第7話 高レベル魔物を超余裕で倒す



 勇者の遺体、魔力結晶を収納した僕は、いよいよ、地上を目指して出発した。


『地上は遠いぞ。このダンジョンは250階層あるからのぅ。しかも歩いてじゃ、おそらくは2~3か月くらいはかかると思われるのじゃ』


 僕の方に乗っている、魔王スぺさんが言う(子犬姿)。

 2~3か月もかかるのかぁ。遠すぎ!


 でも大丈夫。

 僕には勇者の皆さんからいただいた力、そしてこの勇者のカバンがある。


 それに、話し相手のスぺさんもいるからね。

 意外と何とかなりそう。


「よし、出発!」


 てくてく。

 てくてく。


『む? ケースケよ。5メートル先、岩陰に魔物がおるぞ』

「わ、スぺさんありがとう。よくわかったね、5メートル先の敵なんて」


『ふふふ、我には魔力感知スキルがあるでな。魔物の気配をいち早く察知できるのじゃ』


 スぺさんのおかげで、不意打ちで魔物に襲われることはなさそうだ。

 さてさて、魔物か……。


 これが初戦闘だ(毒大蛇は例外。あれは襲われただけ)。

 さて、どの力を使おうかな。


『我が行って食い殺してこようか?』


 スぺさんはフェンリル、伝説の獣だ。

 並大抵の魔物には負けない、と豪語していた。


 スぺさんに任せれば安全かもしれない。

 でも……。


「僕がやるよ」

『む? よいのか』


「うん。友達に命令するのって、なんか嫌だし」


 友達に戦わせて、僕だけ後ろで高みの見物なんて、気持ちよくないもね。


『助かるのじゃ。我は本来の姿を保つのに、かなりエネルギーを使うからの』

「あ、そうだったんだ」


『うむ。あの姿は無敵じゃが、燃費が悪くてな。いっぱい食べねばならないのじゃ』


 なるほど……。つまり、フェンリルになれば、どんな敵も倒せる。

 でもそうなると、ご飯をたくさんあげないといけない。


 ご飯を取り寄せるのにもお金がかかる。お金は今んとこ有限だ(短剣さんが持っていた30万ゴールドしかない)。

 お金は節約しないといけない。


 よって、戦いはなるべく自分でやることにしよう。

 どうしてもだめってときは、スぺさんを頼るけどね。


『して、どうやって敵を倒すのじゃ? 近づいて武器で倒すかの?』

「うーん、いきなり魔物と直接戦闘は、こわいかなぁ。遠くから攻撃してみるよ」



 僕は勇者から習得ラーニングした、スキルを思い出す。

 その中で戦闘に使えそうなスキルは……。


「鍋さん、スキルお借りします」


・勇者の鍋

固有スキル:調理(最上級)

派生スキル:絶対切断、加温


『固有スキルとは、聖武具を装備してるときのみ使用可能なスキルじゃ。派生スキルは装備してない状態でも使えるぞ』


 スペさん、ナイスぅ。

 やっぱり、この世界の生きたガイド役がいると、とても助かるな!


「じゃあ、絶対切断使ってみよう」


・絶対切断(SSS)

→視界に入れた敵を切断する。威力は聖武具のレベルに依存する。


『いやこれ過剰戦力じゃ……』

「いくぞぉ!」


 僕は手を前に出す。

 魔物が隠れてる、岩ごと……。


「【絶対切断】!」


 ズバァアアアアアアアアアアン……!


 あ、あれぇ?


「岩がまるごと、消し飛んじゃった!」


 5メートル先にあった岩が、そしてその陰に隠れていた魔物ごと、消滅してしまった。


『なんという凄まじい威力じゃ……』

「これこんな凄いスキルだったんだね……こわぁ……」


 敵は倒せたけど、こんな危険なスキル、人前じゃあんまり使えないなぁ。

 てゆーか。


「できれば、魔物を倒して、回収したいんだよね」

『ふむ? その心は?』


「地上に出たとき、それを売ってお金にしたいからさ」


 ネット小説だと、ギルドで魔物の死骸を買い取ってくれる、みたいな描写があった。

 ここもそういうのあるかなって。


『たしかに冒険者ギルドで、魔物の死骸や素材を買い取ってくれるな』


 やっぱり!

 じゃあ、なおのこと、魔物は原型が残るような感じで、倒して回収したいな。


「絶対切断は、ちょっと封印で」

『そ、そうじゃな……ここの敵相手じゃ、オーバーキルすぎるしのぅ』


 そう言えば……。


「ここの敵って強さどれくらい? スペさんより強いの?」

『まさか! 我の方が強いぞ!』


 あ、そうなんだ。

 スペさんがこの世界でどれくらい強いのか知らない。


 この世界の基準がわからない。


 けど、ま、スペさんより弱いってことは、安心だね。

 そんなに強い魔物はいないってことだもん!(←※そんなことはないと後に判明する)


 さて。

 ダンジョンを進んでいく。


 てくてく……。

 てくてく……。


『9メートル先に敵じゃ。どうするのじゃ?』


 スペさんが魔力感知で敵を見つけたようだ。


「スキルを使って、敵の姿を確認してみるね」


 僕はまた、別の勇者から習得ラーニングしたスキルを使う。


・勇者の鏡

固有スキル:ミラーサイト

派生スキル:反射、幻影


 僕はカバンから、勇者の鏡を取り出す。

 小さな長方形の、鏡って感じ。

 折りたたみケータイみたいな大きさ。


『今更じゃが、他の聖武具、おぬしは使えるのか?』

「うん、普通に使えたよ」


『なんと! 聖武具は、その所有者しか使えぬはずじゃなかったかの?』

「うん。でも、なんか使えたし」


『勇者の遺体を、収納してることが関係してるのかかのぅ……』


 真偽は不明。

 スペさんも、この世界の何もかもをしってるってわけじゃないみたい。


 聖武具は勇者の武器だし。

 それにスペさん、1000年くらい封印されているみたいだからね。


 最近の出来事には、詳しくないんだってさ。


・ミラーサイト(SSS)

→1対の魔法の鏡を出現させる。

 鏡を動かし、そこにうつる映像を、もう片方の鏡と共有する。

 また、鏡を通して、物を転送することも可能。


「遠くのものを見るだけでなく、そこへ物体を転送までできるんだ。わー、便利ぃ」


 ほんと、こんな凄いスキル持っている勇者を廃棄するなんて、ワルージョは頭弱いなぁ。


「ミラーサイト、発動」


 僕の目の前に、勇者の鏡と同型の鏡が出現する。

 

 僕の持っている鏡に、もう片方の鏡の映像が映し出された。


「スペさん、敵の位置って把握できる?」

『容易いことじゃ。魔力感知を使えばな』


 敵の位置がわかるから、そこへ鏡を移動させる。

 敵は、鏡に気づいてないようだ。


 鏡には、1匹の大きなトカゲが映っていた。


黒炎蜥蜴ブラック・サラマンダーじゃな。火を噴くオオトカゲじゃ』

「スペさん、魔物にも詳しいんだね! すご……!」


『まあの。ただ、封印されておったからな、最近の出来事、特に外の様子については、まったく知らんぞ』

「それでも、十分だよ。色々知ってて頼りなるなぁ、スペさんは!」


『よ、よせやぁい♡ 照れるのじゃぁ~♡』


 肩の上で、スペさんが嬉しそうにきゃんきゃん鳴く。可愛い。


「っと、今は戦闘中だったね」

『どうやって敵を倒すのじゃ?』


 絶対切断だと、敵が消しとんじゃう。

 ならば!


・勇者の針

固有スキル:裁縫(最上級)

派生スキル:麻酔針、鋼糸



・麻酔針(SSS)

→非常に強力な睡眠魔法が付与された針を飛ばす。針が皮膚に刺さると、敵は深い眠りに落ちる。


「麻酔針!」


 僕は手を前につきだして、スキルを発動。

 

『しかしここから敵まで、9メートル離れておるぞ?』

「もーまんたい。それ! いけ!」


 僕は鏡にむかって手を伸ばす。

 手のひらから、細い透明な針が射出される。


『! 針が鏡をすり抜けた!』

「ミラーサイトの力だね」


『そうか! 物体を転送できる。魔法の針も物体じゃから、針を転送し、遠くにいる黒炎蜥蜴ブラック・サラマンダーに針が当たるというわけか! すごいのぅ!」


 ぶすっ、と黒炎蜥蜴ブラック・サラマンダーの皮膚に、麻酔針が刺さる。

 黒炎蜥蜴ブラック・サラマンダーは白目を剥いて倒れた。よし!


「じゃ、とどめを刺しにいこう!」


 僕は黒炎蜥蜴ブラック・サラマンダーのもとへとむかう。


 敵はぐーすかと眠って……。

 眠って……。

 いや。


「『し、死んでる……』」


 麻酔針を受けて、眠っているはずの黒炎蜥蜴ブラック・サラマンダーが、白目剥いて淡吹いて死んでいるのだ!


「非常に強力な睡眠魔法が付与されてるって言ってたけど、まさか刺した相手を永眠させるなんて! ちょっとした兵器だよ! こわぁ……」


『いや、ケースケよ。おそらくじゃが、おぬしのせいで、こうなってるのだと思われるぞ?』


「どういうこと?」

『通常、スキルの効果は、使用者のレベルに依存するのじゃ』


 レベルに依存……。

 レベルが高いと、そのスキルの効果も高くなるってことか……。


「それが?」

『お主の聖武具のレベル、確認してみ?』


・勇者の鞄(レベル124)


「あれ? レベル……なんかさっきより凄い上がってる!」

『なにぃい!? どういうことじゃぁ!』


 あれ、これはスペさんも想定外みたいだった。


『聖武具のレベルの上がり方が異常じゃ! どうなっておる……って、ん? あれ? ケースケよ、おぬし……その靴……もしかして……?』


「ん? これ? 勇者の靴だよ」


・勇者の靴

固有スキル:ウォーキング

派生スキル:空歩、縮地


・ウォーキング(SSS)

→歩いても一切疲れない


「ウォーキングスキルが付与されててさ、これなら歩いても全然疲れなくていいかなって……」

『そうか……そういうことか!』


「どういうこと?」


 スペさんは真剣な顔で言う。


『おぬし、聖武具を今いくつもっておる?』

「鞄、短剣、鍋、針、鏡、靴、箒……全部で7つ。それが?」


『おぬしは7つ聖武具を持っている。で、聖武具のレベルは、どうやら共有されるようじゃ』


「???? どういうこと?」


『つまり、お主は7つ聖武具を持っておるから、他の勇者の、七倍のスピードで、レベルが上がるのじゃ』


「え、ええー!? 七倍ぃ!」


 そっか。


 つまり、勇者の靴を使う(ウォーキングスキルを使用)と、靴だけじゃなくて、僕のメイン聖武具である、カバンのレベルも上がるんだ!


『勇者の針のレベルも同様に上がっておったのじゃ。それゆえ、麻酔針スキルの威力がとんでもないことになっておったのじゃろう……ううむ、すごい……』

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