第6話 勇者の遺体と超レアアイテム収納して、超絶レベルアップ



 僕は地下で、高慢の魔王スペルヴィアさんと出会い、彼女と契約した。


 スペさんは魔力感知という特殊な技能を持っていた。

 周辺にあった、勇者の遺体を全て回収。


・鍋の勇者

・針の勇者

・靴の勇者

・箒の勇者

・鏡の勇者


 以上、五人分の遺体を回収した。


「短剣さんと僕を含めて、七人。こんなに捨てられてたんだ……」

『あくまで、この階層では、の話じゃ。上の階層にもいるやもしれんぞ』


「上の階層……?」

『このダンジョンは250層あるからの。ここは、最下層じゃが』

「最下層!? そうだったんだ……」


 あくまで最下層から出れない勇者が、7人いたってことか。

 このダンジョンにはほかにも勇者がいるかも……。


 ……しかし僕は、ラッキーだった。

 取り寄せカバンのおかげで、水にも食料にも困らなかったし。


 それに何より、脱出の最大の関門である、魔王スペさんと友達になれたことも大きい。

 敵対では無く、友好の道を選んだからこそ、僕は無傷で、楽に脱出できるのだから。


 さて。


「鍋さん、針さん、靴さん、箒さん、鏡さん……。あなたたちの力は、有効活用させてもらいます」


 5人の勇者の死骸を、僕はカバンにしまった。

 彼らの死骸をつれて、元の世界に帰れるかはわからない。


 けど少なくとも、ここに放置され、誰からも忘れられるよりはいいかなって、思った。

 だから、連れてくことにした。


『勇者の鞄に、死骸を入れることで、そいつが持っているスキルを獲得できるようじゃな』


 習得したスキルは、以下の通り。


~~~~~~

・勇者の鍋

→調理(最上級)、絶対切断、加温。


・勇者の針

→裁縫(最上級)、麻酔針、鋼糸


・勇者の靴

→ウォーキング、空歩、縮地


・勇者の箒

→クリーニング、浄化、突風


・勇者の鏡

→ミラーサイト、反射、幻影

~~~~~~


「一気に15個も、新しいスキル覚えちゃった」

『どれも非常に強力なスキルじゃのぅ。なぜ彼らは廃棄されたのかの』


「うーん……まあ、どれも強そうな聖武具じゃないからかもね。針とか、靴とかじゃ」


 僕のカバンも然りだけど。

 王族は聖武具の見た目だけで、使えないって思って、勇者達をここに捨てたんだろう。

 

 酷い人たちだ!

 聖武具に付属されてるスキルは、どれも強力だって言うのに!


「戦いで使えなくても、裏方で頑張る道だってあったはずなのに……」

『まあ、そのワルージョって女王が、人を見た目で判断する阿呆だったということじゃろうな』

「うん。そうだね……。ひどい奴だ全く」


 さて。


『では脱出するかの』

「うーん……」


『どうした?』

「正直、脱出できるかな。マッピングスキルを見る限りだと、スペさんの部屋を出たあとも、外に出るまで、結構距離あるし」


 水、食料は取り寄せスキルでなんとかなる。

 魔物モンスターとの戦闘は……短剣さんを含めた、廃棄勇者さんたちの力を使えば、何とかなる気がする。


 フェンリルであるスペさんもいることだし。


 でも……。


「一番心配なのは、ケガだよ。いくら勇者のスキルや聖武具をもってるからって、僕……普通の15歳だし……」


 特殊な戦闘訓練を積んだ人間じゃないんだ。

 マンガの主人公のように、魔物とバチバチに戦闘を繰り広げられるわけじゃない。


『お主には、何でも吸い込む勇者の鞄があるではないか。戦闘なんて起きんよ。吸い込んで仕舞いじゃ』

「うーん……でも、不意打ちされるかも……」


『我が魔力感知で、魔物の不意打ちを全て防ぐのじゃ』

「なるほど……でも、たとえば落とし穴とかあったら? ケガして動けなくなるのは嫌だよ」


『おぬし……意外と先を考えるでは無いか。後先考えないタイプと、姉上に言われておったのではなかったか?』

「まあ……ね。でも……廃棄勇者さんたち見てたらさ……ちょっと本当に外出るのかなって心配になっちゃってね」


 外に出れず、白骨死体となった勇者達。

 そこに、自分の未来をどうしても重ねてしまう。


『ケガについては安心せい。良いモノがあるのじゃ』

「良いモノ……?」


『うむ。とりあえず、我が封印されておった場所へ移動するぞ。そこに目当てのものがあるのじゃ』


 あの部屋に何かあったかな……?

 まあ友達の言葉を疑いたくないので、言われたとおり、スペさんが封印されていた部屋と戻る。


『ほれ、我が座っていた場所の周りの壁から、紫色のデカい結晶が生えておるじゃろ?』

「わ、ほんとだ。綺麗な石……」


 クラ●シュバンデ●クーの、パワーストーンみたいな、紫色の尖った結晶が、地面から生えていた。


 ここに最初来たときは、スペさんにビビって、周りの様子に気づかなかったや。

 こんな綺麗な結晶があっただなんて……。


「鑑定」


・魔力結晶(最高品質)

→周囲に流れる魔力が、長い時をかけて貯まり、結晶化したモノ。非常に脆い。


「魔力結晶……魔力の塊ってこと?」


『うむ。魔力は森や地下といったら、ジメジメとした場所に貯まりやすいのじゃ。そして、ここは我から漏出した魔力も合わさり、とても高濃度な魔力プールとなっておるでな』


「なるほど、だからこんなにたくさん、魔力結晶があるんだね。それで、この結晶がなに?」

『結晶の先端をよく見るのじゃ。なにかがしたたり落ちておるじゃろ?』


 スペさんの言うとおり、結晶先端部から、ぴちょん……ぴちょん……と液体が垂れている。


 僕は手でそれを掬って、鑑定スキルで調べてみる。


・魔神水

→魔力結晶からあふれ出した液体。これを飲んだものはどんなケガも病気もなおる。部位欠損を再生する力は無いが、飲み続ける限り寿命が尽きない。



「魔神水……すげー。つまり、この水、凄い回復薬なんだね!」

『うむ。魔神水をそのカバンの中にいっぱい詰めておけば、ケガをしても治せるじゃろう』


 なるほどぉ~。

 ん? 待てよ……。


『どうした? カバンに魔神水を詰める作業せぬのか? 我も手伝うぞ』

「いや……ちょっと思いついたんだけどさ、この魔力結晶持っていけば、今後も魔神水を取り放題なんじゃない?」


 カバンに詰めて持っていったら、詰めた分しか使えない。


 でもこの結晶まるごと持って行ければ、今後もずっと魔神水に困ることはないじゃん。


『それは難しいのう。魔力結晶は、品質が上がるほどもろくなるのじゃ。つついてみ?』


 僕は魔力結晶を、軽く指でつつく。

 パリィイイイイイイイイイイイイイイイン!


 魔力結晶は粉々に砕け散ってしまった。


『最上級の採掘スキルがあれば、この魔力結晶を持って行けるじゃろうがな。それでも、1000回採掘を試みて、せいぜい1回成功するかどうかレベル』


「そんなにこの、最高品質の魔力結晶、回収するの難しいんだ……」


『うむ。まあほぼ不可能と同義と思ってよい。アイディアは良かったが、採掘して持っていくのは不可能じゃ』


 ……ん?

 採掘して持っていくのは不可能……。


 ってことは……。

 採掘しなければ、魔力結晶を傷つけなければ、持って行けるんじゃない?


「よし……」


 僕は勇者のカバンの口を開く。


「収納!」


 ゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!


 カバンの口からまた突風が吹く。

 壁から生えていた魔力結晶が、ずぼっ、と抜ける。


 そしてカバンの中に、壁中に生えていた、最高品質の魔力結晶が、全て収まった。


『【魔力結晶(最高品質)】を収納しました』

『【魔神水】を収納しました』


 よし!

 やっぱりだ!


 採掘せず、こうしてカバンの力で収納すれば、魔力結晶を壊さずに回収できる!


「スペさん、見てみて」


 僕はカバンの中に手を突っ込む。

 そして、念じながら、カバンからそれを取り出す。


「じゃーん」

『!? ま、魔力結晶!? 採掘スキルもないのに、どうやって!?』


「勇者のカバンに収納したんだ。ほら、絶対結界みたいな、よくわからないものでも収納できたでしょ? だから、魔力結晶も収納できるかなって……」


 けどこの魔力結晶、変だ。

 さっき指でつついたときは、簡単に砕け散った。


 でも今僕が持っているこれは、壊れる様子がない。


 続いて、魔神水を取り出す。


「わ、なんだこれ……黒い箱……?」


 僕の手には黒い箱が握られていた。

 蓋を開け、傾ける。


 ちょろちょろ……。


「箱から魔神水が出てきた。うん、問題なく魔神水も収納できてるみたい……って、どうしたの、スペさん?」


 スペさんが、あんぐりと口を開きっぱなしにしていた。


『信じられぬ……。不可能とされている、最高品質の魔力結晶の採掘を実現するだなんて……。すごいのじゃ』


 こうして僕は、勇者さんたちからスキルを獲得。


 そして、スペさんの巣にあった大量の魔力結晶(最高品質)、そして無限に近い魔神水を、ゲットしたのだった。


 これだけあれば脱出できるかも!

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