第6話 オタクさんから超レアアイテムもらって旅立つ



 翌日、オタクさんのお屋敷の前にて。


妖精郷アルフヘイムまでは、この馬車で、お送りいたしますぞ」


「ありがとぉ!」


 ラトラさんが乗っていた馬車(僕が強化したやつ)で、送ってくれることになった。


「それと……啓介殿。これを差し上げるでござるよ」


 オタクさんが、シルフィーナさんに目配せする。

 彼女は手に持っていた箱を、僕に渡してきた。


 パカッ。


「わぁ……! なにこれ……指輪……?」


 ちっちゃい指輪が入っていた。

 紫色の宝石がはまっている。


「魔力制御リングでござるよ」

「まりょくせーぎょ……? なんで……?」


「啓介殿の魔力はその、独特でござるから。初見の人は怯えてしまうでござる」


 あ、そう言えば、エルシィさんやディートリヒさん、僕が異様な妖気を放ってるって言っていたっけ。


『助かるのじゃ、【オタク】よ。ケースケは魔力制御の才能がこれっぽちもないからの』


 あれま? 制御の才能ないんだぁ……残念……。ちぇ。


「スペさん、今オタクさんのこと、オタクって……」


 意外や意外。

 スペさんって僕以外の人に対して、結構冷たい。


 あと人の名前を覚えようとしないのに。

 今ハッキリ、オタクさんって言った。


『フェンリルは、人より耳が良いのだよ』

「! そうでござったか……たはは、気恥ずかしい……」


『おぬしを、ケースケの友として、認めてやるぞ、弓の勇者オタクよ』

「それは光栄でござるな」


 すっ、とスペさんが尻尾をオタクさんにむける。

 オタクさんはきゅっ、と尻尾を握った。

 その手には、スペさんの毛皮が少しだけ、乗っていた。


『それは我の魔力を編んで作ったミサンガじゃ。おぬしの役に立つであろう』

「! よろしいのですか?」


『うむ。これからも、ケースケの、良き友であっておくれ』

「言われずともでござるよ」


 ううん、二人の会話についてけないぞ?

 二人だけ仲良くなって、ちょっとジェラシー。


「で、話を戻すとでござるが、その魔力制御リングは読んで字のごとく、身に付けることで体外に出る魔力を制御できるのでござるよ」


「はえー! すぐれものだっ。ありがとっ」


 さっそくはめてみーよ。

 えい。


 パキィイイイイイイイイイイイイイン!


「んなっ!? ま、魔力制御リングが……壊れたですとぉ!?」


 あ、あわあわ……せ、せっかくオタクさんからもらったプレゼントがぁ!


「ごめんなさいぃ!」


 僕は勢いよく頭を下げる。


「あ、いや。そんな悲しい顔をしないでほしいでござるよ。怒ってないでござる」

「ほんとぉ? わーい!」


「では……ふむ。そうでござるな。じゃあ、これをあげるでござるよ」


 オタクさんはアイテムボックスを開いて、何かを取り出す。

 それは……青みがかった銀色の、腕輪だった。


『! その魔力……もしや……』

「スペルヴィア殿は、気づいたでござるか」


 スペさんが腕輪をにらみつけてる。

 え、なんだ?


『ケースケよ。これは……【蠅王の腕輪】じゃ』

「はえおう……。なんか聞いたことあるような……あ、蠅王宝箱ベルゼビュートの!」


『うむ。七大魔王が一人、暴食のグーラの魔力が付与された、アイテムじゃなこれは』


 これに七大魔王の力が付与されてるって……。

 ええっ?


「こ、これ……なんか、凄いアイテムじゃない?」

「なはは! 【たいしたこと】ないアイテムでござるよぅ」


「そっかぁ~」


 スペさんが頭の上でずっこける。

 え? なに……?


『……それは遺物アーティファクト、と呼ばれるアイテムじゃ』

「あーてぃ……?」


『この世で二つと無い、オンリーワンかつ、作成方法が不明の、超凄いアイテムじゃ』

「すごいやつじゃん! オタクさんっ!」


 たいしたことないって、嘘じゃんかー!

 なんでそんな嘘を……?


「言ってしまっては、ケースケ殿が遠慮なさってしまうかなと」

「オタクさん……!」


 やっぱいい人だった!


「その蠅王の腕輪は、嵌めることで体外に出る魔力を完全にシャットアウトできるでござるよ。どれだけ魔力量が多くても、出力が凄くても。蠅王が全て食べてしまうでござる」


 おお!

 じゃあこれを着けてれば、外から見れば魔力ゼロになるってことか。


 これで人に怯えられたり、びっくりさせることもなくなる!


「ほんとに、もらっていいの? この遺物アーティファクト……」


「うむ。使ってくだされ。それで、啓介殿が安全に旅できるなら、それ以上の喜びはないでござるよ」


 うう~……。

 オタクさぁ……ん。


 僕はオタクさんに抱きついて、「ありがとっ」とお礼を言う。

 オタクさんは僕の頭をよしよしとなでてくれた。……へへ、にいちゃんみたいだ。


 僕姉しかいなかった(し、姉ちゃん恐いし)から、優しいお兄ちゃんがほしかったんだぁ。


「さて、そろそろ【お供のかた】が来る時間でござる」


 あ、そう言えば僕を妖精郷アルフヘイムまで、案内してくれる人を着けるって、言っていたね。

 だれだろ……?


「か、カバンの勇者殿っ」

「えー……あー……ディートリヒ、さんかぁ……」


 帝国に来た当初、僕に攻撃してきた、部隊の隊長……。

 ディートリヒさんが、やってきたのだ。


「えっと、なんでしょう?」

「あの……その……ええと……」


 赤い顔でもじもじするディートリヒさん。

 オタクさんが彼女に変わって説明。


「ディートリヒ様が、啓介殿と一緒に妖精郷アルフヘイムまで着いてくそうでござる」


 えー……。

 この人、あんまり好きじゃない……。

 ディートリヒさんがくる位なら、オタクさんに着いてきてほしいなぁ……。

 

 オタクさんは僕と目が合うと、苦笑する。


「申し訳ない、拙者いろいろ、やることがあるゆえ」

「そっかぁ~……」


 オタクさん今、社長ギルマスだもんね。

 結婚して、子供もいるっていうし(昨日の晩、二人でおしゃべりした)。


 気軽に外に旅できないんだね。


「わかった。じゃあディートリヒさんと一緒に、妖精郷アルフヘイムいってくるね!」


 ここで断ると、オタクさんに申し訳ないし。

 だから、彼女に案内してもらうことにした。


「ありがとう、カバンの勇者殿! うれしいぞっ!」


 お姉さん、なんか顔真っ赤にしながら、僕の手を握る。

 なんか、にぎにぎしてくる。なんか顔ちかいし。イイ匂いするけど。


「それと、私の他に、侍女が一名着いてくることを、お許しいただきたい」

「え? 侍女?」


 ディートリヒさんの背後には……。


「え、っとぉ……仮面?」


 顔に仮面を着けた、メイド服のお姉さんが居た。

 あ、怪しさ百倍……。


「彼女は【ヘルメス】。私の部下だ。魔法が得意で、何かと役に立つと思う」

「ヘルメスさん……ね。よろしく」


 ぺこっ、と仮面侍女ヘルメスさんが、頭を下げる。

 無口な人だなぁ。


「では、啓介殿。ご武運を。また気が向いたら遊びに来てくださいでござる」


 すっ、とオタクさんが僕に手を伸ばしてくる。

 僕はその手を、ぎゅっと掴んだ。


 今生の別れじゃないけど、さみしかった。

 でも……。


 僕は、勇魔のカバンを見やる。

 この中には、神眼の大勇者ミサカさんが、眠っている。


 僕は早く彼女の封印を解いてあげたいのだ。

 だから……僕は、あんまり長くとどまれない。


「じゃ、また!」

「啓介殿ぉ! いってらっしゃい!」


 馬車がガラガラと動き出す。

 僕は窓から顔を出して、手を大きく振る。


「いってきまーす! またね~!」


 こうして、僕は妖精郷アルフヘイムへむけて、出発したのだった。


~~~~~~

《チャラオ視点》


 おれはチャラオ。地球ではただの大学生やってた。

 ある日、大学で暇つぶしに立ち寄った図書館で、奇妙な本を見つける。


【四大勇者の伝説】と書かれた本? ラノベ? だった。

 それを読んだ瞬間、おれは異世界へと召喚された。


 最初はさぁ、わけわかんなくて戸惑ったよ。

 けどこの世界じゃ、おれは凄い力を持った凄い勇者様!


 こっちにいれば、地位も名誉も、権力も女も、思いのまま!

 ならもうあっちに帰る必要ねーべや、っつーことで、ここで永住決定!


 おれはワルージョ女王のもとで、いろいろやった。

 悪いやつをぶっ殺したり、ワルージョ女王に逆らうやつを処刑したり。


 そんな風にワルージョ女王のために働きまくった。

 まあ、ちょっとこき使いすぎじゃね? とは思ったよ。


 けどあの人のおかげで、おれは王国騎士団長っつー、平民で最高の地位にまで上り詰めたんだ!

 周りからは尊敬されるし、【王国最強の剣士】ってことでチヤホヤされるしよぉ。


 言うことなしっ!

 ……だったのだが。


 異世界に来て12年目のある日。

 おれは、敵対国家である帝国の馬車を襲っていた。


 理由?

 そりゃ相手が敵対国の人間だったからな。


 ワルージョ女王は言っていた。

 王国には向かうやつはみんな、敵。


 敵はバンバンぶっ殺していいってよぉ。

 だからその日も、おれは帝国の馬車を襲って、帝国人をぶっ殺そうとした。


 んで、ちょろ~~~~っと、黄金を稼ごうとした……んだがよぉ。


 なーんか、見覚えのあるような、ないようなガキに、頭をぶん殴られたのだ!

 おれはガキ相手に油断しちまった。


 だから、後れを取ってしまった。

 あんなガキに……二回も! ぶん殴られた!


 あのガキ……許せねえ!

 見つけだして、ぎったんぎったんの、ボッコボコにしてやる!


 しかし、あのガキがどこに行ったのかわからなかった。

 そしたら……。


「あの子は、妖精郷アルフヘイムに行ったみたいだよ、剣の勇者」


 王国に戻って、ガキのことを報告したところ、【四大勇者】の一人が、教えてくれた。


 四大勇者。

 それは、本来、おれシズカデブちびの四人で構成されるはずだった。


 しかし、鞄のチビは勝手に城を飛び出して魔物に食われて死んだらしい。

 弓のデブは、ワルージョ女王の寝室に入って、犯そうとしてきたらしく、城を追放されたらしい。


 チビもデブも、使えないやつらだった。

 そんなやつらを勇者にするわけにはいかない。


 ってことで、ワルージョ女王が、新たなる勇者を連れてきた。

 異世界からではなく、現地から調達したらしい。


 鞭の勇者【ムッチ・コーガン】。

 そして……。


 杖の勇者【ヘルメス・セーバー】。


 で……おれのこと殴ってきた無礼なガキの行き先を教えてくれたのは、杖の勇者だった。


「ホントか、ヘルメス? あのガキは妖精郷アルフヘイムにいるんだな?」


「ああ、間違いないよ。【たしかな筋から】の情報さ。位置は把握してるよ」


「よし! ヘルメス! 着いてこい! あのガキの元へ案内しなぁ!」


 っつーことで、おれは杖の勇者ヘルメス・セーバーとともに、あの無礼なガキをぶったおしに行くことにしたのだった。


 ……そういえば、あのガキ、鞄の勇者にどこか似てたような……。

 うーん……12年も前だし、興味も無かったから、あんま鞄のチビの顔覚えてねーなぁ……。


 

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