第3話 vs帝国軍、そして弓の勇者登場



 OTKおたく商会の馬車に乗って、僕らはオタクさんのいる、マデューカス帝国へと向かう。


 ラトラさんに、オタクさんのことをいろいろ聞きたかったんだけど……。


「あのぉ、オタクさんって今なにして……」

「ははははは、はな、話しかけてこないでほしいのですぅ! 馬を操るのにてーいっぱいなのでぇ!」


 とのこと。

 黄昏の竜の皆さんに聞きたかったんだけど……。


「うぇっぷ……酔った……」

「あたしも……」

「この馬車速すぎてやべえ……」


 と、みんなダウンしてる。


『だらしのない連中じゃの~』


 僕の膝の上で、子犬スペさんが優雅に丸くなっている。

 スペさんは平気のようだ。かくいう僕も、全然車酔いしていない。


 なんでだろ?(※大勇者および大魔王の器だから)


「ねえ、スペさん。これからいく、マデューカス帝国って、どんな国?」

『知らんなぁ』


「知らない? どうして」

『我が封印される前、そんな国はなかったからじゃな。ゲータ・ニィガは聞いたことあるがの』


 ゲータ・ニィガっていうのは、ワルージョがいる、僕ら勇者を呼び出した国のことだ。

 つまり、マデューカス帝国っていうとこは、ゲータ・ニィガよりあとに建国された国……。


 新しい国ってことなのかな?

 と思ってたそのときだ。

 

『む? 少し離れたところに……大量の人間どもがおるな。なにやら、妙な魔力の波動も感じるのじゃ』


 僕は窓から顔を出す。

 まだ全然見えてこない、ので。

 

「困ったときの、ミラーサイトぉ~」


 カバンから取り出したのは、勇者の鏡。

 これを先に飛ばすことで、離れたとこの映像を見ることができる。


「ちょっと偵察させてこよう」


 ミラーサイトを窓から飛ばす。

 しばらくすると、手元の鏡に、映像が映し出される。


「わ! すご……なんか軍服? 来た人たちが、いっぱい並んでるね」


 みんな色とりどりの軍服に身を包んでいる。

 そして、その手には……。


『なんじゃ、この妙な武器は? 筒かの?』

「銃だよ!」


『じゅー?』

「うん。銃だ」


 ファンタジー世界に、銃なんて似つかわしくない。

 彼らが持っているのも、どうにも、現代日本とか、海外で使われてるようなものに見える。


『あの武器からは魔力を感じないのじゃ。妙な武器じゃな』

「でも銃なんて携えて、こんな大量の軍人さんたち、一体なにしてるんだろう?」


『さぁのう。みな、なんだか緊張で顔がこわばっておるし、なにかと戦おうとしてるんじゃあないかの?』

「何かって……?」


『それはわからんのぅ。我らの他に、生物の気配はせぬが』


 ………………ん?


「え、それって僕らを迎え撃とうとしてる……ってこと?」


 HAHAHA、まさか。

 僕らは普通の庶民ですぞ?(※召喚勇者にして勇魔)



『どうする?』

「どうもしないよ、だって悪いことしてないし」


 ほどなくして、馬車が軍人さんたちの近くまでやってきた。


「止まれぇ……! そこの馬車、止まれぇ!」


 ラトラさんが馬車を止める。

 がっっっっっくん!


 僕らが窓から、ぽーん、と投げ出される。

 黄昏の竜の皆さんは、ぐしゃり、地面にたたきつけられる。


 一方、僕は空中でくるんと回転すると、鮮やかに着地。


「どんな魔法使ったの……?」

「え、別に魔法なんて使ってないですけど?」


「でも今の着地……どうやったの?」

「さぁ?」


(※↑、大勇者の記憶がよみがえり、体が受け身を取った)


「動くな! そこの!」


 わ、真っ白な制服を着た、綺麗なお姉さんが近づいてきたぞ。

 馬に乗っている。


 年齢は20くらいかな。

 きりっとした顔つきに、銀髪の、ちょっと強面お姉さんだ。


「そこのって……」

「しゃべるな! 貴様だ! 貴様!」


 なんでこのお姉さん、僕に対して、こんな切れてるの……?

 お姉さんは僕に銃口を向けながら言う。


「なんだ貴様は!」

「あ、はい。佐久平さくだいら 啓介。15歳。長野県松本市出身。春から高校に通うために、上京してきて、一人暮らしをしようとしてました」


「何を言ってる!? 怪しいやつめ!」


 あれぇ~?

 自己紹介しろっていうから、したのに。

 なんで怒られるんだろう……?


「そこの冒険者! それと……OTKおたく商会の侍女だな? こっちに早く来い! 今すぐ!」


 ん?

 ラトラさんと、黄昏の竜の皆さんには、敵意をむけてないぞ。


「あの、お姉さん」

「喋るなといってるだろうが! 撃つぞ!」


 なんか、ちょっとムカッとした。

 なんかさっきから命令ばっかり。僕の話を聞ちゃくれない。


「あのぉ、僕早くマデューカス帝国に行きたいんですけど。どうして、銃なんて向けられてるんですか?」

「貴様が、怪しげな魔力を放ってるからだ!」


 怪しげな魔力……?

 あ。

 しまった。


 そういや、来る前にスペさん行っていたっけ。

 僕には勇者と魔王の魔力が、体の中に入ってるって。


 そのせいで、なんか妙な気配がでてるって。


「あのぉ! 大丈夫です! この子は怪しい子じゃありません!」


 おお、リーダーのシーケンさんが、お姉さんのもとへ駆け寄っていく。

 ちゃんと話をしてくれるようだ。さすがリーダー。


「怪しい子じゃないのであれば、なんなのだ、アレは」

「この子はチェンジリングで、七獄セブンス・フォールに廃棄されていた子なんです」


 チェンジリング……なんか、前に言っていたな。

 妖精がときたま、いたずらで人をさらって、どこかに放置するみたいな。


「この子らの身柄は、Sランク冒険者パーティ、黄昏の竜が保証します」

「シーケンさん……」


 ちゃんと、僕を守ってくれるみたいだ。

 ありがとう!


「…………貴様らは、アレを見てなんとも思わぬのか?」


 スッ……とお姉さんが懐から、なんか取り出す。


片眼鏡モノクルかの?』


 お姉さんが片眼鏡モノクルをかけて、僕を見る。


「攻撃力……500万!? 魔法力……500万!? 合計戦闘力……10000万!?」


 何言ってるんだろうあれ……?


「まて、ばかな、まだ数値があがる……うぁああ……!」


 ぼーん!

 お姉さんの片眼鏡モノクルが、ぶっ壊れた。


「やはり化け物! それも、魔神級の化け物だ! 総員、戦闘準備!」


 うぇええ! 

 なんでそうなるのぉ!


 せっかく黄昏の竜さんが、ことを穏便にすましてくれると思ったのにぃ!


「かまえ……撃てぇ……!」


 軍人さん達が、僕に銃弾を放つ。


 ドバババババババババババン!


 あわわ、弾が凄い勢いで……。

 凄い……。


 あれ?

 なんか、ゆっくり……?


 ええー……うそぉ~……。

 まさか……。


「異世界の銃って、こんな遅いのぉ?」


 なんか蚊が止まるくらい、遅いんですけど。

 大丈夫なの、銃で、こんな遅いんじゃ、誰でも回避できちゃうよ(※←大勇者の超動体視力のおかげで、ゆっくりに見えてるだけ)


 ひょいひょい、ひょいっと。


「ふぅ……」

「ば、ば、馬鹿な……! あの銃弾の雨を……すべて、躱してみせた……だと……!?」


 何驚いてるんだろう、お姉さん。


「あんな遅い銃弾を、避けるのなんて誰にでもできますよね?」

「できるわけないだろ! くそ、やはり化け物! 総員、また撃て……」


 あーもー、めんどくさいなあ。


蠅王宝箱ベルゼビュート!」 


 僕はカバンの蓋を開ける。 

 そこから、黒い触手が出現。


「な、なんだあの触手は!?」

「こっちに伸びてくるぞ!」


 無数の触手が彼女らの持つ銃に絡みつき、そして、ぐんっ、とこちらに引っ張る。


 触手は銃を持った状態で、カバンの中に入っていった。

 誰も傷つけず、武装解除させた。


「これで話し聞いてくれますよね?」


 え?

 軍人さんたち……ガン無視?

 みんななんか黙って……もぉ。


「もうおしまいだ……」「あの化け物に国をコワされるんだ……」


 しかし……。


「いや、まだだ! 我らには、【帝国のゆう】がいる!」


 お姉さんが、声を張り上げる。

 帝国の……ゆう


弓聖きゅうせい殿のことか!」

「そうか、あの御仁ならば!」


 なんか凄いひとがいるっぽい。


「あのお方がくるまで、私が時間を稼ぐ! 皆は下がっておれ!」


 えー、まだ何かするの?

 お姉さんは懐から、小さな卵を取り出す。


 卵……?

 いや、違う。あれは……。


「手榴弾だ!」


 そんなものまで!

 お姉さんはピンを抜いて、放り投げる。


「蠅王……」


 僕が蠅王宝箱ベルゼビュートで、手榴弾を収納しようとした、そのときだ。


 ドガァアアアアアアアアアアン!


 空中に放り出された手榴弾が、突如として、爆発したのだ!


 なんか、随分早く爆発するなぁ。


「待つでござる!」


 ふと、空を見上げる。

 そこには、大きな鳥がいた。


岩鳥ロック・バードじゃ。なかなかに強力な魔物……しかし、敵意は感じぬ』


 バッ……! 

 と岩鳥ロック・バードから、誰かが飛び降りてきた。


「待って欲しいでござる、【ディートリヒ】様!」


 その人が、お姉さんに頭を下げる。

 ディートリヒっていうのが、このお姉さんの名前っぽい。


 で、突然現れたその人は……。


「だ、誰……?」


 なんか、背の高い、イケメンさんだった。

 真っ白な長い髪、すらりとした身長。


 マントを羽織り、そしてその手には……弓。


 イケメン弓使いってところか。


「お、オタク殿」


 ……………………はい?

 お姉さん……ディートリヒさん、今……なんて言った……?


 この、イケメン弓使いに向かって、オタク殿って……。


「彼は、拙者の大事な客人でござる! どうか、軍を引いてくださいませ!」

「し、しかし……化け物みたいな妖気を放ってるのだが……」


「彼は拙者と同じ境遇なのです」

「し、しかし攻撃されて……」


「彼が直接危害を加えるようなことを、ディートリヒ様たちにしましたか?」

「あ…………」


「彼は強いでござる。侵略者なのでしたら、この場にいる全員の命なんて、モノの数秒で奪える。なのに、そうしなかった。それは、事実でござるな?」


 ディートリヒお姉さんは、弓使いさんの説得に、折れたようだ。


「ふう~……」

「あ、あのぉ~……」


 イケメンさんに、僕は助けてもらったらしい。

 お礼を言わないと……でも……。


「ありがとう、ございます。その……オタク……さん? なの……?」


 あまりにイケメン……あまりに、別人になりすぎてて、僕は……困惑する。

 ほんとにオタクさんなのか、それを語る偽物なんじゃ……。


「啓介殿ぉぉおおおお!」


 オタクさんは僕に抱きついてきた。


「良かった! 本当に、生きてたのでござるなぁ! あえてうれしいですぞぉおお! うぉおん!」


 ……ああ、オタクさんだ。

 僕は直ぐわかった。


 僕の無事を聞いて泣いてる……優しい彼。

 その姿は、勇者召喚のときに見た、オタクさん……そのものだったから。


「うぐ……オタクさん……」


 やっと、会えた……。

 う、ううう!


「おたくさーん!」

「けーすけどのぉ!」

「「うぉおおおん! 無事で良かったぁ!」」


 こうして、僕は会いたかった人に、飯田オタクさんに、ようやく会えたのだった。

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