第5話 魔王を収納、超レベルアップ



 僕、佐久平さくだいら 啓介は、ダンジョンで高慢の魔王スペルヴィアさんと出会い、友達になった。


「それで、これからどうする? スペルヴィアさん」

『スペでよいぞ♡』


 菓子パンをたらふく食べたためか、すっかりご機嫌の魔王スペさん。


『そうじゃのう……我としては、ケースケとともにここをでたい……が、我は封印されておるでな』

「その封印っていつ、誰がしたの?」


『遠い昔に、勇者が……な』


 僕らとはまた別の、異世界から召喚された勇者が、スペさんを封印したみたい。


『あやつは凄い力を持っておってな。【絶対結界】の力で、我をこの地に封じよったわ』


 そう語るスペさんは、なんだかさみしそうだった。

 勇者と魔王がどういう関係なのか……今の僕にはわからない。


 だから、今の僕ができることをしよう。


「封印って壊せないの?」

『何度か壊そうと思って、試したのじゃ。しかしこの結界、堅牢でな』


 鑑定スキルを使ってみる。


・絶対結界

→物理、魔法等、どんな手段を用いても、決して壊れない結界。


 ううん、どうやら何をやっても壊せないようだ。

 ……ん?


 壊せないなら……。


「ねえ、スペさん。君は僕と一緒に外に出たいんだよね?」

『うむ。もうひとりは嫌じゃ……』


「じゃあ、スペさんがよければだけどさ、このカバンの中に、入ってみない?」


 勇者のカバンは、モンスターを収納できた。

 スペさんは魔王、モンスターだ。


 なら、魔王を収納できるかも知れない。


『そ、そのようなことが可能なのか……?』


 僕は簡単に、勇者のカバンについて説明。


『し、しかし絶対結界があるから……』「絶対結界は壊せないってだけ。収納は、できるかもしれないじゃん?」


『! ……なるほど。………………わかった。おぬしのカバンに入れておくれ!』


 よし。

 僕はカバンをガバッ、て開く。


 すると……。

 ゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ……!


 カバンからまた突風が吹きすさぶ。

 スペさんがカバンに引き寄せられる……。


 けど。


 バチィッ!


『くっ! やはり結界が我を阻むのじゃ!』

「そっか……」


『……ありがとう、ケースケ。我を連れ出そうと、努力してくれて。その気持ちだけで嬉しいぞ』


 ……だめだ。

 ぜんっぜん嬉しそうじゃない。


 僕は……諦めない。

 独りぼっちは嫌だもん。


「待てよ? スペさん単体だけを収納して、失敗した。なら、結界を取り込むのはどうかな?」

『どういうことじゃ?』


「つまり、絶対結界ごと君を取り込むの」


 結界内のスペさんを取り込もうとすると、結界に阻まれる。

 スペさんを包み込む結界ごと取り込めば、中のスペさんも、カバンの中に入れられるのでは無いか……?


 毒大蛇ヴァイパーに襲われたとき、溶解毒を取り込めたように……。

 結界も取り込めるんじゃ無いかって……


「上手く行くかはわからないけど」

『やっておくれ、ケースケ!』


「わかった。いくよ……収納!」


 ゴォオオオオオオオオオオオ!

 スペさんを包み込んでいる結界が、ずずずずう……とカバンの中に吸い込まれていく。


『なんということじゃ! 結界が吸い込まれていくぞ!』


 スペさんごと、結界がカバンの中に収納された。


『【絶対結界】を収納しました』

『【魔王スペルヴィア】を収納しました』


 やった!

 成功だ!


 スペさんを収納できたぞ!


『聖武具のレベルが上がりました』


 ん?


『聖武具のレベルが上がりました』

『聖武具のレベルが上がりました』


 え?


『聖武具のレベルが上がりました』

『聖武具のレベルが上がりました』

『聖武具のレベルが上がりました』

『聖武具のレベルが上がりました』

『聖武具のレベルが上がりました』

『聖武具のレベルが上がりました』……


「ちょ、ちょちょっと! どんだけレベルあがるの!?」


 そう言えば、毒大蛇ヴァイパーを収納したときも、聖武具のレベルが上がったって言っていた気がする。


 勇者のカバン(聖武具)って、もしかして、収納するモノがすごければすごいほど、レベルが上がるのかな……?


『聖武具のレベルが上がりました』

『聖武具のレベルが上がりました』

『聖武具のレベルが上がりました』


 ……アナウンスはしばらく続いた。


「と、止まったぁ……超うるさかったんですけど……」


 一体どれくらい、聖武具のレベル上がったんだろう……?


「鑑定」


・勇者の鞄(Lv103)

固有スキル:ボックス

派生スキル:

魔物モンスターボックス

魔法マジックボックス

■庭ハコニワ


「れ、レベル……103!?」


 ……。

 …………。

 ………………って、どんなもん?


「基準がわからない……。レベル103って結構高い気がするけど」


 レベル上限が4桁だったら、僕はまだまだってことになる。


 こういうとき、他の勇者がいれば、これがどんなもんなのかわかるのにな。

 ああ、早くオタクさんに会いたい……。


「って、そうだ! スペさんどうなったんだろう? カバンの中に収納できたけど……」


 モノを収納することはできた。

 なら、取り出すこともできるはず……。

 でも、どうやって取り出すんだろう。


魔物モンスターボックスから、【魔王スペルヴィア】を取り出しますか』


 またあの女の人の声が聞こえた。

 なんなんだろう……。


 まあ、今は考えてもしょうがない。


魔物モンスターボックスから、【魔王スペルヴィア】を取り出しますか』


 YES。

 すると……カバンから、小さな黒い箱が出てきた。


 僕は箱を掴む。

 ええと……。


「ゆけ、僕のポケ●ン! なんちって」


 ぱかっ! 

 箱の蓋が開くと……。


 カッ……!

 まばゆい光が箱の中からあふれ出る。


 そして目の前には、あの、大きなフェンリルが姿を現したではないか!


『信じられぬ……封印が、解けたのじゃ……』


 スペさんは目を剥いていた。

 解けるとは思ってなかったのかな。


「良かったね、これで君は自由だよ」


 友達が自由になれて良かった良かった。

 するとスペさんは涙をボタボタとタラシながら……。


『ウォオオオオオオオオオオン! 自由だぁ……! ウォオオオオオオオオオオオオオオオオン!』


 スペさん、歓喜の遠吠えがダンジョン内に響き渡る。

 よっぽど嬉しかったんだね。助けて良かった。


『ありがとう! ありがとう、ケースケよ! 心から、感謝するぞ!』


 気が遠くなるくらい、長い間、地下に封印されていたんだ。

 自由になれて嬉しかったんだね。

 

「いえいえ。どういたしまして」

『これより我は、おぬしの従魔として、側にずっといよう!』


「従魔?」

『使い魔のことじゃ』


 使い魔……。なんとなく、魔法使いの側にいる黒猫的なものをイメージする。

 

「別に使い魔じゃ無くて、友達でいいんだけど……」

『まあ良いでは無いか。ほれ、動くでないぞ』


 スペさんが僕の額に、鼻先をちょん、とくっつける。

 瞬間……。


 カッ……!!

 またしても、スペさんの体が輝いた。


 ぐんぐんとスペさんの体が縮んでいき……。


「おお、人の姿になったのじゃ」

「ええええ!?」


 そこには、爆乳のお姉さんがっていた!

 紫がかった、銀の長髪。


 メリハリのきいたボディ。

 頭からは犬耳、お尻からは犬尻尾……。

 グラビアアイドルも裸足で逃げ出すほどの、美女がそこにはいたのだ。

 一糸まとわぬ姿で!


「な、なんで人間!?」

「従魔は契約主に奉仕するのに、最も適した姿に変身できるのじゃ」


 ほ、奉仕って……。

 え、えっちぃこと!?


「そういうのいいから……。服着て」

「ふむ? そうか。では……」


 ぽんっ、とスペさんが姿を変える。

 今度は手のひらに載るくらいの、子犬になった。


『これでどうじゃ?』

「ああ、うん。これなら……まあ」


 スペさんが僕の体を伝って、肩に乗っかる。


『これよりこの、高慢の魔王スペルヴィア、我が主に寄り添い、あらゆる敵を排除してくれよう』


 なんとも頼もしい限りだ!

 勇者の鞄もあるし、スペさんもいる。これなら……外に出れるぞ!


『む? さっそく高い魔力反応が近くにあるぞ』


 スペさんが鼻をクンクンさせながら言う。


「高い魔力反応? どういうこと?」

『我は魔力感知といってな、周囲にある魔力を帯びたモノを、感じ取ることができるのだ』


「魔力を帯びたモノって?」

『たとえば人間、魔物モンスター、アイテム……などじゃな』


 なんと。

 レーダーみたいな機能が、スペさんには備わってるのか!


 すげえ……。


『どうする? 避けるか?』

「ちょっと気になるから、様子を見にいこうかな」


 それに、勇者の鞄レベル103が、どれくらい強くなったのかも気になるし。


 ということで、スペさんに案内してもらって、魔力反応がする方へとむかうと……。


「あ、白骨死体だ」


 そこには、白骨死体。

 ……あれ? もしかして……。


「この人も、勇者……?」

『かもしれぬな。ケースケと、似たような魔力の反応を示しておるのじゃ』


 そんなことまでわかるなんて!

 スペさん凄い……。


 僕と同じ、廃棄された勇者は、やっぱりいっぱいいたんだね。

 ……放置するのも、可哀想だ。


「スペさん、他にも勇者の遺体って、ありそう?」

『うむ。この近辺に、いくつもあるな』


「じゃあ、全部の場所教えて。全部回収したいから」

『心得た』

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