第4話 オタクさんと再会、皇帝と謁見
弓の勇者であるオタクさんと、ついに再会を果たした!
しかもなぜかイケメンになってた!(※←色々苦労した結果痩せた)
でだ。
僕はオタクさんと一緒に、馬車に乗っていた。
ラトラさんの馬車とはまた別の馬車だ。
「わぁ! 豪華な馬車ですねえ!」
ふわふわの絨毯。
揺れの少ない車体。
なんとも高級感あふれる馬車。
「……ギルマス専用馬車でございます」
すちゃ、と【その人】が眼鏡をかけ直す。
正面に座るオタクさん……の隣に、美女が座っている。
眼鏡をかけた、スーツ姿の女性だ。
長い緑色の髪の毛をポニテにしてる。
あとなんか、耳尖ってる……?
「そうなんですね。ええと……秘書さん……」
「【シルフィーナ】、と申します」
するとオタクさんが朗らかに笑いながら言う。
「シルフィーナさんは拙者の右腕でござる。公私ともに、長く支えてもらってるのでござるよぉ~」
「こー…………し?」
するとシルフィーナさんが、ちょっと照れながら言う。
「恐れ多くも、私は弓の勇者オタク・イーダ様の、伴侶にしていただいております」
「はんりょ……って、伴侶!?」
そ、そ、そんな……!
「オタクさん……結婚してるんですかぁ!?」
「なはは! その通りでござる! ちなみに子供もいるでござるよ」
「うぇえええ!」
なんてこった!
オタクさん結婚して子供まで………………って、あれ?
やっぱり……変だ!
「ねえ……オタクさん。ずっとね、気になってることがあるんだ」
「ふむ、どうぞ遠慮なく聞いてくだされ!」
「じゃあ……ここに来て、何年経過してますか?」
「やはりその質問でござるか……」
やはり、ってことは、オタクさんも僕と同じ疑問を抱いているのだろう。
「拙者がこの世界に召喚され、12年が経過してるでござるよ」
「じゅ、12年……!?」
「うむ。拙者はこっちに来たとき19であった。しかし、今は31でござる」
オタクさん曰く、こっちの世界の1年も、365日くらい(ぴったりではないんだって)。
でも、ほぼ向こうとこっちの1年は同じだ。
「僕の体感だと、ひとつきくらいしか経過してないです」
「なんと! 一ヶ月と!?」
オタクさんはこっち来て12年。
帝国で地位、そして家庭まで築いてる。
だから、12年の歳月が経過してるのは、事実なんだろう。
「一方で啓介殿は拙者が出会ったときの、幼い姿のままでござる……。これは、どういうことでござろうか……」
『大勇者を封じていた、あの部屋の影響じゃろうな』
カバンの中で黙っていたスペさんが、ひょこっと顔を出す。
ころん、と転がって、膝の上に乗っかった。
「ややや! その神々しい毛皮……ただものではござらんな! 鑑定! ……って、ええええ! ふぇ、フェンリルぅう!?」
オタクさん、仰天していた。
あれ?
「オタクさん、フェンリル見たことないの?」
12年も異世界にいるなら、見たことあるだろうに。
「拙者実物を見るのは初めてみるでござるよ!」
オタクさんはすっと立ち上がり、僕らの前でかがむ。
スペさんに目線を合わせて、言う。
「初めまして。拙者、啓介殿と同様、異世界から召喚された勇者、弓の勇者、飯田オタクと申します」
『うむ。フェンリルのスペルヴィア。ケースケの友であり、従魔をしておる』
オタクさんが目を剥く。
「スペルヴィア……まさか! 高慢の魔王殿でござるか!?」
あ、さすがにその名前は知ってるんだ。
『まぁの』
「はぁ~! なるほど、どおりで凄いお力をお持ちで! しかし、そのような凄い存在を従魔にするだなんて! 啓介殿……すごいでござるなぁ!」
オタクさんに凄いって言われると、うれしいな。
「で、話は戻りますが……どういうことでござるか?」
『弓の勇者の話を聞いて確信を得た。この子と我は、大勇者の封じられている部屋に入ったのじゃ。あそこは、時空がゆがんでおったのじゃ』
「時空がゆがむ……」
僕は簡単に、王城から廃棄されてから、地上に出るでるまでの、一通りの旅を、凄く簡単に話した。
『その部屋と、外の世界とは、時間の流れが異なっておったのじゃ』
なるほど。
僕らがいたあの部屋は、時の流れが遅かったわけか。
「大変でござったなぁ……辛く、苦しい旅でござったであろう……ぐすん……」
僕の旅を聞いて、オタクさんが涙ぐんでいる。
オタクさん、僕が苦労してここまで来たって思ってるみたい。
僕に……同情してくれてる。自分だって多分、苦労してきただろうに。
「しかし! 辛いことが多かったのだから、これからは、いっぱい良いことが起きますぞ! きっと!」
僕のために泣いてくれたり、励ましてくれたりする。
オタクさんのことが、やっぱり好きだなって思った。
ラトラさんやシルフィーナさんが、この人を好いてる理由も、理解できる。
「今度はオタクさんの12年の出来事を、聞いてみたいな。この12年で何があったの? てゆーか、なんで帝国にいるの?」
「説明はあとできちんとするでござる。が、その前に、会って欲しい御仁がおります」
「会って欲しい……人?」
がくん、と馬車が止まる。
「オタク様、ケースケ様。馬車が、目的地についたようです」
「おお、では、おりましょうぞ」
目的地……そういえば、この馬車どこに向かってたんだろう。
スペさんを頭に乗っけて、僕はオタクさんと一緒に外に出る……。
「ふぉおおおお! お城だぁ……!」
そこには黒い、無骨なフォルムのお城があった!
わ、わ、すご……すごぉ!
『城くらいで、何をはしゃいでおるんじゃい』
スペさんが頭の上に乗っかった状態で、あきれたようにため息をつく。
「だってお城だよ、ファンタジーの! すげえ~……」
「ぬははは! わかりますぞぉ!」
「で、お城があるけど、ここってどこ?」
「ここはマデューカス帝国の帝都、【カーター】でござる」
どうやら僕らは、今、帝都にいるらしい。
「なんで?」
「皇帝陛下に呼び出されているのでござるよ。ささ、参りましょう」
わ、すご……皇帝にあえるんだ! わ~。
『ぬぅ……なぜケースケが皇帝なんぞにあわねばならない?』
「なはは……まあご心配なさらず。拙者がついてますゆえ。大丈夫でござるよ。いざというときは、必ず守りますから」
ちょっとはぐらかされた?
それに……守る?
首をかしげながらも、僕らは城の中へと進んでいく。
……お城の中には、軍服を着た軍人さん達がいっぱいいた。
「王国と違うんだね。あっちは騎士いたよね?」
「ええ。帝国にはは貴族や騎士といった考えがございません。民は軍人が守るもの、という考えなのです」
ほどなくして。
僕らはお城の一番高いとこまでやってきた。
扉の前にいた軍人さんに、オタクさんが話しかける。
すると軍人さんたちが、敬礼のポーズをオタクさんに取る。
ドアを開けてもらい、僕らは中に入る……。
「来たか、弓聖よ」
なんか、お城の中ってかんじしない。
室内結構狭いし。
本棚とかあるし。
どっちかっていうと、書斎? みたいな感じかな。
部屋の奥には、髭を生やした、強面のおじさんが座っていた。
銀髪なんだけど、おじいちゃんって感じはしない。
なんか……恐い。
「陛下、おひさしぶりでござる。こちらは、先ほど通信にてお話ししたとおり、拙者と同郷の、召喚勇者でござる」
「ほぅ、おぬしが」
おじさんが立ち上がり、僕の前までやってくる。
皇帝……っていうわりに、来てる服はだいぶ地味だ。
質素な、でも高そうなマントを着けている。
近くで見ると、より一層、大きく感じた。
スッ……と皇帝のおじさんは僕の前で……。
膝を突いて、頭を下げた。
「勇者よ。このたびは、娘が無礼を働き、大変申し訳なかった」
「…………はひ?」
な、なんか頭を下げてきたぞっ。
え、え、なんで……?
「む、娘……?」
「我が不承の娘、ディートリヒのことだ」
あ、僕に攻撃命令を出していた、お姉さんのことだ。
「勇者とは知らず、我が娘はそなたに危害を加えようとした。とんだ、ご無礼をおかけして、親として大変申し訳ない」
このオジさん、あのお姉さんの父親なんだ。
お姉さんが僕に攻撃してきたことを、謝ってるんだ、親として。
いいお父さんだぁ。
「大丈夫です、気にしてないです。ケガもしてないですし」
「しかし……そなたは世界をお救いになられるため、異界より呼び出された救世主。そんな凄いお方を、我がバカ娘は殺そうとしてしまった。その罪は大きい」
するとオジさんは立ち上がり、懐から、巻物を取り出す。
そして、僕に手渡してきた。
中を改めるようにとうながされたので、巻物を開く。
「よ、読めない……」
「どれ拙者が代わりに読みますぞ」
オタクさんほんと気の使えるナイスガイですね。
ふむふむ、とオタクさんが文章を読んで……。
「なんと! ディートリヒ様を、奴隷に!? そして、ケースケ殿の所有物にすると!?」
な、なんだってぇ!?
前言撤回!
酷いお父さんだっ!
「救世主を殺そうとしたのだ。それくらいの罰は受けて当然。そうだろう、我が娘ディートリヒよ」
がちゃ、と扉が開いて、お姉さんが入ってくる。
彼女は……がっくりとうなだれていた。
じょ、冗談じゃなくて、ほんとに奴隷にされちゃうの……?
「勇者よ、どうぞ、この娘をあなた様の奴隷にしてください。そして煮るなり焼くなり、好きになされよ」
いや煮るなり焼くなりって……。
オタクさんは、なんか黙ってるしっ。
お姉さんと、目が合う。
本当に申し訳なさそうにしてた。……うん。
「じゃあ……いらない!」
「いらない……とは?」
「奴隷なんて僕、いらないよ! だいいち、カバンに入れられないしねっ」
「ふっ。なるほど、なんとも面白い御仁だ」
皇帝のおじさんがニヤリと笑う。
え? え? なに……?
「申し訳ない、勇者よ。我々はそなたを疑っていた」
「う、疑う……?」
「うむ。帝国を滅ぼすため、王国から送り込まれた、人型の兵器とな」
「ええー! 違いますよぉ! なんでそうなの!?」
いやいや、とスペさんが首を振る。
『ケースケよ、さっき言うたではないか。凄い魔力がでてるって。それに、軍隊を一瞬で無力化した。脅威と思われてもしかたあるまいて』
あ、そっかぁ~。
「カバンの勇者を試させてもらった。すまないな」
まあ、悪い人じゃないってわかったんだったらいいや。
「ディートリヒ。勇者はおまえを許すそうだ」
「……ぐす、ありがとう……ございます……ぐす……」
ディートリヒさん、こっちが気の毒になるくらい、頭下げてた。
え……もしかして……。
「あのままカバンの勇者が、娘を欲しいと言ってきたら、あの子を奴隷に落とし、そなたと一緒に国外追放していたところだ」
「ええええええ! ひどっ!」
「救世主となり得る人物を、殺そうとしたのだ。罪には罰を。たとえ、我が娘であろうと、公平に、平等に与える」
ううん……悪い人じゃないけど、恐い人……。
あんまり好きじゃないなぁ僕は。
「…………」
ディートリヒさんが、こっちをじーっと見つめてる。
「どうしたの?」
「あ、い、いや……何でも無い……ほんとに、感謝してます……勇者、様……」
なんか、顔赤くしながら、ディートリヒさんが僕から目をそらす。
どうしたんだろ、風邪かな?
「何はともあれ、ようこそ、カバンの勇者よ。我が、マデューカス帝国へ」
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