第2章
第1話 盗賊に襲われてる馬車を助ける
「森、ぬけましたねー」
昼下がり。
大魔王スペさん・大勇者ミサカさんが封印されていたダンジョンを抜けた僕らは、【マカの大森林】ってところを西にむかって進んだ。
歩くこと半日で、マカの大森林を抜けることができた次第。
「いや、さすがですね、大勇者様」
僕の後ろから、冒険者三人組がついてくる。
剣士のシーケンさん。このパーティのリーダーでもある。
「
うんうん、とシーケンさんがしたり顔でうなずいてる。
「僕が疲れないのは、聖武具、【勇者の靴】のおかげです」
聖武具。
勇者の固有ウェポンのこと。
通常、召喚勇者には、ここへ来ると鑑定スキル、アイテムボックス、そして固有武装の聖武具が与えられる。
僕の聖武具は……カバン。
しかし僕は、勇者の遺体を収納することで、他の勇者の聖武具も使えるのだ。
聖武具にはそれぞれ固有のスキル、派生スキルが存在する。
勇者の靴には、固有スキル【ウォーキング】が備わっている。
これを履いてれば、どれだけ歩いても疲れない、という代物。
しかも歩くだけで聖武具に経験値が貯まり、レベルが上がっていく……というぶっ壊れスキルだ。
「ので、聖武具が凄いのであって、僕が凄いわけじゃないです。あと……大勇者ってことは、内密に。しぃ~」
「あ、そうでし……そうだったね、ケースケさま……くん」
シーケンさんたちは、僕が、魔王を封印した伝説の大勇者、ミサカ・アイの生まれ変わりと思ってる。
実際にはまったくそんな事実はないのだけど。
いくら違うよって言っても、信じてもらえず、大勇者の転生した姿ってことになってる。はぁ~……困るなぁもぉ。
「つか、ケースケさんのおかげで、森をもの凄い速さで抜けられた。こっちのがすげえだろ」
「? どういうことですか、チビチックさん」
ハーフフットの男、チビチックさん。職業は
「オレらのいた、マカの大森林は、通称【迷いの森】」
「迷いの森……」
「立ち入ったが最後、迷って出られないっていう、ヤバい森なんよ」
「へえ……あれ? でも一切迷いませんでしたよね?」
「ああ。ケースケさんから借りた、ミニマップのおかげでな」
あ、そうだった。
勇者の短剣の派生スキル、【ミニマップ】。
周囲の詳細な地形が表示されるこのマップを、チビチックさんに貸してたんだった。
「こんな便利なマップが売ってたらなぁ~……はぁ」
この世界の地図って、全部紙に書かれてる地図なんだよね。
日本みたいに、カーナビやスマホナビみたいなものがないみたい。
だから、ナビを作れたらきっと大金持ちになれるだろうな、と思った。
「いやそれよりも……うぷ……」
パーティの魔法使いにして、エルフのエルシィさんが、吐きそうになりながら言う。
「ケースケ君……ちょっと、抑えて」
「? 抑えるって……なにをですか?」
「妖気」
「よーき……?」
なんだろそれ……?
「なんかケースケ君、ダンジョンの扉をあけてから、怪しい気配が漂ってるのよ」
怪しい、気配……。
すると鞄から、ずぼっ、と子犬が顔を出す。
『魔力のことじゃ』
「あ、なんだ魔力か」
魔法を使うタメの力、魔力。
生物ならば誰もが、その体に魔力を宿してるんだって。
で、僕の魔力が……妖気?
「どいうこと?」
『今、ケースケの中には、2種類の魔力が流れておるのじゃ』
「2種類の魔力……?」
『うむ、魔王と勇者、二つの魔力が……な。これは、通常ありえんのことなのじゃ』
ありえない?
てか、いつの間に魔王の魔力が……?
『ケースケの中には最初、勇者……つまり人間の魔力があった。そこへ、聖武具が進化した際に、魔王……つまり、魔物の魔力も加わったのじゃ』
「それって、別ものなの」
『うむ。そもそも、人間が魔物の魔力を持つこと自体おかしい。そして、人と魔、二つの魔力を宿した存在など、前代未聞。それゆえ……エルフ女は怪しい気配、と呼んだのじゃな』
なるほどねぇ~。
しかしなんで、僕は魔王の魔力が流れてるんだろう……?
僕の聖武具が、関係してるのかな?
「鑑定」
勇者のスキル、鑑定。
僕の目の前に、半透明の板が出現する。
・勇魔の鞄
→召喚勇者、七大魔王の力が付与された鞄。
固有スキル:
派生スキル:
魔物
魔法
いつの間にか、元々持っていた勇者の鞄から、勇魔の鞄に名前が変更されていた。
そして、持っている固有スキル、派生スキルにも変化があった。
「固有スキル……
『【七大魔王】が一人、【暴食のグーラ】のことじゃな』
「暴食の……グーラ……」
僕らはてくてく歩きながら、会話する。(スペさんは頭に乗ってる)。
「七大魔王……ねえ、ちょいちょい聞くけど、なぁにそれ?」
『かつて存在した、強大な力を持った、七体の化け物のことじゃ。暴食、色欲、嫉妬、憤怒、強欲、怠惰……そして、高慢』
なんだか、七つの大罪モチーフの、魔王ってことらしい。
同格に扱われてるってことは……
「スペさんの……友達?」
『う~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ん』
それは、【うん】なのか、【うーん】なのか。
でも渋い顔してるし、でもでも違うとはハッキリ言わないし。
微妙な関係なのかも。
『ともあれ、ケースケの鞄には、ケースケ本来の勇者の力に加えて、七大魔王が一人、【蠅王】こと【暴食のグーラ】の力が宿ってるのじゃ』
なるほど……勇者と魔王の力がこもった鞄で、勇魔の鞄ってことかぁ……。
ん……?
「なんで、暴食? スペさんって、高慢の魔王なんじゃないの?」
僕はスペさんと、主従契約(従魔契約)を結んでいる。
スペさんの、高慢の魔王の力が流れ込んでくる……なら、まあわからないでもない。
でも、実際にこの鞄には高慢ではなく、暴食……。蠅王さんの力が付与されている。
『それは……知らん』
「スペさんでも知らないことあるんだ」
『わしはずっと、あのダンジョンに閉じ込められ取ったからな。外の常識には、疎いのじゃ』
そういう意味では、スペさんも僕も、この世界について全くの無知って言ってもいい。
知らないことだらけ。でも、恐いとは思わない。
だって僕には、勇者さんたちからもらった聖武具、ミサカさんからもらった神眼、そして……。
『この先の旅、不安か?』
「ぜーんぜん。僕には、友達のスペさんがいるからねっ」
『クゥ~~~~~~~~~! 泣かせるでないぃ! うぉおんうぉおん!』
スペさん、頭の上でめっちゃ泣いてる。うれし泣きしてた。
と、そのときである。
『ぐしゅ……けーしゅけぇ~……魔力を感じ取ったのじゃぁ』
スペさんには、周囲の魔力を感じ取る、魔力感知という力がある。
『どうやらこの街道を進んだ先で、複数の人間が、逃げる馬車を追いかけてるのじゃ』
そんな詳細までわかるのか。
魔力感知って……凄い技術だなぁ。
こんな技術が当たり前に使われるんだもん、凄い世界だなぁ異世界(※←超高等テクなため、使える人間はいない)
で、だ。
馬車が何かに追われて逃げてる……か。
「あ、おいあれ、
チビチックさんが、目を光らせながら言う。
『
僕は、かけだしていた。
「「「はやっ!!!!!!!!!」」」
僕は黄昏の竜の皆さんを置き去りに、走り出してる。
『ちょ! ケースケどうしたんじゃ!?』
「だって、オタクさんのとこの商会の馬車が、襲われてるんでしょ?」
僕と一緒に召喚された勇者、【飯田オタク】さんがやってる商会なんだって。
オタクさんは僕に唯一優しくしてくれた。
そして、僕がハズレ聖武具を引いたとき、本気で心配してくれた。
さらに、オタクさんは私財をなげうって、僕を捜索してくれていた。そんな、優しいオタクさんのことが、僕は好きだ。
オタクさんの知り合いが困ってるんだ。助けないと、気が済まない!
ほどなくして、止まっている、馬車が見えてきた。
「その周りに、馬に乗ってる複数の男達……あれは、なんだろう?」
『なんじゃか、見てくれがよくないし、盗賊ではないかの?』
なるほど、粗末な鎧をきこんでるし、持ってる武器もバラバラ。
盗賊かも知れない(※←ゲータ・ニィガ王国騎士団です)。
盗賊(仮)は、
「許せない! 成敗!」
僕は助走をつけて、おもいっきり……ジャンプ!
凄い勢いで、盗賊へとツッコむ!
「大人しく金を置いていきなぁ!」
リーダー格っぽいデブのおっさんが、
「おっと、無駄な抵抗はやめておいたほうがいいぜ。おまえらも【王国の懐刀チャラオ】様の名前を知らないわけじゃ……ぶーーーーーーーーーーーー!」
デブ男の後頭部に、僕がドロップキック!
デブ男は、そのまま凄い勢いですっ飛んでいく!
「「「「チャラオ団長ぉおおおおおおおおおお!」」」」
ん……?
今あの人なんてよばれてた……?
チャラオ……? チャラ男……? 異世界にも、パリピ的なやつがいるのかな。
「て、てって、てめえ! 何しやがる……!」
僕が蹴っ飛ばしたデブ男が、起き上がる。
「このおれを誰だと思ってる!?」
「善良なる市民から、お金を奪おうとする、悪い盗賊にしか見えないですよ」
「盗賊だぁ……! 良いかよく聞け……おれは【王国の懐刀】にして【剣の鬼】! ちゃら……」
「長い」
僕は鞄から、勇者の短剣を取り出し、
「縮地」
聖武具のスキルを発動。
一瞬で、デブ男の懐まで潜り込む。
「な……!」
「せい」
「速……避……無理……死……ぶびゃぁあああああああああ!」
ばこーん!
僕の放った短剣の一撃が、デブ男の腹にジャストミート。
デブ男は野球ボールみたいに、カッ飛んでいった。
「「「チャラオ団長ぉおおおおおおおおおおおお!」」」
盗賊達は、飛んでった団長とやらを追いかけていった。
盗賊団の長だから、団長……か(※←王国騎士団団長です)。
盗賊ってネット小説だと、だいたいたいしたことない強さしか持ってない。
だからさっきのも、大して強いやつじゃないでしょ(※←王国最強)。
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