマーを持った状態で、車輪に近づく。


「スキル……発動!」


 勇者の鎚の派生スキルが発動する。


・全修復(S)

→壊れた無生物を、完全に元通りにする。


 ハンマーこっちん。

 すると、ぱあ……! と車輪が輝き出す。


 次の瞬間。


「おお! すごい! 車輪が一瞬でなおってしまったぞ!」


 ハンマーこつんで、壊れた車輪全部が治ってしまった。

 しかし大げさな。


 ファンタジー世界なんだから、修復の魔法とか、あるだろうに(※あるけど古代魔法です)


「さ、いきましょーなのです! ホロにのってくださいなのです!」


 ラトラさんに言われて、僕らはホロに乗り込む。


「ふぃ~。ケースケのおかげで、あるいて帝国まで行かなくてすむ~。たすかったぁ」


「てー……こく?」


 チビチックさんが気になること言ったぞ。


「なんです、帝国って」

「これから行くとこだろ。マデューカス帝国。OTKおたく商会の拠点」


 なるほどぉ。

 んん?


「帝国? 僕ら勇者を呼び出したのって王国なのに、なんで帝国?」


 と気になるあったんだけど……。


 ぐんっ!


「きゃあああああ! なにこの馬車ぁ! 速いぃいいいいいいい!」


 馬車が、ものすんごい速さで走り出したのだ。

 ガララララララララララ!


「わわ! 異世界の馬車って、こんなに速いんだぁ……」

「速すぎよぉおおおおおおお! なんでこんな速いのよぉおおおおお!」


(※勇魔ケースケの魔力が付与され、馬もついでに強化されたから)

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