第5話 ハンバーガーを取り寄せ絶賛される



 皇帝と話したあと、僕は、オタクさんのお家へとお邪魔することになった。


 オタクさんの家は、それはもう、大きなお屋敷だった。

 この立派な屋敷を建てられるくらい、今のオタクさんは金も名誉も持ってる人なんだろう。凄い人な!


 僕はオタクさんたちと夕飯を食べることになった。(黄昏の竜の皆さんは遠慮してた。僕らの再会を邪魔したくないそうだ)


「すごい……! 豪華な食事ですね……!」


 長いテーブルの上には、たっくさんの料理が並んでいる。

 地球のモノに近い料理が結構あった。


「遠慮無く食べて欲しいでござるよ!」


 せっかくのご厚意だもん、残したらいけないよねっ。

 シチューを、ぱくり。ごくり。


 おお! おいしぃ!

 お肉とろとろ~。


『ケースケの作る料理や、取り寄せるチキューの料理の方が、おいしいぞ!』


 そうかなぁ。

 僕はオタクさんの用意してくれた、異世界料理も結構美味しいと思うけど。(ちょっと味が薄いって思うけども)


「! 取り寄せる……どういうことでござる?」


 上座に座るオタクさん(と、背後にシルフィーナさん)の眼がきらんと輝く。

 ううん、他の人にはともかく、オタクさんにならいいよね。


 僕は簡単に、勇者の鞄の能力について説明する。

 

「…………!」がたんっ!

「シルフィーナさん? どうしたの? なんか、急に倒れたけど……?」


「だ、大丈夫です……。しかし、地球の商品を、取り寄せ放題とは……破格、ですね」

「便利ではあるかな~って思ってます」

「便利……たったそれだけ……」


 ぶつぶつ、とシルフィーナさんがつぶやく。

 うぉっほん、とオタクさんが咳払いをする。


「啓介殿、よろしければ、スキルを披露してもらえないでござるか?」

「OK~」


 いろいろお世話になってるし、料理も作ってもらったお礼に、僕が料理を取り寄せてあげよう……!


 僕はカバンをあけて、手を突っ込む。

 オタクさんの……好きそうなもの!

 取り寄せ!


「はいこれ、じゃーん!」

「!? そ、それは……!!!!!」


 オタクさんが立ち上がり、こちらに駆け寄ってくる。

 僕の手には、1つの、紙袋が握られている。


『うぉお! な、なんじゃこの、上手そうな匂いはぁああああああああ!』


 スペさんがぴょんぴょん、とテーブルの上でジャンプし、僕の取り出したものを取ろうとする。


「本日取り寄せたのは、こちら……じゃーん! バーガー開田かいだの【ハンバーガーとポテトのセット~】」


 バーガー開田かいだとは、日本で一番有名な、ハンバーガーチェーン店のことだ。

【K】のマークが特徴的。


「ば、バーガー……バーガーぁああああああ! ポテトぉおおおおおおおおおおおおおお!」


 オタクさん、絶叫。


「食べてよいでござるかぁ!?」

「え、ええ……どうぞ」


 オタクさんは僕からバーガーの紙袋を受け取る。

 そして、ハンバーガーを取り出して……。


 がぶりっ。


「…………」


 オタクさん……呆然とした表情のまま、滝のような涙を流していた。

 そ、そんなに泣くほどおいしいかなぁ……。


「あ、あの……オタクさん? 大丈夫ですか?」

「うぐ……ぐすう……日本の……バーガー……もう、一生……食べれないと思ってた……でござる」


 ああ、だから泣いてるのか……。


「拙者……バーガー開田のバーガー、ほんと大好きで……このジャンクな味わいが、たまらなく好きで……。でも……異世界の技術力、食材では……完全にこのジャンクさを再現したバーガーはできなくて……」


 だから、また食べられて、嬉しいんだ。

 ふふ、良かった。取り寄せたかいがあった。


 よーし!

 もっと喜ばせちゃうぞっ。


「いっぱい食べていいよっ」


 僕は、取り寄せカバンをつかって、ありったけのバーガーとかポテトとかを、取り寄せる!


「ありがとう、啓介殿! あ、あのぉ……できれば、屋敷の皆に分けてもよろしいでござるか?」


「え? うん……いいけど」


「ありがとう! シルフィーナ! 皆を呼んできておくれでござるぅ!」


 ぺこっ、とシルフィーナさんが頭を下げると、部屋から出て行った。


「オタクさんだけで、食べても良いのに……」

「美味しいものは、皆で食べた方が美味しいでござるよ!」


 まあ、それもそうか。

 ほどなくして、メイドさんとか、使用人さんが、いっぱい集まってきた。


 みんな、獣人とか、ハーフフットか、亜人みたいな。そういう人間じゃない種族の人たちが多かった。


「こんな美味しいご飯はじめてぇ!」

「何このポテト! 油……じゅわってうまい!」

「塩……こんなにきいたポテト初めてぇええええ!」


 異世界の人たちは、特に驚いて、感動の声を上げていた。


「皆、啓介殿のご好意で、このような美味しい料理を分けてもらえたでござる。感謝いたしましょう」


「「「ありがとうございます、けーすけ様!!!!!!」」」


 まあ、オタクさんも喜んでくれ照るみたいだし、皆に分けて良かったな。


「…………」


 シルフィーナさんは険しい顔をして、照り焼き開田かいだバーガーを食べている。


「どうしたの? まずいです?」

「………………いえ。とても、おいしいです。とても……これは……世界を覆すほどな、おいしさです」


 大げさだなぁ~。


「ところで、けーすけ様。これからのご予定を伺ってもよろしいでしょうか?」


 シルフィーナさんが眼鏡をかけ直して言う。


「予定? うーん……特には……」

「でしたら、当家にしばらく滞在するのはどうでしょうか?」


 オタクさんちに泊まるってこと?

 わ、わー! いいかもぉ~!


 オタクさんには、いーっぱいおしゃべりしたいことあったし!


「幸い、当家には空いてるお部屋がたくさんあります。好きなだけ、屋敷に留まってくださっても……」


 そのときだ。


「シルフィーナさん」


 オタクさんが、微笑みながら……しかし、きっぱり言う。


「啓介殿には、啓介殿のやるべきこと、したいことがありましょう。無理にここに、留めるようなマネは、してはいけないでござるよ」


「! ……大変、差し出がましいことを」


 ぺこっ、とシルフィーナさんが頭を下げる。

 え、ええ~? なんで謝るんだろう。


 別に気にしてないのに。


「啓介殿、先ほどスペルヴィア殿にうかがったのですが、今旅の途中なのですな?」

「あ、うん。大勇者ミサカさんの、呪いを解くために、旅を続けてるんだ」


 僕は簡単に、ミサカさんのことを説明する。

 ダンジョンで僕らと同じ勇者、大勇者ミサカ・アイさんに会ったこと。


 呪具に封印されていること。

 封印を解くため、聖武具のレベルを上げていること。


「僕の聖武具……モノを収納するだけでレベル上がるから便利だったんだけど、最近ちょっとレベル上がらなくて……」


 最初は順調にレベル上がっていったのだけども、最近停滞気味なのだ。


『仕方あるまい。レベルが上がれば上がるほど、レベルアップに必要な条件は高くなるのじゃ』


 なるほど、とオタクさんが得心いったようにうなずく。


「ようは、今までよりたくさん経験値をためねば、レベルが上がらなくなってるってことでござるな」


「うん……。でもたくさんの経験値って、どうやって貯めればいいかな?」


「ふぅむ……ゲームだと、強い敵を倒せば、たくさん経験値が入りますな」


 なるほど……!

 そういえば、魔族の……えと、なんだっけ。


 頭痛さん! そうだ、頭痛が痛いさん(※煉獄のインフェルノ)を収納したとき、結構、レベル上がった。


「強そうなのがいそうなとこ、知ってる?」


「知ってますぞぉ! 【妖精郷アルフヘイム】なんてどうでしょう!」

妖精郷アルフヘイム……?」


 聞いたことないや。


「帝都から北側へったところにある、大樹の森のことでござる。そこには、魔蟲まちゅうと呼ばれる、強い魔物がたくさんいるでござる」


 おお! いいね!

 強い魔物!


 正直、七獄セブンス・フォールってところ、そんな強い魔物いなかったからなぁ(※←全員Sランク以上の化け物)


 強い敵、大歓迎。

 だってそいつらたくさん収納すればするほど、ミサカさんは早く自由になれるんだもん!


妖精郷アルフヘイムまでは、使いのものを着けましょう」

「わぁ! ありがとう!」


 こうして、僕は次なる目的地として、妖精郷アルフヘイムへと行くことにしたのだった。



~~~~~~

《シルフィーナ視点》


 私の名前はシルフィーナ・イイダ。

 ハーフエルフであり、現OTKおたく商会ギルマス、オタク・イイダ様の妻である。


 オタク様のご友人、ケースケ様が当家に泊まることになった。

 その日の夜。


 私は、オタク様の執務室に来ていた。


 オタク様は夜も遅いというのに、書類仕事をなさっていた。

 私はお茶を、彼の前に出してあげる。


「ありがとう、シルフィーナさん」


 ……私は、凄く、凄く不服だった。

 その気配を、彼は気取ったのか、こちらを見上げて尋ねる。


「なにか、いいたいのでござるか?」


 ……こんなことを言うのは、不敬だとは承知してる。

 でも……どうしても、言いたかった。


「なぜ、ケースケ様を、【囲い】にならなかったのですか?」


 あの少年の持つ聖武具【勇者の鞄】(今は違うモノに進化したらしいが)は、破格の性能をもっている。


「あのカバンがあれば、我が商会は、さらなる財を築けるではありませんか」


 異世界の商品は、劇薬だ。

 あの世界の品物を、こちらに売れば、目もくらむような大金が手に入る。


 現にオタク様は、地球の知識を使い、商品(銃など)を考案し、商会を大きくした。


「あの少年は、あなた様にとてもなついておられました。あのまま、商会に取り込めば、きっと……」

「それはできませぬなぁ」


 ずずう、とオタク様がお茶をすする。

 ……私は、知ってる。


 彼の苦労を。


「……王国を追放されてまで、あなたはあの少年を探し続きてました。その動機について、ずっと疑問でした」


 私は、知ってる。

 オタク様は、12年前、異世界から召喚された。


 次の日、カバンの勇者が死んだ知らせを彼が聞く。


「女王や周りが、もうカバンの勇者は死んだといっても、あなた様は生きてると主張した。女王に逆らった罪で、王国を追放され……それ以降、お尋ね者。実力主義な帝国から1歩も出れなくなってしまっても、必死になって彼を探そうとした……」


 オタク様の歩みを知ってる。

 だからこそ、私はケースケ様と出会い、そして彼のもつ凄まじい聖武具を見て……納得したのだ。


「あなた様が、彼を探すのに情熱を捧げたのは! あのカバン……そして、あの子が取り寄せる地球の商品! それを手に入れるためだったのだと、今日ようやく長年の疑問が解けたと思ったのに!」


 でも……。


「シルフィーナさん。それは、違うでござるよ」


 ……彼は優しく微笑みながら、首を振るのだ。


「拙者はただ、彼を、ほっとけなかっただけでござる。というか、そもそも拙者、取り寄せカバンなんてスキル持ってるの知らなかったでござるし」


「なぜ……そこまでするのですか!」

「啓介殿は……昔の自分に似てるのでござるよ」


 ……何を言ってるのかわからない。でも……大切なことを言ってることだけはわかった。


「拙者昔は、デブで、眼鏡で、オタクで……みんなから嫌われてたのでござる」


 ……とても、信じられなかった。


「いじめられ、ハブにされるつらさは……誰よりもわかっていたでござる。あの子が、カバンの聖武具を牽いてしまったとき……周りは、拙者の知ってる、いじめっ子達と同じ眼をしていたでござる」


「……だから、自分と同じ境遇の彼に、慈悲をかけた……?」


「慈悲なんてたいそうなものじゃないでござるよ。ただ……啓介殿のことを、他人事で済ませられなかったでござる」


 つまり、彼の持つ能力ガ欲しくて、助けたのではなく、単純に居なくなった彼を心配してた……。


 だから、商会に取り込もうとしなかったのだ。


「直ぐに妖精郷アルフヘイムへ旅立つよう促したのは?」

「それは、シルフィーナさんなら、わかるでござろう?」


「聖武具がもたらす莫大な財を狙って、権力者たちが、ケースケ様を取り込もうとしてしまうから」

「然り。長く留まるより、あちこち旅していた方が、悪い大人に捕まりにくくなるでござろう?」


 ……ああ、もう。

 この人は。


 なんて……慈悲深いんだろうか。

 この世界で忌み嫌われる存在……混血種たちを救うだけじゃあきたらず、生涯の、伴侶にまでしてくれる人。


 十分優しい人だって、わかっていたのに……。


「ごめんなさい。私が、浅慮でした」

「いやいや! シルフィーナさんも、我が商会のためを思って、行動してくださったのでござろう? ありがとう。しっかりした人が妻でよかったぁ!」


 ……私は生涯、この優しい、弓の勇者様の側で、彼を支えよう。

 改めて、そう思ったのだった。

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